産声


    

分娩室から赤子の産声が響く。

僕が生まれた日

父は47歳

母は46歳

母は一度

流産を経験し僕を身籠った。

高齢出産は大きなリスクを伴う。

病院であらゆる検査を行った。

障がいを持って生まれる可能性は高い。

そう医者に告げられた。

それでも母は僕を出産する決断を下した。

そして

1990年8月29日 16時59分

僕は大きな産声を上げ無事に生まれた。

僕には兄が居た。

当時、5歳の兄だ。

真っ白な院内、病室の窓から光が差していた。

母は病室のベッドの上で
僕を大事そうに抱え僕を見つめていた。

病室の扉を開け駆け込んで来る兄と父

父は嬉しそうに母を軽く抱き寄せ

小さな僕の顔に触れた。

母は疲れた顔をしていたが笑顔を覗かせる。

兄は不思議な生き物を見るように

生まれたばかりの僕を見つめた。

兄にとって初めての弟

兄は僕の手に触れた。

小さな僕の手は兄の指を握る。

すると兄は無邪気に笑った。

兄の笑顔につられる様に父も母も笑った。

新しい家族が増えた日

兄と僕

母親は同じでも父親は違う。

この当時、兄も僕も何も知らず。

本当の兄弟だと思っていた。

公害に苦しんだ街で

何一つ疑わず家族の暖かさに包まれ

僕は少しずつ大きくなっていった。