〈CUP vol.2〉その13

俳優 キム・ナムギルの
対話集 後:) 談話




p.174.175


人間の利己心で育てられた熊たちを
汚れのない風景と素朴さで世話をする
獣医師 「チェ・テギュ」と「ト・ヂエ、チョ・アラ、キム・ミンジェ、カン・ジユン」
活動家たちの日常

華川(ファチョン)



p.176
華川郡(ファチョングン) 下南面(ハナムミョン) ゲートボール場周辺

p.177
居礼里(コレリ) 愛の木(サランエナム)



p.178
華川(ファチョン) 北漢江(プカンガン) フナ島(プンオソム)

p.179
赤く染まっていく紅葉


p.180

清潔で穏やかな
自然がもたらす
生活のゆとりと
癒しを与える
豊かな心


p.181
・・・   人口が3万人に満たない江原道の小さな郡ですが、いつの間にか徐々に浸透していく華川(ファチョン)。山の曲がりごとに山紫水明な自然の驚異的な姿と素朴な町が調和していく。村のあちこちに咲いた小さな野生の花と草の香りが心の中に長い余韻を残す。

山と水が織り成す景色と花と草の香りが広がる華川では星と月も一緒に調和する。都市から消えた星と天の川で満たされたここの透明な夜空が目に満ちている 。このような自然の綺麗な静けさが、疲れた日常に一拍休んでいける人生の余裕と慰労を渡す。

華川はこのように自然に近い人々が集まり、その豊かな心で、人生を失った熊たちにも棲みかを与え世話をしている。彼らはここで熊のサンクチュアリ(保護施設)を作り、熊たちの生活を回復させるために、人々から傷つけられた心と傷を撫でながら慰めてやる。そんな寛大で豊かな心が、汚れていない素朴な華川の風景の中に染み込み、さらにきらめく。


p.183

「飼育クマ」ではなく「知り合いのクマ」として
生きて欲しい理由
疎外された生命に直面する
獣医師「チェ・テギュ」と
「ト・ヂエ、チョ・アラ、キム・ミンジェ、カン・ジユン」 活動家



p.184
野生の生活を奪われた飼育クマたちの
真の棲みかを夢見て13頭の
飼育クマを救出して抱く
「クマのすみかプロジェクト」の活動家たち。
好きなことを超えて辛くても
活動を続ける青年たちの本音。
クマのすみかプロジェクトの活動家を
職業に選んだ理由は
何だろうか。
人間の欲のために育てられた
野生の生命に向けた彼らの活動は
しばらくは忘れてしまった、この社会が
返すべき人間性かもしれない。


チェ・テギュ


p.186
キム・ナムギル-私は撮影しながら馬に乗るシーンが多くて、自然にメディアに出演する動物に興味を持ちました。そこで、私たちの文化芸術NGO「ギルストーリー」でも、斃死の危機に瀕した退役競走馬を治療・保護し、メディアに出演する動物の処遇を改善するための「馬の仲間キャンペーン」を行っているんですよ。ところが、ここに来て活動家の方々にお会いして、「あぁ、本当に動物権に対する社会的認識転換が必要だな」と改めて感じました。そして、サンクチュアリ(鳥獣保護施設)という言葉自体が、まだ聞き慣れない言葉でしょう。「避難所、安息所」という意味もあり、「野生動物園」とはまた、違うと思います。

チェ・テギュ-動物園は人間のための展示目的や絶滅危惧種を保全するために飼育状態で繁殖させ野生に送り出す役割、教育と研究の役割を自任しますが、それは人間の目的なのです。絶滅の危機から動物を救うという概念も実は動物は理解できませんし、彼らにとっては重要な問題でもありません。ですから、サンクチュアリは倫理的であろうとなかろうと、人間の特定目的を達成するために動物を育てるのではなく、動物の世話自体が動物を閉じ込める理由になるところです。動物たちの生活の質を大切にするという点が、動物園と最も大きな違いだと思います。施設をはじめ見た目は、動物園とサンクチュアリは大きく変わりません。

キム・ナムギル-形は似ているが役割は完全に違う … では、動物園とサンクチュアリを比較するのは無理ですね。


p.187
チェ・テギュ-ある面では似ていて、それを見分けるのが難しいというのが自然な気がします。世界の様々な国にサンクチュアリ(鳥獣保護施設)はあるんですが、それを法制化した国はないんですよ。とにかく野生動物の飼育施設なんですよ。その違いがとても曖昧で区別しにくいので、現在は動物園とサンクチュアリをどう分けるかという問題で、人々が議論を始める段階のようです。私はそれでも比較はしなければならないと思います。保護施設を作っておけば、動物園と何が違うのかという質問が出るしかないので、その話は必要なんです。今はサンクチュアリがどのように違うべきかについての話が国際的に語られるレベルで、また、動物園の役割が何なのか、まだ韓国できちんと議論されていないので、引き続き出てこなければならない質問ですね。
サンクチュアリは人間の目的のためではなく、動物の安危と福祉を守ることが目的にならなければなりません。野生で生きて、人が育てることに適して進化したことのない動物を閉じ込めて育てるときには、適当な理由がなければならないのに、動物園の合理化は、保全・教育・欲求によって行われています。だからといって、これらをすべて野生に放すかというと、生産能力が無くて野生で生き残るのが難しくなる。サンクチュアリは人がすでにこの社会の中に連れてきて閉じ込めておいた野生動物をどうするかという問題で、その解決策として、この動物をこれ以上増やしたり、娯楽の対象にせずに保護しよう。それで結局は私たちの社会で野生動物を飼わないことにしよう!というメッセージを伝えることがその方向性になるべきだと思います。


p.188
キム・ナムギル-結局、その運営目的がどこにあるかということですね。では、獣医さんは色んな野生動物の中からクマを選んだ理由があるんでしょうか?クマが好きだとか。

チェ・テギュ-特にクマが好きだとかではないですよ(笑)。しかし、クマは国際絶滅危惧種なので、食べるためには飛び越えなければならない事が多いです。
まず、産業化された社会で「野生動物を食べる」 で一度、「その野生動物が国際的絶滅危惧種だ」でもう一度、これがなんと農業産業で「国が合法化した産業だ」 という点まで、話にならない要点が多いのです。それで最初は簡単そうに見えました。「まだこんなに馬鹿なことをしているのに、誰も取り立たさないので、そうだ問題提起さえすれば済む問題だな」 と。
韓国でクマが機能的に絶滅したのも人間が食べ過ぎたからです。これは国が制度的に強力に防ぐべきだったのに、知らないふりをしたのです。私が多くの野生動物の中でクマを選んだのではなく、「クマの問題がおかしいほど解決されていないから」 と言ったほうが正確です。
クマ農場があるということを1990年にニュースで聞いたんですが、2023年にもクマ農場は進行中の話なんです。当時私は小学生だったのですが、熊胆を採取するために屠殺するのではなく、生きている熊の腹に鉄のベルトをつけてホースを差して生きたまま食べるということをそのニュースを見て初めて知りました。その技術は当時流行していましたが、飼育農家ではそれが合法か違法かの基準もなく、さらにある新聞記事では

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熊胆を抜く新技術として紹介されたりもしました。その時は「クマにああしているんだな」と思ったのですが、まだ続いているということは、後になって分かりました。それが知らず知らずに印象に残ったようです。
その後.2014年から2017年まで全国にいる飼育クマを去勢したそうです。政府の単独決定ではなく、動物保護団体、環境団体、教授までいわゆる専門家たちが集まって、会議の末に飼育クマの個体数をこれ以上増やさない方法として去勢を決めたのです。去勢後に再び鉄格子に入って生きなければならないクマに対する対策は議論されていません。余計な手術を経て死んだり病気になったりしただけで、クマたちの人生は壊れない対策でした。それがクマのサンクチュアリを運営する決定的なきっかけです。去勢はクマにとってはとにかくもう一つの侵襲的な手術であり、苦痛を感じさせることだし。そのような決断を見守るともどかしい気持ちになり、「もどかしい奴が触れてやらねばならない」と決心したのです。

キム・ナムギル-今、世話をしている飼育クマが人が熊胆を取ろうと飼っていたツキノワグマなんですか?

チェ・テギュ-はい、そうです。ヒグマも何匹が入ってきて、今はほとんど死にました。韓国に輸入できるクマたち、それで動物園にいるクマたちも農場で行ったり来たりしていた子たちです。ツキノワグマは体に比べて熊胆が大きいです。それで、ツキノワグマの薬効がいいという俗説もできたようです。


p.190
ト・ヂエ

━━━
名前を呼んだ瞬間 そのクマは
私が「知っているクマ」になるのです。
固有なそれぞれの個性や特徴も
もっとよく目に入ってくるようで… 。



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実は熊胆は薬効が全くありません。とにかく熊胆というのが消化液で、私たちが油と脂肪成分を食べた時、体内から分泌されて、脂肪の消化を助ける役割をするんですよ。それで、体に胆石ができて胆道が詰まったら、それを開けるのに熊胆効果があります。かなり高価な理由は、心血管系の疾患から、私たちが洋医学では治せないと思っている様々な病気のほぼ最後に熊胆を食べてみるからです。それで効果があったという場合もありますが、それは医学的判断ではありません。でも、その薬効がクマを殺してまで得るほどの薬効かというと、そうではないと思います。

キム・ナムギル-話を聞くと、クマたちのよくかかる病気もあるそうです。

チェ・テギュ-普通、野生動物が病気のときは、すでに私たちが手をつけることができない場合がほとんどです。動物園にいる獣医も動物を治療するというよりは、怪我をした時に抗生剤のような薬を使って治しますが、これは自然に治る過程を助けるだけです。本当に痛い場合だとクマは椎間板が破れて脊髄神経を押すと後ろ足が使えなくなったりしますが、程度がひどくなければ、症状を押さえるステロイド剤を使います。年齢の高いクマはみんな椎間板ヘルニアになります。どうしても筋肉を使わない狭い空間に住む理由もあるでしょうが、もっと正確には野生ではすでに死んでいるはずの年齢を超えて育てるからです。野生ではすでに競争力が

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落ちて飢え死にしたり、他のクマに噛まれて死んだり、虎に捕らえられる年齢のクマを私たちはずっと閉じ込めて保護しながら育てるのです。そんな時はある程度見守って生活の質が落ちるという判断が立てば安楽死をさせるのがサンクチュアリのように動物福祉を考慮するところでは一般的です。最も一般的な安楽死の原因が脊椎疾患でもあります。

キム・ナムギル-私は獣医さんがサンクチュアリを運営するために動物病院で稼いだお金を全部つぎ込んでいらっしゃるのではないかと思いました。それで周りに助けてくれる人たちもできて…。

チェ・テギュ-あぁ、動物病院はやっていません。講義して、講義料だけで食べて暮らしています。まぁ、それでは私が食べていくのもギリギリですが(笑)。以前は病院を運営していましたが、本当にはやりたくなかったことなので生活ができる程度にお金を稼いで面白いことをやりたかったので、この仕事を始めたんです。
「手伝ってあげるよ」という考えでいらっしゃった方の中には、ここにウェブデザイン能力を才能寄付しに来て活動しているト・ヂエさんもいらっしゃいます。

ト・ヂエ-私がここで働くのはチェ・テギュさんがかわいそうなのもあるんですが(笑) ・・・。私は以前、動物自由連帯で活動していました。そこはそれでも事情が良い方ですが、市民団体というと接近性が落ち、大衆の関心が持続せず残念な気持ちが少しありました。なので

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ここで、そういう役割をしてあげたかったんです。また、チェ・テギュさんの真心が一役買ったこともあります。常勤の活動家がいなかった時は、ほとんど日曜日に往復7時間、ソウルから華川を行き来しながらクマの世話をしていらしたのですが、それは簡単なことではないんですよ。

チェ・テギュ-そうでなくても、グループチャットに誰かいるのか調べてみたんですが、26人くらいいます。この仕事に関与しない人も何人かいて、仕事があるときに来てくださる人も何人かいて、そんなレベルです。最初は獣医二人と環境運動をする一人に提案しました。その後、知り合いの1人1人が連絡してくれました。知人の紹介で来たり、手伝うことはないかとメールをくれたりもします。お金になることでもないのに働くという人が多くなるのはいいことですから。仕事はとても多くて、それでただそのように集まった人々のようです。

キム・ナムギル-市民団体は力になってくれる、そういう方々が本当に大きな力になるじゃないですか。ギルストーリーも「プロボノ」という名前の活動家の方々がいらっしゃって頼りになるんですよ。
獣医さんも今回のインタビューの紙面を借りて、そんなありがたい方々に一言お願いします。また、どんな方々が参加してくださればいいのかも。直接手を添えて、心を添えて現場で一緒に走ってくれる方々がとても大きな慰めになるじゃないですか。


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チェ・テギューお金持ちで人情豊かな方々のご関心とご連絡をお待ちしております(笑)。志を共にしたいと言っても、この過程を知らなければならないことがまたあります。突然いらして、無報酬で腕をまくって仕事ばかりするには限界があるので。私たちはいつもお金が問題で、お金が人でお金が時間ですから。インタビューの最後に後援口座を書いていただきたいですね。ハハ。

キム・ナムギル-文一行のあとに後援口座みたいな感じで …。ハハハ。必ず書きますね(笑)。
そういえば、クマたちに S, N という名称もあって、「チロンイ」、「ソヨ」、「ドギ」 のような名前もありましたが、クマたちの名前はどうやってつけるのですか?名前をつける理由があるのか、もしかして分かりますか?

チェ・テギュ-名前は私たちがつけてあげたクマもいますが、SNSに個体の性格を紹介する文を載せて、名前を公募してつけてもらった子どもたちもいますが、実際、自分の名前を聞き取ることはできないと思います…。私が言ったら平凡すぎて、こういうのはト・ヂエさんが上手く表現して下さると思います(笑)。

ト・ヂエ-名前はむしろ人間がその個体に接するとき、より大きな意味があるのではないかと思います。「U6」、「L7」 のような個体番号でしたが、名前を呼んだ瞬間、そのクマは私が「知っているクマ」になるのです。固有な各自の個性や特徴ももっとよく目に入ってくるようで…。とにかく社会的な認識変化のためにもクマの名前は大衆が受け入れるのにはるかに馴染み深い方法のようです。

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キム・ナムギル-知っているクマ。名前を呼んだときから私たちは知り合いになるんですね(笑)。私たちギルストーリーでも後援する馬が2頭いるんですが、「聖夜(ピョルバム)」と「春子(チュンジャ)」。名前は親しみがありますよね(笑)?

ト・ヂエ-あなたの名前は伝統的でね(笑)。もううちのクマたちの名前も知ったので、俳優さんにも知ってるクマになりました。私たちのクマたちをたくさん教えてください。

キム・ナムギル-そうですね。「ジョヨン」も「ミソ」も、もう私が知ってるクマですね(笑)。現在、華川サンクチュアリは元々あった既存の農家を借りて臨時に運営していると聞きました。これからサンクチュアリをより新しくする計画をしているそうですが。

チェ・テギュ-はい。非現実的な計画ではありますが(笑)、いつもそう考えています。自治体の支援を連携する方法も考えながら、市・道や郡などを打診してみたんだけど…。最近、ペットの遊び場のような施設には数百億ウォンかけて建設していますが、クマを連れてくることに関心がないどころか、危険だと嫌がります。もちろん危険なことです。だから、うまく作ってうまく運営しなければならないのです。
私たちは知異山のツキノワグマを復元させて知異山に放していますが、着実に問題が発生し、居住者ともずっと葛藤が生じています、これをソウルですると言うと絶対にダメでしょう。だからといって、その方々を非難することはできない問題です。

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とにかく現在、政府でクマのサンクチュアリ(保護区) 2ヵ所を作ってはいるんです。
求礼(クレ)に50匹規模、舒川(ソチョン)国立生態院の隣に70匹規模で建てられる予定です。しかし、これらの施設でも不足しているのが事実です。完全なサンクチュアリになるのかという心配もあって、私たちがずっと話しています。設計の段階から意見を積極的に出し、運営の主体は誰にするかについても話をたくさんしています。運営をどのようにするかによってクマたちの日常をどのように整えるかが出てきますが、私たちが描く絵のように運営する主体がなくて、むしろ私たちが運営すると言っているのですが…。

キム・ナムギル-その地域で活動する非営利民間団体として登録して支援事業関連のことをすることもできるし、色々な方法をひとまず …。

チェ・テギュ-求礼郡、環境部と話し合った内容ですが、求礼郡では私たちに「できるか」というふうに提案はしていました。ところが担当公務員が変わり、またダメだって… 難しいですね。

キム・ナムギル-それでも、現在 努力の末にクマの飼育禁止特別法制定まで来たと聞きました。

チェ・テギュ-はい、クマの飼育と熊胆の採取禁止を合法化したのが野生生物法、すなわち「野生生物法の保護および管理に関する法律」であるが、環労委(環境労働委員会)でその改正案が通過し、法制委と本会議さえ

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通過すればよいと思うし、今年中には不法化する法制化になりそうです。とにかく、そのようなことが成果であれば成果です。今後2025年末までに飼育熊産業をなくすことが目標です。国の保護施設であれ民間の保護施設であれ、とにかく農家で熊胆採取はできないようにすれば済むんですよ。クマの個体がすべて登録されて資料が透明に表示されれば、こっそりするのも難しいでしょう。

キム・ナムギル-先ほどおっしゃった、政府が準備中のクマのサンクチュアリについて、私たちができることは何かありますか?

チェ・テギュ-運営主体が誰であれ、サンクチュアリもクマを閉じ込めて育てる施設になるじゃないですか。その時、「なぜこのクマがここに、山ではなく鉄格子の中にいなければならないのか」を説明できるところでなければなりません。射殺の説明が難しく苦しいです。政府が新しい施設にクマを集団収容した時、ただ農家で死ぬ子供たちを助けたということだけで大衆の同意を求めることはできます。
しかし、私はクマの保護施設の存在が、私たちが野生生物をどのように扱ってきたのか、代々食し、それを産業化する上で国家が先頭に立って奨励した過去があるので、その過去を振り返ってみると、今は世話をしなければならないし、このクマたちと私たちの関係が良くなり、このような話を交わすことで、野生の動物と人間の関係を再確立できる空間、大衆にメッセージを与えることができる空間になればと思います。