〈CUP vol.2〉その8

俳優 キム・ナムギルの
対話集 後:) 談話





p.98

━━━━

人々が孤独を友達にしたことがないからだよ。
孤独という友達を
友達として付き合ってみれば大丈夫だけど
付き合えなくて。



p.99
「隊長の奥さんは大変そうですね。」 とても尊敬しますが 「山があって、私がそこに行ったのだ。」こうおっしゃるかと思えば 「いや、一生涯 山に?」 とにかくそういう話をしてきたと思います。昔、大人たちが山のような男に出会えと言いましたが、違うと思います(笑)。

パク・ジョンホン-それは運命的なことだから。なぜなら、登山家の家族はすでにその忍耐ということをしています。私がいろいろな葬儀場を見て廻っても、妻とかその家族たちは意外と淡々としています。そして個人的にはある意味幸せな死の一つではないかと… 自分がやりたいことをして死ぬことは極めて珍しいんですよ。普通、境地に上がった僧侶たちが涅槃するときは突然消えます。死ぬ時を知っている人、悟りを開いた人の中で最高の境地という涅槃に入るんです。

キム・ナムギル-それをどうやって知るのかということです。だから、隊長もその時期を… 。

パク・ジョンホン-実は私が目標にしていることの一つです。どんな未来が来るかはわからないが、もしそんな瞬間が予想されるなら、以前はただ笑い話で死ぬ時になったら、本当に難しい所に行って死なないと(笑)。登れば幸いで、登れなかったら途中で死ぬんだし、そうじゃないですか(笑)。

キム・ナムギル-もしかして隊長がこうやって話されるのが、その後輩の方々は…  考えてみると、その時、隊長は選択の瞬間だったのに、すでに死ぬかもしれない選択をされてたから。

p.100
それで隊長は死について淡々と話されますが、一般的な人々には簡単ではないですよ。でも山には怪我をしてからも しぱらくしてまた行かれたんですよね?

パク・ジョンホン-怪我をしてから、一年も経たないうちにまたチョラツェに行ったと思うけど。6ヶ月手術をして出てきて、その次に6ヶ月間2本の指でいるときに出ていったので、ほぼ1年も経たないうちに行きました。その時はリュックを探しに行きました。

キム・ナムギル-それでも、ある程度は恨めしいと思うんですが、どうしてそんなことができたのか... 本当に想像がつきません。

パク・ジョンホン-リュックサックをどうして探しに行ったかというと、その中にカメラがあったんです。私が最後に登った写真の痕跡が、そして撮るのも大変な写真です。そしてカメラがライカリミテッドエディションに21mmのヤシカレンズがはめ込まれているんです。カメラの価格だけで1.000万ウォンくらいします。私がとても大事にしていたカメラが、その中に最後の痕跡が入っているのでそれを必ず探したかったんです。でも最初は失敗して行けませんでした。到底その状態では行けなかったんです。それで2回目にまた行きました。そうやって行ったんだけど、何もなかったんだよ。もう消えたから。むしろその時、その時間が私にとって途方もない反省の時間でした。本当に私が狂ったことをしていたんだね。そのリュックサックを、そのフィルムを探しても私の人生が変わることは0.1%ないのに。

p.101
ただ過去から未練が捨てられなくて、そこに縛られているじゃないですか。身も心もずっと過去に縛られていたのです。実際に自分の目で確認した瞬間、一緒に行った後輩に「あぁ! 二度と来る必要はない。」と言って背を向けた。初めて過去のすぺての未練を清算してしまってのです。そこで

キム・ナムギル-それを目で確認されたので、そのように … 。

パク・ジョンホン-確認しなかったら、未練が残ったかもしれない … 本当に必要のないことをしていたよ。それでその時、私が後輩にこれからは新しい山に行こうと言いました(笑)。

キム・ナムギル-新しい山ですか?多くの方が山に登って山を愛していますが、どんな状況でもずっと山に登って、そうするのは簡単ではないじゃないですか。

パク・ジョンホン-それでも2016年度かな、私がチベットを数ヶ月旅行しながら高僧たちに会ったのですが、考えがかなり変わりました。今は山も挑戦、そういうことより楽しむことがもっと重要だと。それで楽しみながら生きようと私の倉庫にしまっていた世界文化遺産を持って済州島に博物館を建てようとしました。でも6ヶ月の間、いろんな村を廻りながら考え方が一変したんです。見てみると、世の中には居場所にあるものが一番輝いているようでした。それが私が外に出ると、その国の建築物、文化財がもっと多くて文化も楽しめるのに、あえて建物を建てるために10年、

p.102
20年という時間を使う必要があるのかと思い、その夢は諦めました。代わりに人が何かに邁進するようになって、自分の哲学ができるじゃないですか。探検する私としては何だったかというと、カヤックで韓半島を探険しょうとしました。ところがイギリス人2人が先にやっていたんだよ。それでわたしが「ハンジソル(寒地雪)」と言って、漢拏山から智異山、雪岳山に日帰りで行こうと思ったのですが、イギリスのその友達がまた先にしたんです。「ダメだろう!我々の地に先に行くんじゃないよ」 という思いから、山はトップ デ トップではない。出発から降りてくるまでだよ。と言いながら「ハンジソル」を下から頂上まで、頂上から降りるまでしなければならないと言って、それは私が先にしました。ハハ。

キム・ナムギル-山には以前のようには登らないとおっしゃいましたが、隊長は本当に平凡ではありませんね(笑)。普通チベットで高僧たちに会うからといって、そんなことは感じないんですよ。また、レジャーまで山と一つになっていると話されていましたが、人々が同じ状況でもそれをどのように受け入れるかによって結果が完全に変わりますから。
それで私が気になるのが、企業で講演もたくさんされているんですが、初めて提案されたとき、どんなことを考えましたか?なぜなら、彼らは隊長から何か得たいし、経験的に何か聞きたいことがあるから招待したと思います。

パク・ジョンホン-それはたった一つです、情熱。私が職員100人にたった一日だけでも刺激を与えれば、会社はすでにその講演者を連れてきて成功したんです。その一日のために私を使ったんだと思います。


p.103
キム・ナムギル-では先ほどおっしゃったようにまた山に登って、過去からの未練を捨てて、もっと重要なことは、もう新しい山に行こうというそんなストーリーを私が聞きましたが、企業はそのような部分を情熱として見るのでしょうか?

パク・ジョンホン-はい。それは情熱です。普通「情熱」と「挑戦」という二つのコンテンツを多く要求します。でも挑戦というのは実は段階的です。ですから、一つの山に登った時に次の山が開かれるのですが、その一つの山を登れなかった時には次の山は開きません。だから毎回一つの山を登り切ったとき、その次の山に向かう扉がまた開くんです。なぜなら、その山を登りながら感じる経験と知識が、その次に自分が進む方向を決めてくれるからです。
私の場合は最初にアンナプルナ南壁を登って、その次に登った山が1995年のエベレスト西南壁でした。通常、アンナプルナ、エベレスト、ローツェ、この3ヵ所をヒマラヤで最も困難な三大南壁 (南を眺める3.000m以上の壁) と言うんですが、登りにくい難壁ですよ。それを全て登った人はいません。だからそれは私の目標で。2002年にローツェの南壁を登るためにヒマラヤにまた行きました。ところが、戻ってきた。ベースキャンプから。
データーも収集してやるべきことは全部やった。ところが、山の前に立ったとたん、まだ私が登る山じゃない! 感じられて…。これが山の前に立つことです。私は準備が整ったと思ったことは一度もありませんでした。いつも足りませんでした。


p.105

━━━━

墜落も登山の過程であり、
苦痛と挫折は
どのように受け入れられるかにかかっており、
行動するときに孤独と煩悩まで
友になれるという。



p.106
キム・ナムギル-こうやって見ると山に登るのは、私たちが生きるのと同じだと思います。私も撮影するとき、そうだったんです。私がある作品に対する経験ができて、他の作品に移ると、私がそれでももう少し成長して成熟したから良くなったのではないかと思ったが、なぜまた大変なんだろう、なぜ何度も行き詰まるんだろう。それで、する作品ごとにずっと悩んで勉強しながら、また成長して成熟するんだと思います。

パク・ジョンホン-でも、みんな同じだと思います。それでも私は2023年10月末にネパールのアマダブラム山に行くと言ったじゃないですか。その山に行くためにずっと準備していますが、山が本当に美しいです。山の名前も母のネックレスという意味なんです。ヒマラヤは人々が神々の庭園とも呼ぶが、そのためか神々が命もたくさん奪って…。
このアマダブラムも本当に魅力的で綺麗だけど、人がたくさん死んだんだ。だからその過程、準備することが本当に重要です。

キム・ナムギル-では、登山のためにどれくらい準備されたんですか?隊長は私の知る限りでは登路注意を重要視されるじゃないですか。登頂注意報よりは。とにかく山に行く過程を重要視する理由がありますか?

パク・ジョンホン-過程がよりもっと面白いから。普通登山のために準備する期間が1年か2年はかかります。しかし山に行く道は実はあまりありません。8.000mの場合は、最近行くのに約35日ほどかかります。以前

p.107
エベレストの場合は90日ほどかかりましたが、今は45日くらいで終わります。これに過程が重要なのは、新しいルートを行くとか、それには情報がないということじゃないですか。
しかし必ず数学的統計と自然の反射的なものは、無条件に避けて行ってはならないという原則があります。その数学的統計というのは、雪崩地域を通過するとしたら、12時から午後3時までその地域に入ってはいけない。これらはすでに出ている数学的なデーターベースがあるんですよ。それを無視して入るのは、ただ死に向かって歩いているのです(笑)。あらかじめそのようなものを計算します。
そして、最も重要な一つのチップを差し上げるなら、ベースキャンプにとても賢い人を座らせなければなりません。実際に山に登る人たちは壁にくっつくと山が見えません。ところが、ベースキャンプには大きな望遠鏡があります。それで、今自分がちゃんと進んでいるのか自分には見えないから、ベースキャンプにいる人が教えてくれます。そうやって、道を探していくんです。以前、わが国のような場合にはチームリーダーたちは登山をほとんどしませんでした。経験がある人ですが、年配の方々が登山をせずにベースキャンプを守ってくれれば、登る人が心強いんです。でも、今はベースキャンプにそのようなリーダーがほとんどいません。

キム・ナムギル-壁の下に行くと山が見えないのに …。

パク・ジョンホン-はい、だから、ずぶの素人がベースキャンプにいてはいけません(笑)。ベースキャンプは一番老練な人が引き受けるのが重要です。また、決断力のある人。

p.108
重要な選択の瞬間に降りてくるべきかどうかを判断してくれる人です。そんな決断ができなければ死ぬ人が多いかもしれません。しかし、経験があるとしてもリーダーをしたことのない、メンバーだけで行った人は認知があまりできません。リーダーだった人とは違いがあります。そして、過去も現在もその山登りを続けている人がコントロールタワーの役割をしてくれればと思います。

キム・ナムギル-では、今、隊長くらいならベースキャンプにいらっしゃってもいいんですよね?山がお好きなので必ず山に登らなくても。

パク・ジョンホン-そうでなくても、そういう質問をよくされるんですよ。それで、私がこう言ったんです。私はまだ登る山で手いっぱいです(笑)。また、最近はヒマラヤに行く人もあまりいないし、わが韓国がそのような飛躍期は過ぎたので、これからは私がやりたいことをしようと思います。約2年のプロジェクトで韓国的な探険を一度やってみようと思っています。
「グレートコリア(Great KOREA)」 というタイトルでやってみようと思うんですが、少し歴史的なものも入れて。
ルートは馬羅島(マラド)から出発する計画です。最南端の馬羅島でカヤックに乗って、ボム島に到着してキャンプもして、楸子島(チュジャド)に来て、また数日滞在して楸子島から珍島に来て、数日滞在してから自転車に乗って、智異山に来ます。そして智異山に登ってパラグライダーで徳裕山(トギュサン) に行って、

p.109
そこでまた自転車に乗って、雪岳山に行って、雪岳山で蔚山岩(ウルサンバウィ)は韓国で代表的な岩なので、そこをクライミングで登って大青峰(テチョンボン)からパラグライダーに乗って東海(トンヘ)に落ちるのです。その次に統一展望台、そこからは再びカヤックに乗って北部までボートで賢くセーリングする。そんな探検プロジェクトを考えています。それを無動力で。

キム・ナムギル-ハハハ。聞くだけでもすごいですね。探険に行ってきたら、みんな筋肉がこれくらいになるんじゃないですか?
個人的に隊長が今おっしゃった探険について一つずつ考えて見ると本当に良いと思います。何か今もずっと好きなことして、その過程を大事に思って。さっきも隊長が面白いから続けるという話とそういうことが情熱と繋がっているようで。隊長がしてくださった話、放送に出た内容、その他様々な講演などたくさんありますが、人々が読んで見て感じることと実際に経験して感じることは確かに違うと思います。
それで、そういう番組を作ったら私も一度行ってみようかという気が(笑)。ところが、実際に参加して 「隊長、過程が重要だというのは嘘だと思います(笑)」 と言いながら 「大変で死にそうです」と駄々をこねる。ハハ。ところで、隊長も山の前に立ったとき、本当に大きいと感じたそんな山もあるのでしょうか?


p.110
パク・ジョンホンーあります。K2。エベレストは隠れてるんですよ。実際にはエベレストが一番高いですが、アイスポール地帯があって山が大きく見えないのですが、K2は本当に巨大に見える。それで、絶対君主という名前もつきました。

キム・ナムギル-おぉ、カッコいいです。絶対君主。

パク・ジョンホンー山の前に立つと完全に氷河からピラミッドのようにそびえていて、最初にパッと見ると、あっ、人間が登れないという思いと同時にプレッシャーを感じる山。それで、K2の場合は登山に来て山の前に立った瞬間、登ることもできずに帰る人も多いです。実際、私とK2登山を一緒にした仲間の中にも、その前で帰ったり、今世の中にいない人もいます。

キム・ナムギル-その生と死について本当に何気なく話しますが、私はずっと聞きながらも適応できません。山はそれほどいいですか?

パク・ジョンホンーよくないです(笑)。

キム・ナムギル-では、隊長は山に登ることはどういう意味がありますか?

パク・ジョンホンー降りる(笑)?山では登るより下りてくるのがもっと重要です。

p.111
一般的に私たちは山は一つなのに、登るのと降りるのを別々に考えるじゃないですか。もちろん、降りる時には気をつけて、事故のためにも重要ですが、これをどうやってうまく降りてくるかによって、私は人の人生が変わると思います。降りてくる技術、それが人生の真の技術です。

キム・ナムギル-よく降りてくるのが本当に難しいと思います。私も仕事をしながら見ると、私が以前頂上にいたときのことをしきりに思い出して、私のキャラクターも、位置も時代の流れに合わせて変わるのに、ずっとその事ばかり考えて。私が往年にこうだったのに、私がどんな役割を果たしたのか、と思うときがあります。そうしていると、人がだんだん壊れていくようです。
また、隊長が話されたように、最初に上がるときはほとんど緊張するようです。そして、ある人は狂ったように情熱を燃やしながら上がるのですが、そのように上がってから降りてくるのは比較的簡単だと思います。ところが、隊長が上りと下りがすべて一つの過程だとおっしゃったので、それなら私はその過程なのでずっと降りません(笑)。