〈CUP vol.2〉その6

俳優 キム・ナムギルの
対話集 後:) 談話





p.78, 79






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精神的な大人になるというのは何だろうか。
あまねく見ることができること。
配慮と余裕、そういうこと。
誰かの一瞬の間違いや
誰かの現在の姿だけを見て
簡単には裁かないのが余裕だと思います。
自分の経験をもとに
他人を理解するようになること。



p.80
キム・ナムギル-でも、他の親たちは自分の子供たちが偉いと言いますが、うちの親は自分の子供が足りなくて他人に迷惑をかけるのではないかといつも心配しながら良い子じゃないと言うので、幼い頃はそれがすごく悲しかったんです。

チョン・ジア-他の人たちがすごく良い子良い子って言うから、あえてご両親たちが言ってないんじゃないですか?幼いころからお利口だったようですね(笑)。みんながお利口というから、自分が優秀だと思って傲慢になるんじゃないかと事前に心配されたんじゃないですかね?

キム・ナムギル-とんでもない(笑)。

チョン・ジア-外だけでそうおっしゃるんですよ。その時代にはそれが礼儀でした。うちの子、どこに行ってもこんなに賢い、偉いって言ったら、親バカだと言われるから。
私は子供たちを見ながら学んだことも多かったです。子供たちを教えながら。
私が歴史的な傷を抱えているなら、最近の子供たちはほとんど個人的な傷なんです。貧乏だとか、お母さんが自分のことを認めていないとか、お父さんが殴ったとか、そういう傷。最初は私のとは格が違うと思いました。それほど難しくないだろうと。「あの程度どうして乗り越えられないんだろう?」 と思いながら数年子供たちを見守ったら、少しずつ考えが変わりました。
幼いときは誰でも自分の傷が世の中で一番大きいものだと思います。経験が多くないからです。しかし傷は「たかがそんなこと?」 このように比較することはできません。

p.81
個人的な傷だからといって、決して簡単なことではありません。私の傷よりもっと難しくて深くて表現しにくいのだ。このように思ったりもしました。生きてみるとみんな難しいじゃないですか。簡単な人生なんてないでしょう?誰の人生にも痛みがあり、誰にでも傷があります。

キム・ナムギル-会話を交わしてみると、作家さんは本当に愉快な方ですね。お使いの言葉一つ一つがすごく面白いんです。ユーモアが多いという話を聞いたことがありますでしょ?

チョン・ジア-昔はおもしろくなかったです。でも、今は少し楽になった気がします。人生が少し楽になったのもあるし。もう一つは見て学んだと思います。田舎の方はユーモアがあります。人生と正面からぶつかり、最善を尽くして生きてきた人たちが持てるユーモア。
そして、私はいつも正直だったんです。でも昔は尖って正直でした。例えば、文芸創作学科の学生が「先生、どうすれば文章を上手く書けますか?」と尋ねます。それなら「文章を上手に書くから、文芸創作学科に来るんじゃないんですか?」というように。弟子たちの作品を合評しなければならないが、物足りないと「今日は小説がないので、合評しません。」 約10年前まではほとんどこうだったと思います。文章が書けない子供たちには「文芸創作学科にどうして来たの?」と言いながら傷つけました。文章を書こうと来たので、自分の状況を客観的に知るべきだと思いました。
ところが、ある教授が「誰かの夢をくじく先生は悪い先生」 という話をしました。

p.82
その言葉を聞いて「私がナイフで子供たちの芽を切る必要はなかったんだ」 と少し思いました。そして、文章を上手に書くことが何だって。こんな風に思いました。ただ人として豊かに暮らせばいい。有名になればいいし、文章を上手く書ければもっといいけど。最近はまぁ書けないなら書けないなりに。上手に書くのは私がやればいいんだよって(笑)。
そして、後で見ると子供たちが徐々に変わっていくんです。文章も一生懸命書くから上達しました。努力するから。私も2013年学生までが最後で、その後は子供たちとあまり親しくなれなかったんですが、2002、2003年学生のような子供たちは既にもう20年以上見てきたので。徐々に変わります。

キム・ナムギル-人は何歳まで変われると思われますか。普通40歳を越えると変わらないって言うじゃないですか。

チョン・ジア-大体は変わらないのが正しいです。30歳を過ぎたら堅固になり、40歳を越えると変わる人があまりいません。でも自分が目覚めていれば死ぬまでも変わることができると思います。私の母がこんなことを言いました。「94歳には知らなかったことを、95歳になったらわかったよ。」 だから、目覚めているとずっと考え続けられるということです。そして、感じて。知ったら変わるんですよ。うちの母は95歳まで変わったじゃないですか。

キム・ナムギル-ある本を見ると、大人の徳目は寛大さと余裕だそうです。大人になるというのは何でしょうか?


p.83
チョン・ジア-私たちは、何が大人なのかよくわかりません。年を取ったからといって、大人になるわけでもなく、一生大人にならないで老いて死ぬ人も多いです。
精神的な大人になるという事は何だろうか。あまねく物事を見ることができること。配慮と余裕、こういうこと。お金があるから出る余裕じゃなくて。誰かの一瞬のミスや誰かの現在の姿だけを見て、簡単には裁かないのが余裕のようです。私の経験をもとに他人を理解するようになること。だから子供たちに何でもやってみろと言います。お酒もちょっと飲んで、ミスもしてみて。自分が経験してみれば人を理解しやすいですから。

キム・ナムギル-最後に質問します。作家さんにとって、智異山とは何でしょうか?

チョン・ジア-山ですよ。山なんだけど、何て言うか… 雪岳山(ソラクサン)はすごく尖っていて、野原を抱いていません。だから、人を抱く山ではありません。あまりにも秀麗で、ただ眺める山ですよ。山自体では雪岳山の方がはるかに綺麗です。智異山はすごく綺麗なわけではないんですよ。
でもここは谷が広いから野原を抱いています。だから人々が食べて生きていけるのです。人を抱き、人を生かす山?だから昔、パルチザンが智異山に入ってきたのも、野原が広くて人を食べさせることができるから。だから私は良い山だと思います。だからいつも逆徒たちが集まってくる山。誰も受け入れてくれない者たちを受け入れてくれる山。今も自然人を夢見る人々が入ってくる山 (笑)。