〈CUP vol.2〉その2

俳優 キム・ナムギルの
対話集 後:) 談話




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世の中をより豊かにする
欠乏に対して
島のように孤立した人々をつなぐ
往診医師 ‘ヤン・チャンモ’ 


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医者に会いに病院に行くことが
痛みを耐えるよりもっと大変だという
人に会いに行くこと、
病人ではなく人の世話をして
私たちの社会の欠乏を埋めること。
道に迷ってこそ道を見つけることができるので、
そのように診察室を出て道の上に立った
ヤン・チャンモ 往診医師。
彼は島のように孤立したお年寄りたちを
訪ねて彼らの痛みを慰めながら、
彼らから化石のように硬く
存在する人生の遺産を発見し
より大きな慰めを得る。
聴診器越しにゆっくりと鼓動する、
土の匂いがする人の話を聞く。

ヤン・チャンモ


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キム・ナムギル-私は〈なんでも残そう〉の番組でチェ・ヒソン看護師さん、チェ・ジェヒ ケアマネージャーさんとはほとんど話ができませんでした。いつも3人が一緒に往診に通われますが、あなたたちはどうやって出会ったのか気になります。

ヤン・チャンモ-そうじゃなくても、僕よりその方たちの話をしたかったんですが、こうやって聞いてくださいました(笑)。私が2006年度に家庭医学科専門医過程を修了したところが原州(ウォンジュ)にある医療福祉社会的協同組合病院でしたが、そこでチェ・ヒソン看護師さんと初めて会いました。
4年ほど昼には診察室で診療し、日課が終わった夕方にはチェ先生と往診に通ったんですが、その時、週に1~2回は夕方に往診に行ったと思います。そうするうちに私が春川に来てチェ先生とは縁が切れたんですが、またこの仕事を始めながら、私が春川に来てほしいとお願いしました。それで今は原州から出退勤しています。チェ・ジェヒ ケアマネージャーさんは今年から仕事を始めた方ですが、その前に春川市民社会で自転車に乗る運動を熱心にされた方です。

キム・ナムギル-私たちも市民団体を10年近く運営していますが、プロボノの方と活動するとき、僕がヨルチョンペイ(低賃金労働)とかはしないようにと言いました。このような話をするといつも思うこと、なぜこのように社会のために働いている方々は給料が少ないのかと思います。十分な報酬が、活動家たちがもっと長くこの仕事をする方法ではないかと思うことがよくあります。


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ヤン・チャンモ- 私の給料が普通の会社員に比べれば少ない金額ではありませんが、私と似た専門医の賃金に比べれば相対的に少ない金額です。それで、時々取材に来る方がこのような質問をします。お金になることでもないのに、なぜこの仕事をするのか、家族は好いているのかと。そのとき、私がもっともらしく「お金が全てじゃなくて… 」このように答えようとすると、隣で聞いていたチェ・ヒソン先生が一言おっしゃいます。「お金を使いません。」会食も1年に1~2回にして、通勤も自転車にして、お金を使わないようにして暮らすんです、というふうに話すんですよ(笑)。

キム・ナムギル-ハハハ。看護師の先生方と一緒に過ごしながら記憶に残るエピソードも多いと思います。

ヤン・チャンモ-以前のケアマネージャーがいなかったら、当センターの名前が ‘オーライ’ 訪問診療センターになるところだったという事情があります。センターの名前を決める会議をしたんですが、みんな相応しい名前が思い浮かばないと言うので 年配の方々にお馴染みの 『オーライ(大丈夫all right! の日本式表現)』 をセンター名にしてはどうかと言われました。そのとき、チームメンバーの表情がよくなかったんです。ハハ。それからたった1日で 『ホホ訪問診療センター』という名前を持って来てくださったんです(笑)。
また、チェ・ヒソン先生は細心だというか… 本当にご立派です。私たちのチームの雰囲気だけでなく、往診に行ってお年寄りの方に会ったとき接する姿を見ると「あぁ、本当に私とは違う人なんだなぁ」と感じることが多いです。


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一例として、昔あるおばあさんの家を訪問しましたが、血糖値を測る度に、数値が80~90しか出ないんです。その程度なら空腹血糖値なんです。おばあさんに聞いたら、食事はしたそうですが、午前に行っても、午後に行ってもずっと空腹の数値がでるんです。「何が問題なんだろう?」あまりにも不思議で、持っていったパンを食べさせ、30分後にやってみると、血糖値が140, 160 だったんです。言葉では「食べた」とおっしゃいましたが、実際には食事をしてらっしゃらなかったんです。それで、おばあさんに血糖値が低すぎるから食事を必ず食べてと言ってそのお宅を出てみんな車に乗ったのですがチェ先生が「ちょっと待って!」と言って、私たちが移動しながら食べるおやつを持っておばあさんに渡してきたんです。チェ看護師さんはそんなとこまで心配します。

キム・ナムギル-でも私が放送撮影のとき、一緒に過ごしてみたら、先生のおっしゃることもこのようで、お二人は似ていると思います。チェ看護師さんは本人のやり方で気を配って、先生も自分に出来る方法で気を遣うのではないかと… 。前にも実はこんな話をしましたが、家庭医学科の医師なら、お金をもっと稼ぐ方法がはるかにあるじゃないですか。でもそういうのを全部断って、こうやって仕事をされているというのですよね。
急に思ったことですが。記者たちが先生にインタビューするとき、なぜさっきのような質問をするのでしょうか?それが本当に気になって聞いているのか。私も時々聞かれるんですよ。市民団体の仕事をしたとき 「これをなぜやるんだよ?すごいな。」それとか「政治に興味があるんじゃないの?」こんな感じなんですけど、からかってるのかなとも思うし。ハハハ。


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ヤン・チャンモー その意図はわかります。原州で私が働いていた医療福祉社会的協同組合は市民がたちが作った病院です。市民が十匙一飯(シプシイルバン)でお金を出して病院を建てて医者を雇いました。だから市民の立場で診療する可能性がはるかに大きいです。しかし、そこも経営が難しくて給料は少かったです。でも、その病院で勤務していたとき、私はとても良かったです。患者に会う方法もそうだし、夏になると、お年寄りが直接育てたサンチェや果物などをよく持ってくるんですが、私はそういうのが本当に好きなんです。仕事に対する満足度が高いので、友達や後輩たちに自慢します。「今回は桃をもらったよ。サンチェももらった。」
すると、私には意味のあることなのに耳を傾けません。そうするうちに給料の話が出ると「すごい。そのくらいの給料でどうしてそんなことするの?」と、驚きます。私は当時の同期たちの平均年俸の3分の1くらいの給料だったんですよ。それでもこの仕事をする最も重要な理由は、先ほど申し上げたことが私に与える意味が大きいからです。しかし、他の人々は「お金を少なくもらってこの仕事をする」ということに大きな意味を与えます。

キム・ナムギル- 放送の時も同じようなことを言ってくださったのを覚えています。お年寄りのお宅に行って診察してみると、最初に会ったときと違ってもっと歓迎してくださって、そんな変わった姿や気持ちを感じるとき、すごく気持ちが良いとおっしゃったじゃないですか。私も同じなのですが、人々がギルストーリー活動を通じて助け合うのを見るたびにそんなにいいことはありません。個人的には、人に迷惑をかけずに生きるくらいのお金で十分だと思うんですよ。


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それ以外は、私が意味があると思うところにお金を使いたいです。しかし、私たちの社会は物質的なものに対する価値をより大きく見ているようです。

ヤン・チャンモ-そうですね。金持ちなのに貧しい人がいて、貧しいけれど金持ちの人もいるじゃないですか。先ほどお話しした原州医療福祉社会的協同組合が、とても良い趣旨で作られた病院なんです。ところが私が仕事を始めたとき、既に赤字がかなりありました。ですから、週に一回ずつ集まって会議するときに最も多くする話も、お金の話にならざるを得ません。今週の赤字はどのくらいで、来週はまたどのように生活をやりくりしながら良い活動を持続するのか悩んでいるのです。「貧しい病院」なんですよ。でも、その貧しさが病院を豊かにしてくれたこともあります。病院に心臓手術が必要なおばあさん一人が訪れましたが、基礎年金受給者なので400万ウォンになる手術費用や介護費を払う余力がありませんでした。手術は必ずしなければならないのに、当時、病院も赤字状態だったので、組合員の方々にこの事実を知らせました。そのとき、組合員の方々が積極的に助けてくださって手術しました。手術後もおばあさんは合併症で長い間病院に入院しなければなりませんでしたが、その費用まで少しずつ助けてくれました。そんな奇跡が起きたのは病院が貧しかったからじゃないでしょうか。事実、一人で立つことはできないので、誰かの助けが必要なのですから。私はその「困難」が病院であれ一人であれ、まともに生きていけるようにするのにとても重要な条件だと思います。当時、病院が裕福だったらおばあさんの手術を支援することで終わったはずですが、貧しいおかげで全ての組合員の方々におばあさんの手術過程が特別な経験として記憶されていますから。


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キム・ナムギル-そうです、そう言うときにやりがいを感じます。私が記事を探してみたら、往診に通う先生方が全国に360人余り登録されているそうです。高齢化社会になると、その方たちが面倒を見なければならない患者は増え続けると思いますが、現実はどうでしようか?

ヤン・チャンモ-往診がモデル事業なので登録した方の数がその程度で、実際に往診をされる方はその中で0.2%にもならないと思います。多分完全に往診だけする先生はほとんどいないと思います。

キム・ナムギル-あぁ、現実は本当に足りないんですね…。病院に行くのが難しいお年寄りたちがケガをせずに元気に過ごさなければならないのに、生活環境が安全でないので心配です。

ヤン・チャンモ-そういう点でどうしても現在は高齢者の家の修理が一番急がれることなんです。数日前に私たちが診療のために訪問したおばあさんの家も環境がとても劣悪で2023年初めから家の修理活動家の方々にお話ししましたが、まだ修理が出来ていません。待機者は多く、費用が不足しているため、そのような残念なことが起こります。

キム・ナムギル-だからもっと寒くなる前に急いで家の修理を進めるべきだと思います。特に屋内外の移動経路の床、屋外照明など工事が必要なお年寄りのお宅がいくつかありましたが、今回クラウドファンディングに参加された方々と一緒に、必ず直してあげたいです。


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ヤン・チャンモ-数日前にクラウドファンディングの件で映像監督と作家の方にお越しいただきましたが、私の本を読んで、本の内容に対する本人の考えをずっと整理してきてくださって、私がじっくり考えて答えなければならない状況を作り出されました。その過程が私は本当に楽しかったです。私の考えでは、既に過程自体が上手く行っているので結果も良いと思います。ある組織に会ってみると、慣性通りに行くところがあり、仕事に意味を与えて自分を発見していく過程にする方々もいるじゃないですか。私はギルストーリー関係者の方々を後者に該当する方々だと感じました。

キム・ナムギル-もっと、頑張らないといけませんね。ハハハ。
お年寄りに会いに行くとき3、4時間かかるところもあると聞きましたが、往診しながら物理的に大変な点も多かったと思います。まずは山奥にたくさん通っているので、登山靴も必要だと思います。

ヤン・チャンモ-必要です。家が坂道の上にあるおばあさんに往診に行くのですが、登る途中につま先で赤くて黒い帯を巻いた何かがさっと通りすぎるのです。見たら蛇だったんです。びっくりしてお年寄りのお宅に行って申し上げたら、見た目が独特だからかすぐにわかりました。おばあさんは平気で「ユメクだね」と言いましたが、正確な学名はユルモギ(ヤマカガシ)という蛇でした。おばあさんのはなしでは「あぁ、ユメク?大丈夫!それは死ぬ人だけ噛むんだよ、大丈夫。」 

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それで、「あっ、大丈夫なのか?」と思ったんですが、5分くらい考えてみたら、噛まれたら死ぬってことじゃないですか(笑)。でも実際に、そのヘビは人をあまり噛まないんです。代わりに一度噛まれたら解毒剤がなくて、死ぬという言葉が正しい話ではあります(笑)。
どうやら私たちが田舎道を訪ねて行くと、環境が劣悪なところに住んでいるお年寄りが多いです。例えば遠くから見ると家なんですが、近くに行ってみると家というより、ビニールトンネルとか穴蔵みたいな、そういうところに住んでる方もいらっしゃいます。それで、私たちが訪問治療に行ったとき、座る場所がなくて外に出て診療しなければならないときもあります。

キム・ナムギル-そうなんですね。先生はそのようなお年寄りたちにどうやって関心を持つようになったんですか?