CUP vol.1
個人の趣向はどのようにインスピレーションされるのか
p.290
インタビュー
個人の
趣向はどのように
インスピレーションされるのか
Inspiration 10
p.294
김남길.(キム・ナムギル)
「一緒に」
歩いて
行きたい気持ち
p.295
Prologue.
人がこんなに一貫性があるのだろうか。ギルストーリー キム・ナムギル代表にインタビューしながらずっと考えていたことだ。人の間でお互いに対する関心を持とうということ、共同体が与える 「一緒に」 という価値を回復しようということ、挨拶や思いやりのような人間の基本的な態度を守っていこうということ … 私がギルストーリーのプロボノを始めた5年前から、キム・ナムギル代表から聞いたこのような言葉は、今も全く変わっていない。何かが相変わらずだということは、それが本気だから可能なことではないだろうか。一貫性のある心はそれが本当だという証拠だから。
ギルストーリー事務所でキム・ナムギル代表にお会いしてインタビューを行なった。彼はドラマ撮影で忙しいところだったが、ギルストーリーの日程だけは先送りすることなく一足飛びに駆けつけてくれた。俳優として、そして文化芸術 NGO ギルストーリーの代表として収集拡張中のインスピレーションに対し、そして2022年ローチング予定の「アートヴィレッジ」に関して、彼と率直な話を交わした。「アートヴィレッジ」はギルストーリーが新しく始める創作家後援キャンペーンだ。創作家たちにインスピレーションを与える空間を作るために、キム・ナムギル代表が直接乗り出して統営市とMBCの後援で推進中だ。
INTERVIEWER ソン・ファシン | PHOTOGRAPHER チャン・ドソン
p.297
どうやって 「アートヴィレッジ」 の建設を推進することになりましたか?
─── ギルストーリーは芸術家たちが集まっている市民団体なので、夢を持った人たちが環境のためにその夢を諦めないようにと思ったし、彼らのための空間を設けるプロジェクトを以前から進めてきました。そんな空間は空き家や空いている商店街のようなものを活用して用意してみるといいと思って調べていたところ、まさに MBCの〈空き家に暮らす in 漁村〉でやるプログラムを通じて統営市 タルア村の空き家を再生するプロジェクトを一緒にやろうと提案してきました。ちょうど私たちもそのような空間を探していたので、一緒にやってみようと言いました。
「アートヴィレッジ」で空き家を活用するという考えはどうしてですか?
─── 実は最初から空き家を活用しなければならないと思ったのではありません。私は個人的に家という空間が重要だと思うんです。家という安定的な空間があってこそ夢を広げたり仕事をしてもいろいろな社会的な活動ができると思います。しかし、都市再生や地域消滅問題がソーシャルアジェンダになって久しいじゃないですか。ずっと「消滅」と「再生」に対する話題で空き家に対して関心を持っていて会議をしながらこのような考えを発展させたようです。
p.298
もう焦らずに
人々の間に
染み込んで
長く続けなければならないという
思いが大きいです。
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漁村の空き家は長く放置された家なので心配も多かったと思いますが。
─── 人が住んでいたぬくもりがなければ家も壊れるので、長く放置されていた分だけ陰湿さを取り除かなければという思いが一番多かったです。そのため、風がよく通って日差しがよく当たることが重要だと思います。もちろんリモデリングを通じて外観はよくなるでしょうが、その空間が与える気運というものを無視することはできません。例えばオフィスのインテリアは華やかで良いが、中に入るとなんだか気分が悪いとか、あるオフィスは粗末でも気楽で仕事がうまく捗ったりするといった気運のようなものがありますから。
「アートヴィレッジ」を建設するとしたとき、「こんな空間だったらいいな」 と頭の中に浮かんだ理想郷はありましたか?
─── ある特別な空間というよりは、人々が来て休みながら創作に対するインスピレーションを得ていけたらいいなと思いました。それで、基本的なものがよく揃ったところであってほしいと思いました。例えば、寝床がきれいでトイレを使うのが不便ではなく… ただ自分の家のように感じられたらと思いました。日がよく当たり、風がよく通り、快適で騒々しくないそんな空間であればいいと思いました。
p.303
基本的なものがよく揃えられているとおっしゃいましたが、建築家の方々に基本的なものに加えて特別に注文したものはありましたか?
─── 創作空間と睡眠空間の区分を明確にしてほしいと言いました。そして、創作空間で息苦しくないように外の風景を眺めることができたらと思い、それで、大きなガラス窓で創作空間と村の風景がつながる空間を作ってほしいと言いました。
そして、道を作ってほしいと言いました。外から創作空間に歩いて入ってくる道の情緒があればいいなと思いました。家の間にゆとり空間があり、ここに来た人たちが気楽に話せる裏庭や歩ける空間を自然に優しく親和的に設計してほしいとお願いしました。照明が明るすぎると生態系に被害を与える可能性があるので、ほのかにしてほしいと言ったのもその一つでした。
さらに細かく気を使った部分はありますか?
─── 村に元々あった家と「アートヴィレッジ」 の建物がよく調和してほしいということを特に強調しました。屋根のようなものも村の人たちが住んでいる屋根のような資材を使ったりしてあまり目立ってみえなくして、長い間そこに住んでいる人たちに拒否感がないようにと思いました。
p.306
通し窓を通じて
創作空間と村の風景が
つながることを願っていました。
そして、道を作ってほしい
と言いました。
p.307
都心の中の創作空間と違わなければ、あえて統営まで下ってくる特別な理由はなさそうなので、創作空間とはいえ、休める空間が含まれなければならないと思いました。
空も見て、風を感じたり、木を見上げたり、海を眺めたり ... 創作のためのインスピレーションを得たり、あるいはそれ自体だけで癒しを得たりしました。
もし、代表が 「アートヴィレッジ」で1ヶ月間居住することになったら、どんなことをしながら過ごすおつもりですか?
─── 何もしないと思います。普段 家でもそうですが、インスピレーションを得ようと努力するよりは、その空間に馴染んで 1ヶ月間ほど、何も考えずに楽に過ごすと思います。誰かが言っていました。海を見て何かを祈ったり、決心したりするなと。海を見るときは何も考えずに見ることだと。だから私も海を見るとき何も考えません。海を見るようにその家でよく休みたいです。しっかり休んでこそ仕事もうまくやれて、充電もしてこそ前に進むことができるのですから。
未来の 「アートヴィレッジ」 訪問者に一言お願いします。
─── 強圧的で強迫的なものから抜け出して、自由に休んでいただきたいです。
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空を一度見て遠くにある海を一度見て ... そうやって。創作空間だからといって、特別に創作をしなければならないのではなく、人々が楽な気持ちでユニークなものを感じ、インスピレーションも得られればと思います。
代表はどんな場所や空間からインスピレーションを得ますか?
─── 私は家にいるのが好きで、家という空間を大切に考えて家からインスピレーションを得ているようです。家にいるときの安定感が好きです。そのような安定的な空間があってこそ、夢を広げたり活動したりできると思います。反面、新しいところも好きです。インスピレーションとは慣れているところから来るインスピレーションがあり、慣れない場所から来るインスピレーションもあると思いますが、慣れない場所からインスピレーションを受けたときは、慣れた場所に戻ってそのインスピレーションを拡張させます。
家以外に好きな場所、インスピレーションを受ける新しい場所は、例えばどんな場所がありますか?
─── 路地のようです。その路地の中の人たちからあれこれたくさん感じます。そして、人々が生きていく姿を見ながらもインスピレーションをたくさん得ます。地方の国道で車に乗って通りすぎても、アパート一軒がポツンと建っていると
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外に出て
創作空間に戻る
途中にその道だけの情緒が
あれば嬉しいです。
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「あそこに入ってみたい」、「そこに住んでいる人たちとお茶を飲みながら話をしたい」 と思います。だから、「田舎のバス」キャンペーンをしながら良かったのが、若いよそ者がその村に行くと、村の方々が 「どこに行くの?」、「何かお探し?」 と声をかけてくださったんです。また、「ここに民宿はありませんか?」 と聞いたら「ここには民宿はない。私たちの家で寝たら」、「ここにはバスがない、私の車に乗って」 こういうのが情緒があってすごく良かったんです。人と人の間の情というか、そのようなことが最近たくさん消えていくので、いつも恋しくて、そんな情を望んでいるようです。
必ずしも空間でなくても 「俳優 キム・ナムギル」 にインスピレーションを与えるものがあるとしたら何でしようか?
─── 演技において最もインスピレーションを受けるのは歌だと思います。歌詞を大切に聞きますが、ある曲の歌詞を聞いて自分が表現したいキャラクターのイメージを思い浮かべます。絵のように頭の中で描かれたというか。例えばキム・ドンリュルの〈残響〉を聞いていると絶望的な状況の真ん中にいる男の顔の表情、落ちる涙のような具体的な場面がひとつ思い浮かびます。そのように音楽から伝えられる情緒を利用して普段私が想像するキャラクターのイメージを構築しておきます。そして後にそのキャラクターを適切な作品に溶かしたりします。
残響
作詞/作曲/編曲:キム・ドンリュル
声のない君の歌
耳を塞いでもかすかなるとき
人知れず抑えてきた涙
すべて吐き出して
飢えた心を満たそうと
呼んでみる君の名前
香りのない君の息づかい
息を塞いでもほのかなるとき
一日一日積んできた未練
すべて叩き落として
からっぽの胸を慰めようと
思いはるか君の顔
いつの日にか
時を重ねた傷口がすべて塞がっても
黒くすすけている心に君の涙で
新芽が青々と萌え立ち
君の息吹で木へ遂げたなら
その時であろうとも
僕のこの愛を受けてください
僕を抱き締めてください
たった一日でも生きさせてください
愛しています
凍りついた言葉はたちまち
こだまへ滲み込んでゆくのか
p.313
インスピレーションが浮かび上がればそれをどのように記録するのですか?
─── 以前はメモをしていたんですが、メモをした瞬間それが人為的に見えたんです。それで最近はイメージを頭の中だけで考えて家に帰ってきて、その記憶しておいたイメージを拡張してみます。拡張に成功すれば、演技する時に適用することもあります。
では、文化芸術 NGOギルストーリー 代表としてのインスピレーションはどこで得ていますか?
─── ニュースを見たり、人々がどんな事情で持ってどんな問題を持って生きているのか、社会が回っているのを見ながら得られるようです。私が生きている日常の中で「こういうことがなければならない」 ということが思い浮かんだりもします。「思いやり関心」キャンペーンもそのような繋がりでやったんですが、私は挨拶を本当に重要だと思っていますが、最近はお互いに関心が少なく、それだけに挨拶もあまりしないようで残念に思いましたし、こんな残念さがインスピレーションだとしたら、インスピレーションだと思います。
ギルストーリーが抱く目標を一言で表現してください。
─── ギルストーリーは共同体の生活を重要に思っています。
p.316
空も見て、
風を感じ、
木を見上げ、
海を眺め …
p.317
最後に、ギルストーリーがこれから進もうとする道の方向性が気になります。
─── 市民団体としての成果をたくさん見せたかったので、「私たちはこういうことをします」 と目につくことをたくさん積み上げたくて焦りました。しかし、今は焦らずに人々の間に染み込んで長く続かなければならないという思いが大きいです。ものすごい業績をたくさんお見せできなくても、人々と共に地道に続けていることが重要だと思います。
Epilogue.
一緒に歩んでいく道、その上の私たち。キム・ナムギル代表はギルストーリーを初めて起こした時に抱いた価値を地道な足取りで守っていた。その心が、彼が抱いた価値観がどんなテーマの質問を投げても、その答弁の中に溶け込んでいたため、ギルストーリープロボノの一人として私は自負心を感じざる得なかった。人々と親しく一緒にいることを、いつも共に幸せに暮らすことを願う彼の心は、これからも休まずに進むことだろう。それを知っているからこそ、私たちは彼の地道な足取りに沿って歩き、また歩きながら、今日も彼と共にある。
p.318
観客との出会いが私には燃料のような役割をします。
創作は私がしますが、創作できるエネルギーは観客から得られるようです。
─ カン・ベクス
p.320
私もすべての瞬間の私の答えが完璧ではないだろうし、
歳を取るにつれて考え方は変わり続けるでしょう。
そうだとしても、このように未熟な答えを出して生きる
誰かがここにもいるということを話してくれれば、
誰かにとって役に立つのではないだろうか?
─ チェ・ピョル
p.322
お互いに分かち合えるものがあるというのが良いことです。
もっと応援してくれて、もっと手伝ってくれて。
そうしながらエネルギーを得るんだと思います。
─ パク・ソヒ
p.323