「契約」という言葉は、誰でも「聴いたことがある、知っている」と感じるごく普通の言葉かもしれません。それでも、契約書の作成や調印の仕事に携わる人でない限り、契約を日常的に意識することはないのが普通でしょう。わかったつもりでいて、実はわかっていない法律知識の一つが「契約」であるといえるでしょう。
土地や建物を売り買いしたり、貸し借りしたりするようなときには、契約書を作成して、当事者が署名し、印を押しすのが普通です。それほど頻繁にあることではないうえに、不動産という重要な財産を対象とするので、契約は意識的に契約書の調印というかたちで行われます。
ところで、みなさんは、無人島に一人で住んでいるのでない限り、毎日、たくさんの契約を交わしながら生活しているということをご存じでしょうか。一日中自宅にいるときでも、あらかじめ交わした電気、ガス、水道等の供給契約の恩恵を受けて過ごしています。自宅でテレビを見るについては、NHKとの間で受信契約を締結している人も多いはずです。
車で外出すれば、ガソリンの売買契約を締結し、高速道路の利用契約をするはずですし、電車、バス、タクシーに乗れば、それぞれの会社との間で旅客運送契約を締結します。食事時には、飲食物を提供してもらう契約を飲食店との間で交わしたうえで、食事をするのです。
このように、契約関係は至るところに存在するのです。
さて、契約書を締結しない限り契約は成立していないのかとよく質問されます。
日本の民法では、口頭の合意だけで契約が成立するのが原則です。ならばなんのために契約書を作成するのかといえば、それは、後に、どのような内容の合意が成立したのかを証明する必要が生じたときのためです。お金を貸してあげたときには、借用書を差し入れてもらうのが普通です。特別な信頼関係があって、いちいち借用書をもらわないでお金の貸し借りがなされることもなくはないです。そのようにするのも自由です。ですが、もし、貸借の事実を否定されれば、証拠はありません。それでも書面を差し入れてもらわずにお金を貸すのは、あげたも同然と考えておくべきです。
契約書に調印する場合に、実印(市区町村役場に印影を登録したもの)でなければ有効でないのかと質問されることがあります。実印を押印するのは、本人が契約書の調印にかかわったことの証明を要するときに備えるためです。登記手続などの場合には、実印の押印と印鑑証明書が添付されていないと受け付けてもらえないことがあります。重要な取引の場合には、実印が使われることが多いのです。しかし、実印が押印されているからといって安心することはできません。勝手に他人の実印が押印されているかもしれないからです。一番重要なことは、契約の相手方本人であるかどうかをきちんと確認したうえで、本人の署名をしてもらうことです。後になって、本人が調印したかどうかを確認する場面では、実印が押印されていることよりも、署名の筆跡が本人のものであることの方が重要視されます。