小説「人工子宮」 木森木林
本文は科学的架空小説で、登場人物や設定は全て架空です。現在の科学的根拠があるところは青字にしています。このことを踏まえてお読みください。このことを踏まえてお読みください。
小説「人工子宮」 #アルファポリス https://www.alphapolis.co.jp/novel/730518115/106235230には、色分けしていないものを掲載しています。

 

【第1章 第1話】精子の凍結保存(嘉音18歳)

 35歳になった南戸嘉音のところにマッチングセンターから「マッチング希望確認書」が届いた。この確認書は、配偶子を凍結保存しており、35歳までに子どもを育てていないヒトを対象として送られてくる。卵子や精子のことを配偶子というが、18歳のときに採取して凍結保存しておくことが国家プロジェクトとして推奨されている。もちろん費用負担はなく、必ずしもしなくてよい。嘉音は18歳のときに精子を凍結保存していた。



 もう17年も前のことだ。指定された日に嘉音は配偶子センターに行った。受付にヒトはいない。顔認証や虹彩認証で本人照合は自動的に行われている。受付ロボに精液を採取する採精室に案内された。「最近3ヶ月に発熱はなかったですか?」、「何か服用している薬剤はありませんか?」など幾つかの質問に答えた。マスタベーションで精液を採取するよう容器を渡された。本人採取確認のために監視装置が設置されているという。もっとも精子を使用する際は、DNA照合されるので間違いが起こることはない。監視モニターは、ヒトの介入が不要なものとして日常に定着している。嘉音は受付ロボに部屋から出て行くよう言った。

 

精子は、思春期頃から一日に数千万が約3か月掛かって造られる。1つの細胞が第一減数分裂で2つに分かれ、さらに第二減数分裂で2つに分かれ、最終的に4つの精子ができる。通常、一回の射精で一億以上の精子が射出され、2時間もあれば受精の場である卵管膨大部(腹腔端)にたどり着き、女性体内では数日間にわたって受精能力を保つ可能性がある。もっとも精液があっても、精子が少ないことや運動性が不良なこともある。嘉音の精液所見は特に異常はなく、通常に凍結保存されていた。