二年ほど前から着付け教室に通いはじめ、最近ではひとりで着物を着て出かけるようになった。
着物と帯の組み合わせを考えるのは楽しい。帯揚げや帯締めのコーディネートに悩むのも心躍る時間だ。着ている間だけでなく、着物姿を空想したり準備したりする段階からワクワクしてくるのだから、着物にはなにか女心を惹きつけてやまない魔力があるように思う。
ただし一つだけ、どうしても好きになれない作業がある。半衿つけだ。襦袢に半衿を縫いつけていく作業は、裁縫嫌いの私にはどうしても苦手意識がついてまわる。これがなければもっと好きになれるのに…と頭をかきながら、渋々と半衿をつける。
着物を初めて着たのは七五三のときだったろうか。大人になり、成人式や卒業式などで着物を着るときは、準備や後片付けはすべて母まかせだった。振り袖を最後に着たのは、私が嫁ぐ前の両家の顔合わせでのこと。以来、たとう紙に包んだままタンスに眠る振り袖を、先日ふと気になって開いてみた。
襦袢には、真っ白な塩瀬の半衿がきれいに縫い付けてあった。母がつけてくれた半衿だ。娘が人生最後に着る振り袖のために、真新しい半衿を縫い付ける母。どんな思いで半衿をつけたのだろうと、その姿を思い浮かべたら、鼻の奥がツンとした。
思えば、私が着物を着るたびに母は半衿をつけてくれた。「今度の友人の結婚式には着物を着たい」 と無邪気に宣言していたわたし。テレビを見る私の隣で、半衿を縫っていた母の横顔。なんとも甘苦い想いがこみあげる。
今度田舎に帰るときは、新品の半衿をお土産に買って帰ろうか。母のタンスに眠る着物と帯とを引っ張り出し、襦袢に新しい半衿を縫い付けようか。
少しは恩返しになりますか?
母は素直に、一緒に着物を着てくれるだろうか。年をとって少し太った母に、私は上手に着物を着つけられるだろうか。
9月15日、もうすぐ古希を迎えようとする母に寄せて。
※去年の秋、実家からの景色
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