※ 感想記事内の台詞やページ数は、トレンドシェア公式HP「つかこうへい演劇館」内の「モンテカルロイリュージョン」台本を元にしています。現代では差別的に映る用語もそのまま記載していますので、ご了承ください。
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■「名誉村民になる事が決定してるっちゅうんやろ。…ほら この手紙みない、五島のみんなから『アイ子頑張れ、アイ子頑張れ、メダル待っとると毎日毎日、五島から手紙が来るとばい。…あんたのせいでうちはモスクワに行けんかったとよ」(P.66-67)
砲丸投げのオリンピック金メダルを目指す山口アイ子、苦節15年。
当初は名誉村民、村役場前に銅像を、と もてはやされていた彼女。
それがやがて人々の記憶から薄れ、今や、励ましの手紙を自作するほどプライドを削られきってしまっている
それでも虚勢を張る姿が、なんとも痛々しい…。
はるっぴの、もうひとつの大きな見せ場。
水野朋子がジャケットを脱ぎ捨て、被害者 山口アイ子に「変身」して語り始めるこのシーン。
それまでは都会的だった女性が、一瞬にして島育ちのモッサリとした女性に切り替わる様子にかなりビックリ…!!!
のっしのっしと動く手足。
込もって、野太く響く声。
スレンダー美人な はるっぴを通して、巨漢な女性が見える
舞台演劇にはそういう役者さんがいると聞いたことはありましたが、本当にこんなことあるんだ…!
これには、震えるほど感動しました。
■「うちのことなら心配なか。うち、立花コーチと結婚するから。…コーチはうちんことだけ愛してくれるとよ。…うちだけは違うばい。十五年間、コーチと二人三脚でやってきたとよ」(P.71-72)
「一緒に五島に帰ろう」と話す大山金太郎を、なんとか追い返そうとする山口アイ子。
立花五郎が他の女性選手を食いものにしていたという話にも、まったく聞く耳を持たない。
このシーンも、個人的には2度目に観劇した時にやっと意味がわかった台詞でした。
というのも、立花コーチから自分だけは愛されていると叫ぶ彼女は、実はこの時、すでにその立花コーチを…
それに気づくと、夢見る乙女のような山口アイ子がもの凄く怖く感じられるのだけど、それと同時に、彼女の狂気はあまりに切ない
このシーンを演じる はるっぴの凄みに、観ていてすっかり足元をすくわれ、このあとの台詞の流れに飲み込まれるような感覚に
■「じゃったらアンタ。どうやってウチら合宿の費用やら、遠征の費用出すとね。…アンタみたいなパンツ泥棒には、メダルっちゅうもんが、日の丸っちゅうもんがどういう物かはわかっちょらん。…あんた、スポーツマンをなめたらいかんばい。…小さい頃からあんな重い玉を投げさせられて来たうちの何が分かるね」(P.72-73)
立花コーチから「メダルを獲らせてやる」と言いくるめられて売春を強いられ、最近では客すら付かなくなって「コケ」となっていた山口アイ子。
華やかに見せていたかった15年間の実情を大山金太郎に暴露され、開き直るように怒りをぶちまける彼女の五島弁がなんとも痛々しく切ない…。
大山金太郎の同情を、猛打猛打のフルスイングで打ち返すような山口アイ子の激しさ
とはいえ その激しさの中には、自分がただ利用されただけと認めたくない、そんな幼い恋をした訳じゃないと抗う気持ちも見え隠れしているように感じました
そして、このあたりから はるっぴの演技は、さらに回転を増して凄まじくて。
それも「え…どなた⁈」と目を疑うくらい
山口アイ子の情念が乗り移り、スリムで美しい はるっぴを目では見ているのに、僕の頭の中には化粧っ気のない大柄な女性がはっきりと映り、その怒号が響き渡っていました。
本当に素晴らしかった
少し話が逸れますが、
アイドルの大きな魅力は「無心」や「儚さ」だと思います。
とにかく「無」になって、必死になって生み出すものが美しく、その瞬間は神にも近いと思えるくらい きらめく。
でも、それを意識してしまった瞬間、大人になった瞬間、知識の実を食べたイヴのように、もう同じ表現はできなくなる
だから、尊い。
何千何万といるアイドルの中で、はるっぴのように常に何か挑戦や努力をしている人は本当に稀ですから、おかげで僕はトップアイドルがきらめく瞬間を沢山沢山見せてもらえました。
本当に素晴らしい日々でした
その はるっぴが女優になって、まだ2作目だし、新しい経験の最中ではあるものの、約1ヶ月間 何度も何度も同じ役と台詞を繰り返すことになる「舞台」。
アイドル時代には「自己表現」を求められていた人が、作品を研究し、登場人物を自分に投影し、それを何度も反芻して、他者を「演じる」ことに自らの魅力を詰め込むと、あれほど美しくなるんですね。
その、化学反応のような きらめきは生命力にあふれ、観ている人の魂まで燃やし、人間讃歌が轟いているような尊さでした
今回の舞台ではアイドル時代のファンはもとより、他のキャストさんや作品そのもののファンの皆さまからの高い評価が多くて、それも回を重ねるごとに増えていったのが、僕は嬉しくてたまりません。
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