- 鹿男あをによし (幻冬舎文庫)/幻冬舎
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裏表紙より―
大学の研究室を追われた二十八歳の「おれ」。失意の彼は教授の勧めに従って奈良の女子高に赴任する。ほんの気休めのはずだった。英気を養って研究室に戻るはずだった。渋みをきかせた中年男の声で鹿が話しかけてくるまでは。「さあ、神無月だ――出番だよ、先生」。彼に下された謎の指令とは?古都を舞台に展開する前代未聞の救国ストーリー!
本文より―
「教師の仕事というのは、我慢比べです。相手がそれと意識していない我慢比べです。ときには一人相撲になって、ひどく疲れることもあります。ですが、いつ、どういう形になるかはわかりませんが、努力は必ず実を結びます。どうぞ、誠意と熱意を忘れずに生徒たちに接し続けてください」
奈良の女子高へ講師として赴任した主人公。指導に悩む彼に教頭が声をかけます。教育は共育と言い換えられるように、生徒の成長させているようで自分が成長させてもらっています。講師時代、試行錯誤と疑心暗鬼の連続の中、自分の支えになったのは「教師をするならば24時間教師でいなさい」という恩師の言葉でした。常に自分の言動は生徒たちの手本となるものなのかを自問自答した講師時代でした。周りの先生方に比べたら自分の何たる人間の小さいことか。負けそうになった時も「誠意・熱意は消したらアカン」「いつか伝わる時がくる」と踏ん張り。ただただ媚びる大人にはならないようにと全力でぶつかった時代でした。
本文より―
「もちろん――負けることもあるだろう。けれど、それはいいんだ。負けてもいい。剣道は勝負がすべてじゃない。だが、やる前から負けるとは絶対に思うな。相手は京都と大阪だ。怖いと感じることもあるかもしれない。別に怖くなってもいいんだ。それは人間の自然な感情だ。ただ、やる前からあきらめるな。それは相手に負けたんじゃない。自分に負けただけだ」
相手に勝つことは常に目標に持ちつつも、「昨日よりも今日、今日よりも明日」。団体競技は相互に不足部分を補い、良い部分を持ちあって、一人では成し遂げられない目標を達成することができます。しかし個人競技は全ての責任を背負いこまなければならなりません。その点において気持ちの部分が結果を大きく左右します。だからこそ主人公は剣道の最終板に生徒へ、そして世界を左右する大問題を一人抱え込んでしまった自分に、このように声をかけるのです。自分に負けるな、逃げるなと。
本文より―
社会人が素敵な相手に出会う日数は年に最大四十日しかないという理論なのだという。一週間のうち月から金までは仕事をしている、土曜日は家で休んでいる、となると新たな環境に顔をのぞかせるのは日曜しかない。つまり三百六十五日の七分の一で約五十日、その全部を自由に使えるわけでもないので、少し引いて四十日。
学生時代には、永遠だと思っていた時間が社会人になると一気に限りが見えてきます。あの頃に戻りたいと、なんと無駄な時間の使い方をしたのかと後悔するわけです。しかし無駄に見える時間の量だけ人生に深みが出るのだと思うのです。たとえば一年に40日しか自由にできる時間がないとしても、40日の使い方に違いが生まれるのではないでしょうか。
あとがきより―
万城目小説には神秘さが満ち満ちている。これを最大の喜びに変えることができるかどうかは読者の器量いかんにかかっている。
読書家として知られた故・児玉清のあとがきが素晴らしい。あとがきが絶妙に言葉の表現や奈良の町の雰囲気など物語の中で語られ切れなかった部分を補っています。そして最後に、この素晴らしい作品を、素晴らしいと感じることができるか否かはアナタの「器」にかかっているのだと。。。- 鹿男あをによし (幻冬舎文庫)/幻冬舎
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