小説大好き!! -42ページ目

『天使のギタリスト』本編~羽を受け継ぐ者~

『天使のギタリスト』~羽を受け継ぐ者~

七月二十五日 晴れ

今日は早速例のバイトに向かう事になった。
嫌だなぁ……あまり会いたくないんだけど……
まぁ、仕方が無い……完全に不採用だと思ってたのに、まさか採用されるとは……
そんな事を考えつつ歩道を歩いていると、私の麦わら帽子に数滴水飛沫があたる。
気がつくと市民プールのフェンス沿いを歩いていた。
皆楽しそうに、真夏のひとときを堪能している。
「いいなぁ」
水着買ってたのに今年はバイトか……バイト料にいい男、釣られてしまった私が情けないよまったく。
いいもん。その代わりたっぷりとおこづかい貯めてやる。
何買おうかなぁ……前から欲しかった新型のパソコン欲しい……買えるかなぁ?
妄想にふけながら歩き続けようやく一軒のライブハウスにたどりつく。
まだ、朝十時。当然ながら開店してはいない。
バイトの内容はどうやら開店前までに掃除やステージのセッティングなど、雑用をしなくてはいけないらしい。
そんなに難しいことでは無さそうなのでバイトを引き受けたのだが……やっぱり一番問題なのが……社長に顔合わせられない事。
『あれ』さえなければなんて事はなかったのだが……はぁ。
悩みつつもドアノブに手をかける。
「あれ?」
開かない……って当然だよね。お店閉まってるわけだし。
なので数回ノックしてみる。
「はーい、ちょっと待っててね」
中から甲高い男性の声がする。どうやら『彼』ではないことに少し安心した。
そしてガチャリと鍵が開く音―――そして扉が勢いよく開き……
「お待たせー。あっ例のバイトの娘だよね? 確か」
「お世話になります」
私は深々とお辞儀をする。
扉を開けてくれた男の人は私をまじまじと見ながら
「ふぅぅぅん。君かぁ~例の娘って」
「例の? 」
何だろう? 例の娘って?
「ほら? あれだよ。 空から降ってきた」
あ、もしかしてあの事言いふらされてる……
「やっやっぱり、私帰る」
そのままクルリと反転。そのまま帰ろうとする私……だって……恥ずかしくてやってられないよ。
今年は新品の水着で泳ぎまくってやる事に決定!そうだ!そうしよう。無駄にならなかったね私の水着ちゃん。
「まぁまぁ、そう言わずにさ。 社長が首長くして待ってたんだから」
彼は私の洋服を背中からムンズと掴み中に引き込もうとする。
「嫌ぁー絶対に嫌ぁーーーー」
私は手足をバタバタ振り回し抵抗するが……はたから見たらただの駄々っ子に過ぎなかった。
「社長ー! 例の女の子来たよー。 おーい! 」
ひぃぃー呼んじゃってるよ。嫌だよ。帰るぅ。
「ふんがぁ」
私は全身全霊を込めて負けじと出口に向かうのだが……
ズルズル……
駄目だぁ。男の人にはかなわない。まるで狩で狩られた獲物のようにズルズル……シクシク。
「うわーん。お家帰るぅ」
私の悲痛な叫びがライブハウスの入り口でこだまするのであった。

実話「小さな親切と、大きな感動」

我輩と母上は、テーブルに置かれた一通の封筒を不振そうに眺めておった。
「はて?何だ?この手紙?」
母上は、不思議そうに手紙を手に取り、宛名を確認するが……
宛名は妹。我輩は妹を呼び、封筒を開けさせた。
妹が封筒から、二通のメッセージを取り出し、一通目を読み出した。
そして我輩は叫んだ。
「ああ、あのときの人だ!」

実話
「小さな親切と、大きな感動」

5日前……
我輩はしぶしぶ母親を連れて、デパートのお客様感謝デーなどという
催し物にきていた。
良くある、お得意様しか入れない特別な日で、品物が安かったり、外れなしのくじが引けたりと……
いわゆる、おばさん達のパラダイスなのである。
しかし、そのような物に我輩は興味がない。
第一人が多い!あのようなところに入ったら、我輩は恐らくいらいらして
通行人を全て蹴っ飛ばして歩くであろう。
というわけで、我輩は駐車場に止めている愛車の中で、優雅に昼ねするのであった。
さて、どれくらい寝たであろうか……母上が、我輩の愛車のトランクを叩く音で眼が覚める。
また、大量に買い込んだものだ……トランク一杯に買い物袋を詰め込んで、
母上は、助手席に乗り込んだ。
そして、帰宅中、母上はこんなことを言っていた。
何でも、母上が店を出ると、家族連れの人が招待状が無くて入れなく、へこんでいたらしい。
母上は、どうせ捨てるのだからと、持っていた招待状を渡してきたのだといっていた。
しかしこれが、思いもよらぬ展開になるとは……


さて、舞台は我が家にもどる。
我輩は一瞬で悟った。
そう、この封筒はあの時母上が招待状を渡した人だったのだ。
なんともはや、便箋2枚に感謝の言葉がずらずらと……
母上は少し、気持ち悪そうにしていたのだが。
ゴミを渡して、感謝されるなんて正直我輩も驚いていた。
だが、ここまで感謝されると、何もしていない我輩も気分がいい。
二人の息子に、たまごっちも買うことが出来たと感謝文も書いてあった。
たったこれだけのことで、感動が生まれるのか……
人生面白いこともあるものだ。
さて、何故これが妹に届いたのか?
一家三人、しばし考え込み我輩がこたえる。
「招待状、お前のじゃないのか?」
我輩は、妹を指差した。



なるほど、納得。

ここから出して!

僕は中国で生まれて、そのままダンボールに入れられて日本にやってきた。
でも、なぜか……
やっと外にでれたかと思ったらいきなり、箱の中に入れられてしまった。

(ココから出して!) 



箱に入って一週間、なぜか僕そっくりな奴がひしめき合っていた。
「押すなよ、あっちいけよぅ」
「うえにのっかるなようぅ」
皆文句の言い合いだ。
でもみんな口をそろえて言うお決まりの言葉。
「ココから出たいなぁ」
何人かはココから出て行った。
ココから出て行った奴は人間に抱かれそれはもう幸せそうな顔をしている。
いわゆる僕たちの夢である。
僕たちの憧れは人間に抱っこされること。
人間に愛してもらうこと……
ああー想像するだけで……
早くココから連れて行ってよ。
でも僕は下の方で埋もれている。
いつになったらでれるのか。
今日も何人か外に出て行った。
みんな抱っこされて幸せそうだった。
……いいなあ。
……いいなあ……羨ましいなぁ……
赤い服の人たちが掃除を始めた。
ああ。
今日はもうお終いか。
又明日……
誰がそとに出れるのかなぁ……

次の日のお昼。
僕は有頂天だった。
だって今僕一番上に居るんですもの。
ウフフ。
今日は絶対出れる。
外に出れるぞぅ。
いやぁー嬉しいなあ。
誰か早く来ないかなぁ。
あ、女の子が来た。
あ、お金入れたぞぅ。
あ、僕のところに愛の手が……
あ、僕の首についてる紐に愛の手が引っかかったぁー。
やったーこれで外にでれる。
女の子に抱っこしてもらえるぞぅ。
え、あっちょっと待って。何で帰っちゃうの?
待ってよーーーーーーー。
赤い服着たお兄さん呼んできたら外に出してもらえるのに。
でも……
女の子はそれが分からなかったみたい。
少し涙ぐんで外に出て行った。
僕は愛の手にぶら下がったまま。
愛の手は僕にすまなそうにこういった。
「ごめん。せっかくのチャンスだったのにな。」
僕は涙があふれてきた。
外に出れると思ったのに。
抱っこされたかったのに……
赤い服のお兄さんがやってきた。
ああ、元に戻されるのか。
ちくしょう、もう少しだったのに……
だけどなんか違う。
僕を手に取りきょろきょろしてる。
元に戻さないのかな?
ひょっとして捨てられるのかなぁ……
え、え?
赤い服のお兄さん僕を持ったまま外に走り出した。
外にはしょんぼりしているあの女の子?
え?え?え?
僕は女の子に手渡された。
「ハイこれ。おめでとう。」
赤い服着たお兄さんはニッコリ女の子に僕を差し出した。
「わー。ありがとう」
女の子は僕をギュッって抱っこしてくれた。
うわぁー。
気持ち良い。
これか。これかぁ……
なんて気持ちいいの。
まるで天国のようにあったかいよぅ。
赤い服着たお兄さんは大事にしてねと言いながら入り口から姿を消した。
女の子は僕を眺めつつニッコリ。
そして僕にキスをくれた。

僕はただのリラックマ。
でも今一番幸せだ。


ああーーーーーー最高だぁーーーーー。