「男は浮気する生き物でしょ」
なんてフレーズを鼓膜に叩きこまれる
ことがときどきある。
どうなんでしょう。
まずもって、
ぼくは浮気をしたことがない。
まったく、ない。
だから、友人の話を引用させてもらう。
彼は、とても心の清らかな男だ。
彼の心は、いつも清流四万十川のように
心地よくせせらぎ、
シーズンともなると、彼のおだやかなる
心の水面には、天然もののアユが
ぴちぴちと跳ねるとか跳ねないとか。
そんな男の経験談であることを、
先に理解しておいてほしい。
学生の頃、彼は夜のクラブ活動に
献身的に身を捧げていた。
ある夜、
踊り狂う友人たちを横目にアルコールを求め、
ひとりカウンターの方に歩みを進める彼の二の腕を
見知らぬ女がむんずと鷲掴んだ。
振り返る彼に初見の女が、
「キスしていい?」
と官能の眼差しで言い放つ。
あいさつすら端折(はしょ)られた、
この単刀直入な見知らぬ美女の提案を
無下に断れる男がいるだろうか。
エロだけはなしに、
小粋かどうかという意味においても。
後日。
隣で眠る彼女の安らかな寝息を確認した彼は、
彼女を起こさないようゆっくりとベッドを降り、
ぎこちない動作で床に正座。
彼は、言葉にできない胸のささやきを
問わず語り始めた。
「(キミはアルコールという摩訶不思議な液体をご存知か?
あの琥珀(こはく)色は危ない、危険過ぎる。
先日、琥珀色の海にぼくの良心が溺れ死ぬという
それはそれは悲しい出来事があった。
今後は己の致死量を見極め、用法用量を間違えないよう
気をつけ・・・ます。
まことにもって、申しわけない)」
彼にとって、人生最初の土下座だったそうだ。
月日は流れる。
彼は、男女交際に飢えた獣(≒友人)たちの
人柱となるため、コンパに参加した。
ヨゴレとして。
率先して汚れ役に徹した彼の献身が功を奏したのか、
彼の隣に座っていたひとりの女性が、
その胸元にそびえるたわわな双子のお山を
彼の肩口にむにゅむにゅーぅっと
惜しげなく押しつけ話しかけてきた。
いつにも増してたれ下がる目じりと鼻の下を
気にしながらも、
「(もう同じ過ちは二度と犯さない)」
そう心に固く誓った彼。
彼は、心のなかにある彼女への想い、『愛の城』に
籠城(ろうじょう)して、押し寄せる欲望の波と
対峙した。
「(キミと築いた『ラブ・キャッスル』、
ここに 引きこもっていれば、
欲望など難なくやり過ごせるはず)」
そんな願いをあざ笑うかのように、
彼のバディに異変が起こった。
彼女のため、愛のため、心を固く閉ざした
彼の『天守閣』部分が固くなり始めたのだ。
間もなく、
膨張した『天守閣』部分から煙があがる。
そして、ついに『金のシャチホコ』部分が
口から煩悩(ぼんのう)の炎を噴き始めた・・・。
敵は我が内にあり・・・落城の瞬間だった。
後日。
大口を開け、ゆるみきった安心の表情で眠る
彼女のかわいいいびきを確認した彼は、
彼女を起こさないよう、
いびきのリズムに合わせてベッドを降り、
手慣れた動作で正座。
フローリングに額(ひたい)を擦りつけながら、
彼は、
けっして口に出せない胸のささやきを、
祈りを捧げるように問わず語り始めた。
「(『雪よ 岩よ 我らが宿り
俺たちゃ 街には 住めないからに』
あなた様は、『雪山賛歌』という歌を
ご存知でらっしゃいますか?
山が高ければ高いほど、本能をくすぐられて
しまうのが山男の性(さが)。
また、
『娘さんよく聞けよ 山男にゃ惚れるなよ』
なんて唄もありますれば、そんな生粋の山男に
惚れてしまったあなた様にとって、
今回の出来事はある意味、やむを得ない
出来事と言ってよいのかもしれません。
今後、二度と『山』に登らない、近づかないことを
お誓いしますので、今回の件は、どうか、
なかったことにしていただけないでしょうか。
「(本当に、申しわけございませんでした)」
このとき彼は、謝罪の教則本に掲載できるほどの
見事な土下座ができるようになっていた。
のちに、彼の深夜のひとり謝罪は、
『王様ゲームという呪われた儀式をご存知か?』
『キャバクラなる小悪魔たちが集う悪の巣窟を…』
等々、シリーズ化されていったわけであるが、
そんな彼も、あることをきっかけに
浮ついた行動をいっさい慎むようになったそうだ。
それは、ある出来事に怒り狂った彼女に、
愛読書をマンションの10階から
100冊ほど投げ捨てられたからでも、
真冬に水風呂の中にたたき落とされたからでも
ない。
そのきっかけとなった出来事は
・・・これだぁ、1・2・3(ワン・ツー・スリー)
それはある日、
彼女も交えて、友人たちと親しく交わり話していた
ときのこと。
空気はムダに吸うだけ、まったく読もうとしない
アホ過ぎるひとりの友人が、彼女にむかって、
「コイツの浮気とか、心配したことないの?」
なんてクズのような質問をした。
それに対して、
「うん!そんなこと考えたこともないよ」
と言いきった彼女のきらきらした笑顔を
見た瞬間、
彼は、世界中のよごれモノを口のなかに
突っ込まれたような嫌悪感を己に感じたそうだ。
それは、大人が無垢な小学生を油断させて、
チビッ子の大事なお小遣いを根こそぎだまし盗る。
そんな類の事件をメディアを通して知ったときに感じる
あのきわめて不愉快な気持ちに似ているのかもしれない。
自分を信じて背中をあずけてくれる相手の足もとを
すくうようなヤツは、卑しすぎる。
以来、彼は改心して、
「恋の七三分け(めがねキラーン)」
と呼ばれるほど実直な人間になったそうだ。
なにかを知る、経験することは大切だが、
でも、なにかを体感したときに、
なにを感じるか、なにを感じたのか、
こちらの方が、より大切なのでは
ないでしょうか。
それに、本当に大切なことは、案外、
何気ない日常の見過ごしがちなものにこそ、
宿っているのかもしれませんね。
男が浮気する生き物かどうかなんて、
ぼくにはわかりませんし、女のひとだって、
開放的な気質なひとはきっといるでしょう。
誰が浮気するかなんて、
ぼくは知らん。
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