友人の披露宴。


15人ほどは楽に座れる円卓、左隣の後輩が下卑た表情で僕に話しかけてきた。


「副隊長、この前のエロDVD、試してみました?」


それ自体がワイセツ物と言っていい彼の顔面をなるべく直視しないよう注意しながら2,3日前、場末の居酒屋で交わした彼との会話を思い出す。


「副隊長、エロアニメとか見ます?」


僕は否定の言葉に代えて、目一杯眉を怒らせて彼を睨みつけた。


「いや、マジ最高っすよ。騙されたと思って一回試してください」


「アニメ自体、子供の見るもんやろ。それにエロをブレンドして手慰みに使うなんて大人のすることと違うわ、アホ」


全く興味を示さない僕に尚も執拗に説得を試みようとする後輩。

無駄なゴリ押しを何よりも忌み嫌う僕は、手招きをして無防備に身を寄せてきた彼の額に渾身の頭突きをお見舞いした。


いついかなる場所でも後輩への情操教育を疎かにしない。


歳不相応にハゲ散らかしたお陰で境界が曖昧になった額と思しき箇所を手で押さえもがき苦しむ後輩を横目に僕は正面を向きなおして居住まいを正した。



「この話はもうおしまい。30過ぎて、何でもありの高校生みたいな真似ができるか、ボケ」


酒の席の興を削がれた僕は、そのあと間を置かずに席を立って家路についた。



帰宅後、返す刀で車に飛び乗り、僕は音を追い越す勢いで馴染みのレンタルビデオ店に駆け込んだ。エロアニメコーナーの陳列棚の前で背筋を伸ばし、しれっと暗記していた件の後輩推奨の品々を不退転の決意で物色し冷酷なまでに完璧に任務をコンプリートした僕は、軽やかなステップで自室に返り咲いた。


もちろん、後輩の妄言を検証することで、明日、彼の性的スタンスがいかに社会人として許すまじ嗜好であるかを再び怒鳴り散らしてやるための『親心』ゆえの行動である。


その夜・・・、


僕は、『何でもあり』の高校生どころか、人生二度目の『覚えたばかり』の中学生となった。


※もちろん、この話はフィクションです。登場する人物、団体名などは実在のものと一切関係ありません。


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