ポン太は校舎の3階にある教室の窓の前に一人立ち、

誰もいない昼下がりのグラウンドをただぼんやりと眺め

ながらある事について考えていた。

「(あと半年で終わる♪)」

その内心の思いに呼応して目じりにうっすらと笑い皺(じわ)

を刻みはじめたポン太の横顔の変化を窓際の席に座り

ながら盗み見していたクラスメイトが、

「ポン太、何ニヤついてるねん?また女か♪」

と、この年頃特有の常套句でポン太の静謐に割って入ってきた。


このクラスメイトーヨシオは、何かにつけてポン太と女を

結びつけてポン太の揚げ足を取ろうとする。

それが悪意からではなく、ヨシオなりに考えたポン太との最良の

コミュニケーションツールと思い込んでいることをポン太も

わかっている。

それに他のクラスメートたちも漏れ聞こえてくる二人の会話を

少なからず楽しみにしている雰囲気を何とはなしに感じている

ので、ポン太もヨシオのこのスタイルを咎める事なく

そのままにしていた。


ポン太は声のした方向に顔だけを向け、抑揚をなるべく抑えた

口調で、


「アホか。こんなクソ暑い、しかも、チ●コだらけの空間でそんな

ロマンティックな妄想ができる訳がないやろ、ボケ」

と言い終わると、今度はくるりと体の向きを変えてゆっくり

とヨシオに近づいていった。


その身体に比例した大きな顔からポン太の言葉を全く

意に介していないとばかりにヤニ下がったヨシオの表情が

はっきりと読み取れる距離まで近づくと、ポン太はひょいと

長身を折り曲げ、大げさに鼻をひくひくさせながらヨシオの

机の下に顔を潜り込ませる。

そして間を置かずに、ポン太の不可解な行動に気勢を削がれ

きょとんとしているヨシオの視界に下卑た笑いを貼り付けた

ポン太の顔が戻ってきた。


「おまえ、昨日は大漁か?今日は一段と魚屋の臭いがするぞ。

しかも、イカ専門の魚屋の臭いやな♪」


ヨシオよりも周りのクラスメイトを意識して大きくしたポン太の声に

誘われるように、おのおの好きな事をして休み時間を潰していた

クラスメイトたちが、二人の方を意識し視線をこちらに向けはじめた。


その変化を肌で感じたポン太は、予期せぬ攻守交替に

動揺を隠せないヨシオからそのまま視線を外さず、

畳み掛けるように続ける。

「ヨシオ、おまえ、昨日、何回自家発電したん?

2回や3回と違うやろ♪それやったら、今から関電に電話して、

真夏の電力不足にボク、協力します!言うてこいよ♪」


「アホか・・・。」

ヨシオが苦笑いとも本当に笑っているともとれる微妙な笑みを

顔に貼り付け、両手で自分の髪の毛をかきむしりながら

そう言うと同時に、教室の半分ほどが爆笑の渦に包まれた。


クラスメイトからの野太い歓声と賞賛のこもった

笑いを全身に浴び、本当なら飛び上がらんばかりに

喜んで皆の労いに応えたいところなのだが、

そこはポン太18歳。


まだまだ感情を素直に表せない自分の未熟さを

隠すように努めて冷静なフリを装っている。

しかし、その外見とは裏腹に、


「(危なかった・・・。話してる途中、関電のオチの前で

オレが笑ってしまうところやった。オチの前に、話してる

本人が笑って何言うてるかわからんようになったら、

会心のボケが台無しやもんな♪

しかし、我ながらナイストーク☆

まあ、本当は、オレが人間発電所やったんやけどな♪

だって、クラスで回し読みしてた刺激物の順番が昨日

やっと、オレに回ってきたんやもん♪

そら18やし、しゃーないわ♪)」

とポン太は腹の中で、ひとり祝賀会を開いていた。


そして、まだ笑いの余韻冷めやらぬクラスメイトの輪から

距離を置くように体の向きをずらし、手柄の半分は自分の

ものと言わんばかりに勝ち誇ったヨシオの横顔を見つめて、


(コイツはわかり易いなぁ。それに相変わらず守りに弱い♪

おまえが邪魔をしてきたとき、オレはあと半年でこの

年中ワッショイ、チ●コ祭りの男子高とも卒業(おわかれ)や

と思って笑ってたんや。でも、こいつらと一緒にいるのもまあ、

悪くはないんやけど・・・。)」


そんなことを思い、グラウンドを眺めていたときと、ほんの少しだけ

種類の違う微笑を浮かべている自分に気付いたポン太は、

その感情に抗うように眉間に皺(しわ)を寄せ両手をポケットに

ねじ込んで、自分を目で追う視線を意識しないようにしながら

廊下のほうへゆっくりと歩いていった。


自分の生み出した熱気にいつまでも浸るのは格好良くない・・・。


まだまだ偽悪的な所作に美徳を感じてしまうポン太18歳、

夏の1コマでございました☆


最後まで読めたらよろしくお願いします♪

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