コーエーテクモの『真・三國無双』シリーズは、「一騎当千」を志向するアクションシミュレーションゲームである。無数の敵兵がひしめく大軍の中へ単身で飛び込み、自らの腕で戦局を切り開く――それがこのシリーズの醍醐味だ。
シリーズは近年、低迷が続いていたが、今年発売された新作『ORIGIN』は、この暗黒期を乗り越え、売上・評価の両面で刷新に成功した。しかし、詳細に分析してみると、本作はまったく新しい要素を導入したというよりも、既存の要素を巧みに再構築した印象が強い。
では、なぜ『ORIGIN』は従来の手法を踏襲しながらも、過去作とは異なる高評価を得ることができたのだろうか。
ゲームシステムと既存の要素
シリーズのアイデンティティとも言える、弱攻撃と強攻撃を組み合わせて最大6連撃を繰り出すアクションは、大きくは変わっていない。強攻撃は「中立強攻撃」「チャージ強攻撃」「回避強攻撃」「ガード強攻撃」に分類され、全9種類の武器ごとに強攻撃の性質が異なる。
たとえば、剣は従来シリーズと同様に弱攻撃と強攻撃の連携を軸とするが、偃月刀は『真・三國無双5』の「練武システム」に近いアクション性を持つ。矛は、受けたダメージ量を攻撃力上昇に変換するチャージ攻撃を持つ。このように、従来作では多くの武器が似通った挙動を見せていたのに対し、本作では各武器ごとの個性やメカニクスがより明確に差別化されている。
無双乱舞と覚醒は『戦国無双4』と同じく、共通のゲージを消費する方式が採用されている。さらに、プレイヤーは敵の攻撃を「回避」したり「パリィ」したりできるようになった。
『真・三國無双 ORIGIN』は、シリーズ最大規模の戦場を実現した。ワールドの広さ自体はオープンワールドであった『真・三國無双8』を超えてはいないものの、戦場に配置される兵士の数は『8』を凌駕している。背景となる城壁や望楼などの構造物も、より重厚感をもって描かれ、圧倒的なスケールを感じさせる。
さらに兵士数が圧倒的に増加したにもかかわらず、その好戦性も著しく高まり、プレイヤーには無数の攻撃が降り注ぐ。
マップ上には味方・敵それぞれの拠点が点在しており、戦場の「士気」によって戦況の勝敗が左右される。プレイヤーは軍全体の総士気および主要戦闘地点の士気を確認し、窮地に陥った味方を救援したり、敵の弱点拠点を制圧したりするなど、戦術的判断で戦局を動かしていく。
この部分を支えるのが「武芸」と「戦法」のシステムである。武芸の4スロットには好きなスキルを設定でき、敵将や兵士との戦闘を自在にコントロールできる。戦法の3スロットには護衛兵の部隊単位での戦術を設定でき、これを活用することで敵軍団を戦略的に弱体化させることができる。これらの要素によって、本作はアクション面だけでなく戦術面でも刷新されたと評価されている。
実は過去作にも存在したシステム
ここまでが一般的な『真・三國無双 ORIGIN』への評価である。しかし、これらの要素の多くは実のところ、過去作にも存在していた。
拠点を制圧して味方兵の出現や士気上昇を図るシステムは『真・三國無双4』にも存在し、拠点内の敵兵を一定数撃破して制圧する形式は『真・三國無双5』から導入されている。大規模な攻城メカニズムも『5』の時点で実装されていた。ゲージを消費して強力な一撃を繰り出す「収撃」システムは、『真・三國無双7』の「ストームラッシュ」にあたる概念である。
また、弱攻撃・強攻撃以外にスキルのような技を使う「武芸」も、『真・三國無双8』における「ステートコンボ」として既に登場していた。護衛兵を活用した戦術的要素も、スピンオフ的作品『真・三國無双8 Empires』で初めて採用された概念だ。
さらに、「フロムソフトウェア作品のようだ」と評された回避・パリィのシステムも、実は過去作に存在していた。回避は『5』や『8』にもあり、パリィに近いカウンター技も『5』で確認できる。『7』には「バリアブルカウンター」という名称の反撃システムも存在した。
つまり、構成上『真・三國無双 ORIGIN』は思われているほど大きく変化していない。しかし、販売実績が示す通り、プレイ体験や作品評価は過去作に比べて大幅に向上している。では、なぜこのような結果になったのだろうか。
旧作システムの問題点
敵に強力なダメージを与える範囲攻撃「ストームラッシュ」と、カウンター技「バリアブルカウンター」は、『真・三國無双7』で導入された「じゃんけん式の武器相性」を基盤としている。自分の武器が敵の武器相性に有利な場合、「ストームラッシュ」が確率で発動し、不利な場合は反撃かつ武器切り替え技の「バリアブルカウンター」で窮地を脱する仕組みである。
しかし、このアクションメカニクスの問題は、武器切り替えがワンボタンで即座に行える点にあった。プレイヤーは、相性の悪い敵に出会っても即座に有利な武器へ切り替えられるため、リスクがほとんどない。結果として「バリアブルカウンター」は実質的に意味をなさず、「ストームラッシュ」ばかりが発動する状態が多く生まれた。さらに「ストームラッシュ」の発動条件自体が敵への攻撃中にランダムで起こる仕様のため、プレイヤーが意識して発動を狙う必要もなかった。このように、相性システムは戦術的な深みを生み出すことに失敗していたのである。
『真・三國無双 ORIGIN』の「武芸」に似た『真・三國無双8』の「ステートコンボ」は、弱攻撃・強攻撃に加えて4つのスキルを使うことで、多彩で派手なコンボを演出できる仕組みであった。そのうち1つはクールタイムの長い必殺技で、残り3つの即時発動技は敵を転倒・打ち上げ・気絶させる効果を持つ。
だが問題は、どの技を当てても結果がほぼ同じである点、どの状況でどの技を使うべきかが曖昧な点、そして必殺技を除けばクールタイムが存在しなかった点にあった。そのため、プレイヤーはステートコンボと通常攻撃を繰り返すだけで、ほとんど抵抗を受けずに敵を倒すことができた。技の区別が意味を失い、3種類に分けた意義自体が薄れてしまっていたのである。
これらの事例から推測できるのは、これらの機能が「このシステムによってゲーム体験にどのような変化をもたらすのか」「プレイヤーにどんな感覚を与えたいのか」といった根本的な設計意図を十分に理解しないまま開発されていた、という点である。
『ORIGIN』で変化したシステムの適用
『真・三國無双 ORIGIN』における最大の変化点が、まさにこの部分である。まず第一の例として挙げる「パワーアーマー(いわゆるスーパーアーマー)」は、敵の攻撃を受けても怯まず、攻撃アクションを継続できる状態を指す。従来の『真・三國無双』では、敵将であれ雑兵であれ、些細な攻撃でもプレイヤーキャラクターが硬直し、あらゆる攻撃が中断される特性があった。ゆえに、雑兵の数が多くなるほど攻撃頻度を下げざるを得ず、そうしなければプレイヤーが対処しきれなくなる。これは「戦場を描く」という作品の志向そのものを阻害する、シリーズ全般の限界であった。
この問題が解消されぬまま雑兵数だけを増やしていた結果、雑兵は「ただの案山子」と化し、戦争としての情景もアクションとしての快感も中途半端な位置に留まってしまっていたのである。この問題を解決したのも、パワーアーマーである。プレイヤーは通常時こそ雑兵の攻撃で硬直するが、攻撃動作中はパワーアーマーが適用され、被弾しても怯まず連撃を継続できる。したがって、よほど過剰に攻撃頻度が高い状況でない限り、雑兵の攻撃はもはやゲーム進行を阻害しない。
対峙する敵将の状態は「通常」「パワーアーマー」「隙」「崩れ」の4段階に細分化されている。敵将は通常状態では被弾で硬直するが、打ち上がりはしない。一定以上の被弾で態勢が切り替わり、プレイヤーの攻撃に対して回避や反撃で応じるようになる。攻撃状態ではプレイヤー同様にパワーアーマーが付与されるため、プレイヤーは回避やパリィなどの対処を求められる。敵の攻撃後には「隙」が生じ、この隙の間は打ち上げが可能となる。さらに、オレンジ色のオーラを纏う攻撃を「発勁(はっけい)」でパリィすると、敵将は「崩れ」状態となり、通常の隙よりも長時間の攻撃チャンスが生まれる。
このような敵将の態勢細分化とパワーアーマーの導入は、プレイヤーに観察と対応を促しつつ、連係を追求するシリーズのアイデンティティを損なわない模範的な解決であった。パワーアーマーの存在によって戦場は活気を取り戻し、雑兵撃破にもためらいがなくなった。ついに「戦場が戦場として描かれる」ための決定的要素の一つが整ったのである。
また、演出面の進歩も看過できない。もともと強みであった、実際の歴史的エピソードをステージごとに巧みにアレンジして取り入れている点はもちろん、最も顕著なのは、敵大軍団の「戦法」運用である。これにより、敵は単に密集しているだけではなく、戦術的運動によって戦場に多様な変化をもたらす。たとえば、プレイヤーの奮戦で生き残った味方兵が敵大軍の前で集結し、プレイヤーが集結地点に到着する、あるいは先に突撃すると、味方武将の合図とともに一斉に声を上げて突進する――こうした、ユーザーが「戦場で見たい」シーンが的確に実装されているのだ。
さらに重要なのは、敵AIの反応である。『ORIGIN』では、護衛兵や味方雑兵が積極的に敵のヘイトを取ってくれる。プレイヤーを狙っていた雑兵であっても、敵将と遭遇すると周囲の別の敵と交戦する方針に切り替わる。その結果、プレイヤーと敵将が1対1で向き合える空間が自然と生まれ、最小限の妨害で一騎打ちに集中できる構図が形成される。多数の兵が入り乱れて戦っていても、プレイヤーは過度に阻害されずに戦闘を継続できる――この演出設計が、混戦と可読性の両立を達成している。
最後に、高評価を支えた要素としてUI(インターフェース)を挙げたい。従来作の士気は戦場全体における敵味方の相対値しか把握できず、個々の交戦地点での士気は可視化されていなかったため、現地に赴くまで味方の優劣や敵将の強さを判断しづらかった。『ORIGIN』の士気システムは、士気の細分化レベルから主要交戦地点の優劣まで、マップと画面上部に明瞭に表示される。敵のHPバーにも士気による強化度合いが示される。これらの情報は、戦況把握と勝利への最適解を導くうえで不可欠な基盤となっている。
残された課題
しかし、本作にもなお問題点と課題が起こっている。まずストーリー面を見る。オリジナルキャラクターの投入は、特定武将に縛られず時代ごとの勢力史を描くうえでは有効だが、三国志の叙事に割り込むオリジナルの物語線が、時に本来の流れを阻害する。たとえば「長坂の戦い」などで、無理にオリジナルキャラ同士の対立をねじ込んだ印象を与える場面がある。
また、IFストーリーにも課題が残る。『7』以降から導入されたIFストーリーは、曹操勢を除けば物足りない。孫権勢では、亡くなった先代君主が生存して歴史が変わるという大仰なメッセージにもかかわらず、エンディングまで生き残る人物が展開に与える影響が希薄だという、『7』からの問題を解消できていない。劉備勢のIFに至っては、本編との相違がほとんど見られず、存在意義が問われる出来だ。三国志ゲームとしての「ロマンの実現」という観点で、IFの完成度は前作と同程度か、場面によっては後退していると感じられる。
さらに、ゲーム構造が反復によって単調化しやすい点も弱点である。一般的なアクションゲームでは、敵コンセプトの多様化、レベルデザイン、ボス戦によって変化を与えるが、『ORIGIN』ではこの課題を完全には克服しきれていない。ボリューム確保のために、単純作業に近いサブミッションや、メインと差異の乏しい中継サブ戦闘ステージが散見され、反復感を加速させてしまう。
とはいえ、重要イベントでは変化を出そうとする努力が光る。圧倒的武勇の「呂布」や、黄巾を率いた道術使い「張角」との戦いは、従来の戦場と異なり、固有の攻撃パターンと技を備えた強敵1体に挑むボスレイド型の構成となっている。そして、董卓の統率力を強調する独自の大軍陣形を見せる「虎牢関の戦い」、自称皇帝として知られる袁術を討つ「袁術討伐戦」では、「皇帝」というコンセプトに合わせ、特定条件を満たさないと敵兵が無限湧きするギミックが導入されている。演出面では、規模差を体感させる「官渡の戦い」や、火計で戦況を覆す「赤壁の戦い」など、状況表現のバリエーションも用意されている。
結論
『真・三國無双 ORIGIN』の結論は明快である。構造的には過去作と類似点が非常に多いにもかかわらず、プレイヤーが感じる体験は、パターン化した旧来作ではなく「現代アクションゲーム」に近い。各要素の役割とバランスが刷新された結果、プレイフィールそのものが別物として立ち上がっているのだ。
ここから導ける示唆は、面白いゲームづくりにおいて重要なのは「どんな新システムを導入するか」ではなく、「見せたい体験をそのまま伝えるために何が必要か」を突き詰めることだという点である。『ORIGIN』はその好例である。










