株式会社は、法律上は日本も米国も似ています。「株主が金儲けのために金を出し合って作り、経営者や社員を雇って働かせる、株主の金儲けの道具」なのです。

 

日本でも、中小企業の中にはそういう所もありますが、日本の大企業の多くは、「株主の金儲けの道具」とはかけ離れたものとなっています。そうした日本企業の経営を「日本的経営」と呼びます。

 

■米国の企業は、株主の金儲けの道具

米国の企業は、文字通り株主の金儲けの道具です。金儲けの上手そうな人を経営者として雇い、「必要な時に必要なだけ労働者を雇い、不要になったらクビにし、稼げるだけ稼げ。儲かって株価が上がったら、巨額のボーナスを支払うから、頑張れ」と指示するわけです。そこで、経営者として雇われた人は、労働者を歯車として使い、不要になったらクビにします。

 

労働者の側も、そういう物だと思っているので、クビになる事には慣れていて、「また就職活動をすれば良いだけ」と軽く考えているわけです。まあ、頼まれもしないのに一攫千金を夢見て大西洋を渡り、先住民族と闘いながら土地を獲得していった人々の子孫ですから、一寸先は闇なのは慣れているのでしょう。

 

■日本企業は従業員の共同体だから、雇用を守る事が最重要

日本の大企業の多くは、従業員の共同体的な性格を強く持っています。バブルの頃までは、「株主というのは資本金を出してくれた人だから、ある程度は配当してあげよう」と考えている人が多かったほどです。

 

日本企業の特徴は、終身雇用、年功序列賃金、企業別組合だと言われています。「学校を卒業して就職したら、その会社に定年まで勤める」「仕事の出来ではなく、入社年次により給料も地位も上がって行く」「労働組合は各社に一つづつある」というわけです。

 

最重要なのは終身雇用で、会社側から社員をクビにする事は原則としてありません。だからこそ従業員は安心して会社のために働く事ができるのです。従業員の側から会社をやめて転職したり起業したりするのは自由ですが、年功序列なので、今の会社にいれば給料が黙っていても上がって行く事がわかっていると、なかなか辞める決断はつきにくいでしょう。

 

年功序列賃金は、日本人の「年上を敬う」という文化とマッチしているのみならず、「会社は家族、同僚は仲間だから、ギスギスした競争をしないで協力し合おう」という精神を育むことにも役立っています。成果主義(仕事の成果に応じて給料も地位も決まる)となると、同僚はライバルですからチームワークが組みにくいのです。もちろん、本当に「頑張っても頑張らなくても同じ」だと人々が怠けるといけませんから、「頑張った人は将来部長や重役になれるかも」という希望を持たせて頑張らせるわけですが。

 

労働組合が企業別に組織されているので、労使協調路線が組みやすくなっています。無理な賃上げを要求して会社が傾いてしまったら、社員が困る事になりかねませんから、経営者と労働組合がウインーウインの関係を目指すわけです。

 

■日本的経営は、少しずつ変化しつつある

バブルが崩壊してから、日本経済は長期的な低迷を経験しました。そこで「その原因は日本的経営にあるのだから、日本的なやり方を改めて米国的なやり方の真似をすべきだ」と考える人が増えて来ました。米国的なやり方の事を「グローバル・スタンダード」と呼びます。

 

もっとも大きく変わったのは、利益の配分についてです。バブル期までは、利益が増えても配当は増やさずに従業員の待遇改善に使っていたのが、最近は利益が増えた分は従業員に還元せずに株主への配当等に使う企業が多数派となっています。

 

終身雇用については、原則として守られています。企業別組合についても、基本的な変化は見られません。一方、年功序列については、若干緩みが見られます。特に、定年を延長する企業では中高年の給与を引き下げざるを得ませんし、後輩が上司になる例も増えているようですが、極端な成果主義を採っている所は少ないようです。

 

■部品調達は入札ではなく下請けから

従業員との関係のみならず、企業間の取引も、日本企業はウエットです。部品調達は、「そのたびごとに入札をして一番安い部品を仕入れる」のではなく、毎回決まった下請けから安定的に部品を購入します。これも、一見不合理なようで、一面では合理的なのです。

 

まず、相手とのコミュニケーションが楽です。細かい打ち合わせをしなくても、「前回どおり」で済みます。不誠実な相手と取引してしまうリスクもありません。下請けとしては、「今後も安定的に受注できそうだから、設備投資をしても大丈夫だろう」と考えて設備投資をする事ができます。それにより効率的に生産できるようになれば、大企業にとってもメリット大です。

 

「安定的に発注するなら、自分で作れば良いのに」という考え方もあり得ますが、「簡単に作れる部品は賃金の安い下請けに作ってもらい、高度な技術を必要とする組み立て工程は賃金の高い大企業で行う」といった分業がなされている場合も多いのです。「会社は家族」なので、社内で給料の高い人と低い人が混在しているのは、望ましくない、という事なのでしょう。

 

■銀行と企業の関係もメインバンクでウエット

日本企業と銀行の関係も、ウエットです。日本企業のほとんどは、メインバンクを持っています。これは、かかりつけ医のようなもので、普段から親密な付き合いをしている銀行の事です。

 

企業は、借入や預金等々の取引を、メインバンクと行ないます。メインバンクに儲けさせて恩を売っておくのです。一方で、メインバンクは借り手企業の業績が悪化した場合でも、「ただちに借り手を清算して担保を競売する」のではなく、「借り手企業を見守り、業績の回復を待つ」のです。メインバンクが業績の回復を待つ理由は二つあります。

 

第一は、それがメインバンクにとって得になる場合です。借り手を清算して担保を競売すると、まだ使える機械がスクラップ業者に二足三文で買いたたかれたりしますから、それよりは借り手企業を生かしておいて少しずつでも回収した方が得だ、と考えるわけです。

 

第二は、評判を気にする場合です。「あの銀行はメインバンクなのに、借り手が苦境に陥ったら直ちに借り手を清算して担保を競売した。冷たい銀行だ」という悪評が立つと、取引先が逃げてしまうので、それを避ける必要があるのです。借り手が自行をメインバンクとしているのは、いざという時に優しく見守ってくれると信じているからであって、そうでないと思えば借り手は自行ではなく優しそうな他行をメインバンクとして選ぶでしょう。それは困るのです。

 

余談ですが、日本が他国から攻撃された時、米国は日米安保条約に従って日本を守ってくれるのでしょうか。筆者は、安心しています。日米関係だけを考えれば、米国は日本を見捨てた方が得かも知れませんが、そんな事をしたら、世界中の同盟国が米国を信用しなくなり、同盟関係が保てなくなってしまうからです。それとメインバンクとは似ていますね。

 

もちろん、借り手の状況が非常に悪くなれば、メインバンクは借り手を清算するでしょうが、それは、人々が「借り手の状況があそこまで悪化すれば、清算もやむを得ない」と考える場合でしょう。それなら、悪評が立たずに借り手の担保を競売できますから。

 

■メインバンクは借り手に財務部長等を送り込む

メインバンクは、借り手に行員を財務部長等として送り込みます。銀行内で部長になれなかった人を取引先の財務部長にする事で、行員の満足度を高めるわけですが、これには様々なメリットがあります。

 

銀行にとっては、借り手の状況が手に取るようにわかります。借り手が粉飾決算をしているのではないか、という疑念を持たずに済むという事は、銀行にとって大きな安心材料なのです。借り手にとっても、これはメリットです。粉飾決算をしていない借り手にとって、「我が社は粉飾決算をしていません」という事を銀行に信じてもらうのは、意外と難しい事だからです。

 

借り手としては、銀行から財務部長を受け入れておけば、銀行が簡単に我が社を見放す事は無いだろう、と期待することもできるでしょう。絶対の保証ではなくても、安心材料とはなるはずです。

 

かつては、上場企業と銀行の間では、「株の持ち合い」が活発に行われていました。銀行が借り手の、借り手が銀行の株式を保有し、互いの株主総会で賛成票を投じる、という約束をしておくわけです。株式会社は、株券の半分以上を持った人が社長を選べるので、誰かに会社を乗っ取られる(株を買い占めた人が社長になる)可能性があります。そうした事を防ぐために、今の社長に投票してくれる人を確保しておく事が必要なのです。

 

最近では、株式の持ち合いは減ってきましたが、それでもある程度は残っています。持っている株数が減ってくると、乗っ取り防止というよりは、友情の証、といった程度の役割しか期待できないかも知れませんが(笑)。

 

今回は、以上です。なお、本稿は厳密性よりもわかりやすさを優先していますので、細部が不正確な場合があります。事情ご賢察いただければ幸いです。


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