■物々交換は不便。お金は取引相手をみつけやすくする。

筆者は学生に経済学を教えて大学から給料を受け取り、そのお金を使って居酒屋で酒を飲む事が出来ます。でも、お金というものがなかったら、不便です。お金がない国では、経済学を学びたがっている居酒屋の店主を探さなければなりませんから(笑)。

 

では、世界で最初にお金という物が誕生した場面を想像してみましょう。酒の好きな肉屋と、肉の好きな魚屋と、魚の好きな酒屋がいます。肉屋は肉を持って酒屋に行きますが、「俺は肉は嫌いだから、肉と酒の交換は嫌だ」と言われてしまいます。魚屋が肉屋に行っても同様に「俺は魚は嫌いだから、魚と肉の交換は嫌だ」と言われてしまいます。

 

しかし、魚屋は考えました。「俺は酒は嫌いだが、肉屋は酒が好きだ。ということは、まず魚を持って酒屋へ行き、魚を酒に交換してから肉屋に行って酒を肉と交換すれば良いのだ」と。そうです。自分の欲しい物を得るためには、他人の欲しがるものを得れば良いのです。

 

そこで、魚屋は魚を酒を交換し、それを肉と交換するようになりましたが、酒は重いし瓶は割れます。そこで、ビール券を使う事を考えました。どうせ自分が飲むわけでは無いのだから、ビール券で良いではないか。これが最初のお金です。

 

■「皆が欲しがるから皆が欲しがる」というのがお金の本質

酒が好きな人も嫌いな人も、皆がビール券を欲しがるようになりました。なぜなら、皆がビール券を欲しがっているからです(笑)。魚屋は、自分は酒が嫌いですが、ビール券を欲しがります。それを知っている花屋は、「俺は酒は嫌いだが、魚は好きだから、ビール券を手に入れて、魚と交換しに行こう」と考えます。それを知っている人々は、ビール券を持っていけば花が手に入ると考えてビール券を欲しがります。そうして、皆がビール券を欲しがるようになるわけです。

 

そのうちに、王様が「余が紙幣を印刷しよう。この紙幣は、いつでも金貨と交換してやるから、ビール券の代わりに紙幣を使え」と言って紙幣の印刷を始めました。そのうち、王様は紙幣と金貨を交換するという約束を守らない事にしましたが、人々は相変わらず気にせずに王様の印刷した紙幣を使っていました。今の日本では、王様の代わりに日本銀行が日本銀行券を印刷していますが、基本的には同じものです。

 

このように、紙幣が出来たことで、取引が簡単に出来るようになりました。花屋は、花を直接魚に替える事は出来ませんが、花を紙幣に替え、それを魚に替えれば良いのです。二度手間のようですが、「花が好きな魚屋を探し回る」よりは楽ですから。

 

■お金があると値段が決められるから、交換比率がわかる

お金がないと、筆者はお酒を飲むために経済学を学びたがっている居酒屋の店主を探す必要がある、と上に記しましたが、今ひとつ不便な事は、経済学を1時間教えたら何杯の酒が飲めるのかを交渉しなければならない事です。

 

あるいは居酒屋のメニューに「日本酒1合は、経済学の講義なら10分、リンゴなら3個、魚なら2匹、・・・」と書いておく選択肢もありますが、ものすごい手間ですよね(笑)。

 

お金があれば、経済学の講義は1時間いくら、日本酒1合はいくら、リンゴ1個はいくら、とそれぞれの教授や店が決めれば良いのです。これなら交渉の必要はありません。筆者は居酒屋で値段表を見ながら、日本酒を頼もうとか、日本酒は高いからビールにしようとか、他の居酒屋へ行こうとか、決めれば良いのです。

 

■お金は、老後のために貯金しておける

お金がない世界だと、筆者は、老後になって経済学が教えられなくなった時に、生活して行けません。「経済学を教えてあげるからお酒やお米や肉や魚を下さい」と言えないからです。しかし、元気なうちに学生たちに経済学を教えて大学から給料をもらい、それを貯金しておけば、老後の生活は安心でしょう。貯まっている金額にもよりますが(笑)。

 

このように、お金には貯めておける、という利点もあるのです。取引相手が簡単に見つかって、交換比率の交渉も不要で、しかも老後のために貯めておけるなんて、素晴らしいものですね。

 

■王様が紙幣を印刷したのはワケがある

王様が、ビール券の代わりに自分で紙幣を印刷したのには、ワケがあります。王様に直接聞いたわけではありませんので、筆者の想像ですが(笑)。

 

第一に、金利が稼げる事です。今の日本の金融市場は例外ですが、通常はお金の貸し借りをすると、借りた方が金利を払います。つまり、王様は紙幣を印刷してそれを貸し出すと、金利分だけ儲かったのです。これは、日本銀行も同じことです。ゼロ金利政策を採用する前は、紙幣を印刷して銀行に貸し出して、あるいは国債を購入して政府に金を貸し出して、金利を稼いでいました。

 

今ひとつは、紙幣を印刷して好きな物が買える事です。王様は、欲しいものを見つけると、紙幣を印刷してそれで買い物をしました。あまり大量の紙幣が世の中に出回ると、皆が一斉に「約束どおり紙幣を金貨に換えて下さい」と言ってきた時に困りますが、そうした心配はありませんでした。人々は、よろこんで紙幣を持っていたのです。なんと言っても、その後金貨と交換する約束をやめてしまっても、人々は有り難がって紙幣を使っているくらいですから、一度人々の信用を得ると、それが長い間続くのですね。

 

問題は、世の中に大量の紙幣が出回ると、世の中に出回っている紙幣の量と物の量の比率が変わってきます。そうなると人々は、「紙幣より物の方が欲しい」と思うようになり、物の値段が上がって行きます。つまり、人々が紙幣をあまり有り難く思わないようになってくるわけです。王様としては、そうなったら以前より多くの紙幣を印刷して、従来どおり欲しいものを買えば良いのですが、次第に問題が起きてきます。

 

「老後のために貯金しておいたのに、物の値段が上がってしまって、貯金だけでは老後の生活が出来なくなってしまった」という高齢者や、「物の値段は上がるのに給料が上がらないから生活が苦しくて仕方ない」という労働者たちの不満が高まって行ったからです。インフレですね。

そうした王様たちを大勢知っているので、今の政府は「紙幣を好きなだけ印刷して好きなものを買う」事が禁じられています。具体的には、紙幣を印刷するのは日本銀行であって、政府は日本銀行に紙幣の印刷を命令してはいけない、という事になっているのです。

 

■ビットコインはお金か

ビットコインという物が最近出ています。ビール券は酒屋が、紙幣は王様や日本銀行が発行しているものですが、ビットコインは誰が発行しているのか、よくわかりません。それでもお金なのでしょうか。「ビットコインを使って買い物が出来る店もあるから、お金だ」と言って良いのでしょうか。

 

ビットコインがお金であるか否かは、皆がお金だと思うか否かにかかっていると思います。皆が「ビットコインを持って入れば肉が買えるのだから、ビットコインが欲しい」と思うようになれば、それはお金だと言ってよさそうです。

 

もっとも、今は「肉を買うためにビットコインが欲しい」という人よりも「ビットコインは値上がりしそうだから、ビットコインを買っておこう」という人の方が多いでしょうから、お金と呼んで良いのか否かはわかりませんが。

 

将来、世界中の取引がビットコインで行われる時代が来るかも知れません。そうなったら日本銀行は不要になるのでしょうか。金融引き締めや金融緩和で景気を調節する、等々の仕事は誰がやるのでしょうか。筆者には想像もつかない時代が来るのかも知れませんね。

 

 

今回は、以上です。なお、本稿は厳密性よりもわかりやすさを優先していますので、細部が不正確な場合があります。事情ご賢察いただければ幸いです。

 

 

 

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