■独占企業が儲かるのは値上げしても客がライバルに流れないから

 

世界中の食料を全部買い占めている独占企業があったら、いくらでも儲ける事が出来るでしょう。いくら値上げをしても、人々は食料を買わざるを得ないので、手持ちの食料が高く売れるからです。

 

企業は、売値を決める時に、「売値を1%値上げしたら、販売数量はどれくらい減るだろう」と考えます。普通の企業は、値上げをしたらライバルに客を奪われてしまうので、値上げは慎重に行いますが、独占企業は値上げをしてもライバルに客を奪われる心配が無いので、「気楽に」値上げをする事が出来ます。

 

本件の場合、食料品だという事も重要です。世界中のゲームを独占している会社があったとしても、それほど儲からないかも知れません。ゲームを値上げしたら、「それなら買わない」という客が多いでしょうから。でも、食料だと、値上げしても客は買わざるを得ませんから、いくらでも値上げが出来るわけです。

 

値上げをすると売り上げ数量が大きく減るのか少ししか減らないのか、という事を「価格弾力性」と呼びます。価格が1%上がった時に売り上げ数量が1%減る場合には、価格弾力性は1、2%減る場合には2という事になります。価格弾力性が小さい方が、独占企業が儲けやすい、というわけですね。

 

しかし、こうした事は稀です。実際にはライバルに客が流れたり、そもそも客が減ってしまったりするからです。以下では、独占企業が儲かる場合と、そうでもない場合について考えてみましょう。

 

■独占企業は大企業とは限らない

独占企業というと、超大企業をイメージしますが、そうとは限りません。山頂の山小屋は、立派な独占企業です。山頂まで登ってきた客は、空腹で、喉が渇いているでしょうから、高くても食べ物や飲み物が買いたいはずです。高い値段を付けても、「それなら要らない」という客は多く無いでしょう。何と言っても、「それなら他の店で買うから」という客がいないのですから。

 

価格弾力性が1、つまり1%値上げをしたら、売り上げ数量が1%減るとします。100円で100個売るのと、101円で99個売るのと、どちらが儲かりますか?売上高は10000円から9990円に減りますが、仕入れ代金も減りますから、利益は増えるはずです。しかも、商品を山の上まで運び上げる労力も減りますから、この場合は値上げをするでしょう。

 

少しずつ値上げをしていくと、価格弾力性が上がっていくとしましょう。「これ以上値上げをすると、売り上げが大きく減ってしまう。仕入れ代金が減ったり荷物を運び上げる労力が減ったりする事を考えても、売り上げの大幅減は避けたい」という時が来るでしょう。そうなったら、そこで値上げを止めれば良いのです。

 

■独占企業はライバルの出現を阻止しようとするが・・・

さて、山小屋が2軒あると、独占企業ではなくなりますから、儲かりません。値上げをすると「それなら隣の店で買う」と言われて客が逃げてしまうからです。でも、普通はそういう心配はありません。というのは、2軒目の山小屋を建てようという人がいないからです。

 

最初の山小屋を建てた人は、独占利潤を謳歌出来ますが、2軒目を建てる人は、独占利潤を謳歌出来ません。それなら、わざわざ山の上に店を出す必要はありません。もっとも、様々な駆け引きが行われる可能性はあります。

 

1軒目の主人は、2軒目の建設を諦めさせようと考えます。「2軒目が建ったら、大幅に値引きして、2軒目が赤字になるようにする。俺も赤字になるが、それでも値下げする」と宣言するのです。それを聞けば、普通の人なら出店を諦めますね。

 

しかし、場合によっては2軒目の方が上を行くかも知れません。「2軒目を建てて、超安売りをする。そうすれば、1軒目が倒産するだろう。そうなれば、俺が独占利潤を貪れるようになるのだ」というわけです。この場合、2軒目を建てる人は金持ちである必要があります。1軒目よりも先に倒産してしまっては何もなりませんから。

 

「たかが山小屋の独占企業」にも、いろいろなドラマがあるのかも知れませんよ。

 

■ライバルは、各所に大勢いるので、独占は容易ではない

トヨタは日本を代表する巨大企業ですが、独占企業とはほど遠い存在です。では、トヨタが独占企業になるためには、何が必要でしょうか。日産やホンダ等を買収するか倒産に追い込む事が最低限必要ですね。

 

でも、自動車は簡単に輸入出来ますから、世界中の自動車会社がライバルになり、到底独占利潤を謳歌する事は出来ないでしょう。筆者がトヨタの社長なら、外国の自動車会社を買収するのではなく、船会社を全部買収して外国から自動車を運んで来る時の運賃を1000倍くらいにしますが(笑)。

 

自動車会社だけがライバルなのではありません。JRや私鉄各社もライバルです。自転車会社もライバルです。自動車をあまり値上げすると「自動車通勤をやめて、駅まで自転車で行き、あとは電車で通勤しよう」という人が増えてしまうからです。しかし、これは対抗手段が限られていますね。自転車会社を買収して、自転車の値段を1000倍にするのは無理ですから。

 

更に問題なのは、自動車をレジャーとして使っている人々です。彼らは自動車が高ければドライブに行かずにコンサートを聴きに行くようになるかも知れませんし、レストランで美食を楽しむようになるかも知れません。レジャー支出の予算を争っている相手が日本中のレストランだとしたら、自動車の値上げは容易ではありませんね。

 

そして実際には、万が一独占利潤を謳歌出来るようになったとしても、公正取引委員会が独占禁止法違反でトヨタを罰するでしょうから、所詮は独占利潤を目指す事が無理なのですね。山頂の山小屋が羨ましいです(笑)。

 

■規模の経済が働く場合の独占は、値上げをしなくても儲かる

一人分の料理を作るのと5人分の料理を作るのでは、5倍の手間がかかるわけではありません。つまり、大規模生産の方が効率的でコストが安いのです。これを規模の経済、または規模の利益、と呼びます。規模の経済が強く働く場合には、独占が成立しやすくなります。

 

電力会社は、大きな発電所で発電した方が効率的なので、独占企業を国が作って効率的に発電させ、その代わりに独占利潤を貪らないように電力価格を政府が規制する、という事が行われる場合があります。日本でも、最近までそうした事が行われていました。

 

政府が決めなくても、規模の経済を活かして独占企業になる場合があります。たとえばアマゾンを考えてみましょう。アマゾンは、莫大なコストをかけて巨大なコンピューターシステムを作っています。これは、ライバルが簡単に真似できるものではありません。もちろん、ライバルの天才的なプログラマーが安い費用で素晴らしいシステムを作り上げる可能性はありますが。

 

そうして、アマゾンのシステムは客が1人増えてもコストは変わりません。トヨタの自動車は、売り上げが1台増えるごとに部品の購入が必要になったり社員の残業代が必要になったりしますが、アマゾンは顧客が増えてもコストが増えないのです。

 

そうだとすると、安売りをして顧客の数を増やすインセンティブが出てきます。それが成功して顧客の数が増えて採算がとれるようになると、あとは無敵です。ライバルよりも安い値段で顧客を増やし、増えた顧客の分だけ利益が増えるわけですから、ライバルから客を奪って独占企業になるかも知れません。

 

ライバルがすべて倒産して独占企業になれば、あとは値上げをして更に儲ける事ができますが、そこまで行かなくても客が増えていくだけでも十分儲かるわけですね。

 

アマゾンの場合は、値段が安いというよりは、ライバルと同じ値段でライバルより良いサービスを提供しているわけですが、値段が安いのと同じことですね。まあ、上記のように、公正取引委員会が独占禁止法違反で罰金を科したりする可能性もありますので、無限に儲かるわけではないでしょうが。

 

今回は、以上です。なお、本稿は厳密性よりもわかりやすさを優先していますので、細部が不正確な場合があります。事情ご賢察いただければ幸いです。

 

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