今回は、アダムスミスの教えをもとに、それを発展させて様々な事を学びましょう。

 

■神の見えざる手・・・アダムスミスの最大の教え

経済学を作った「世界初の経済学者」は、アダムスミスです。そして、彼の経済学は、今でも経済学の最も基本的な考え方となっています。それは、「経済のことは、神様が上手に調整して下さるから、王様は経済に手出ししないで下さい」という「神の見えざる手」です。市場メカニズムとも価格メカニズムとも呼ばれています。

 

前回、イモの市場の話をしました。イモの市場があるとします。「少し空腹だから、100円で買えるなら買いたい」という人が1人、「かなり空腹だから、200円出しても買いたい」という人が1人、「すごく空腹だから、300円出しても買いたい」という人が3人います。結局、「100円なら買いたい」人は5人いるわけですね。

 

一方で、市場の近くの農家で「100円なら売っても良い」という人が3人、市場から少し遠い農家で「200円なら売っても良い」という人が1人、市場から遠くて「300円でないと売りたくない」という人が1人います。結局「300円なら売っても良い」という人は5人いるわけですね。

 

イモの取引は、1人1個だけだとすると、イモの値段はどうなるでしょうか。200円なら、買いたい人が4人、売りたい人が4人なので、4組のペアができて取引が無事成立ですね。神様に任せておくと、イモの値段は200円になり、4人がイモを購入するわけです。

 

心やさしい王様が市場に来て、「貧乏人でもイモが食えるように、イモの値段は100円にせよ」と指令したら、何が起きるでしょうか。市場から遠い農家と、市場から少し遠い農家の人は、「100円でしか売れないなら、市場まで運んで行くのは面倒だから、イモは豚の餌にしよう」と考えるでしょう。結果として、人間様の口に入るイモは3個になります。

 

心やさしい王様の指令により、人間様の口にはいるはずだったイモが一個、豚の餌になってしまったのです。王様は、アダムスミスの言うことを聞かないと(怒)。

 

まだ、あります。王様の指令前にイモにありついた人間様は、すごく空腹の3人と、かなり空腹の1人で、少しだけ空腹の1人がイモにありつけなかったのでしたね。でも、王様の指令後は、5人が3つのイモを争うので、運が良い人がイモにありつくわけです。最も空腹な人がイモにありつけない可能性が出てきたわけですね。やはり王様はアダムスミスの言うことを聞かないと(怒)。

 

■神の見えざる手の今ひとつは、人気商品の供給増

リンゴ・ダイエットが流行るとします。大勢の人がリンゴを買うので、売り切れてしまいます。でも、大丈夫です。神の見えざる手が働くからです。スーパーや八百屋は、リンゴを仕入れれば儲かると考えて、リンゴの買い注文を出します。すると、リンゴの需要が供給よりも増えるので、リンゴの値段が上がります。

 

そうなると、農家は他の作物を作らずにリンゴを作るようになります。リンゴの木が育つまで待てば、日本中に大量のリンゴが供給され、ダイエットしたい人が全員リンゴを食べる事が出来るようになるでしょう。その頃までにリンゴ・ダイエットのブームが下火になっていなければ、ですが(笑)。

 

人気が出た商品は値段が上がるので、皆が作るようになり、人気が落ちた商品は値段が下がるので皆が作らなくなる、という調整機能は、重要です。マルクスがこの機能を否定した事が、共産主義は失敗の一因となったのです。次回、再掲します。

 

■人々がガメツイから経済がうまく回る

「ガメツイことはダメな事」と道徳の先生はおっしゃるでしょうが、アダムスミスは違いました。人々がガメツイから経済がうまく回る、としたのです。上記のリンゴ・ダイエットの例でも、リンゴが値上がりしたら「リンゴを作って儲けよう」と考えた農家が多いからうまく行ったのですね。それ以前に「リンゴを農家から仕入れれば多く売れて儲かる」と考えたスーパーや八百屋がいたからうまく行ったのですね。

 

農家もスーパーも八百屋も、「やさしい気持ちで客のダイエットを応援するつもりでリンゴを仕入れた(作った)」のでは無いのですね。対外的には「お客様のご要望にお応えして」などと言うかも知れませんが(笑)。

 

ちなみに、筆者は「経済は暖かい心と冷たい頭脳で動いている」という言葉が好きですが、暖かい心がなくても冷たい頭脳が経済をうまく回す場合もあるのです。

 

チョット脱線してみましょう。農産物が豊作だと、農家は嬉しいでしょうか?そうとは限りません。「豊作貧乏」という言葉があるくらいですから。ちなみに、上記のイモの市場の数値例では、豊作になって近郊農家の収穫量が二つ増えた場合、イモが100円に値下がりするので農家全体の収入が800円から500円に減ってしまいます。

 

そうした時に、「今年は豊作だが来年は凶作だ」と予想した投機家が、今年暴落したイモを買って来年まで貯蔵しておき、来年になって値上がりした所で売るならば、今年の農家も助かりますし、来年の消費者も助かります。それでいて、投機家はしっかり儲けているのですから、ウインーウインですね。

 

なんと、江戸時代の強欲商人さえも、結果としてみると有難い存在だったのだ、と筆者は考えています。ある時、「今秋の収穫量が平年の半分になる」という凶作が予想されたとします。強欲商人は、コメを買い占め、数倍の値段で売ります。値段が数倍でも、飢え死にするわけにいかないので、人々は強欲商人を恨みながら、例年の半分のコメで腹をすかせながら、1年間を過ごします。秋には強欲商人の買い占めたコメがちょうど売りきれ、新米が出回ります。

 

では、強欲商人がいなかったら何が起きていたでしょうか。人々は、例年と同じ値段のコメを例年と同じ量だけ食べていますが、半年経過した時点でコメが無い事に気付きます。その時に焦っても仕方ありません。結果として、多くの人々が餓死したかもしれません。

 

つまり、強欲商人のおかげで多くの人が生き延びる事が出来たわけです。暖かい心など全く持っていない強欲商人も、役にたったのです。

 

■分業にメリットあり

アダムスミスは、分業の利点についても記しています。ピンの製造工程を1人でこなす場合よりも、多くの工程に分解して分業した方が効率的だ、というのです。ピンの製造行程を知らない筆者は、料理にたとえて理解する事にしています。

 

料理が好きで得意な人と、料理が嫌いで苦手な人が分業すれば、後者はマズイ料理を食べずに済みますし、前者は嫌いな皿洗いから解放されます。両者にとってメリットがあるのです。しかも、料理は1人前作っても2人前作っても手間が2倍かかるわけではありません。皿洗いも、2人分洗うなら小型皿洗い機を購入する選択肢が出てくるかも知れませんね。

 

料理担当は、料理が上手になるでしょう。皿洗い担当は、皿洗いが上手になるでしょう。石の上にも3年、なんでも続ければ上手くなるのです。それが後者にとって嬉しいか否かはわかりませんが(笑)。

 

また脱線しますが、これは、専門家を上手に利用すべきだ、ということを示唆してくれます。病気になると医者に行きます。医者は、長い間病気と向き合ってきた人ですから、医学の知識が豊富です。多少の診察料を支払っても行くべきです。自分で医学書を読んで勉強するより、その方が良いと考える人は多いでしょう。

 

それならば、弁護士でも税理士でも、多少の費用を支払っても仕事を頼んだ方が得でしょう。ちなみに、筆者は父の他界に際して、相続の手続き一切を信託銀行に依頼しました。その時の担当者の言葉が忘れられません。

 

「相続の手続きは面倒です。何をどうすれば良いのか、調べるだけでも大変です。お客様にとっては、一生に1度のことでしょうが、私は毎日やっていますから、何も調べなくてもスムーズに手続きが行えます。そうであれば、私の手間賃に若干の利益を上乗せして請求させていただいても、ご自身で手続きをなさるより割安だと思いますよ」

 

「自分で手続きをすれば無料なのに、信託銀行に手数料を支払うのはもったいない」と考えずに、「自分で手続きをすると、何時間かかるだろう。その時間だけコンビニでアルバイトをしたら、何円稼げるだろう?」「面倒な手続きを調べてやってみて間違えてイライラしてストレス解消にヤケ酒を飲む費用は何円だろう?」等々を考えれば、専門家を上手に利用する「分業」も選択肢なのです。

 

一つ留意するとすれば、分業後の分配でしょうね。料理を分担した人と皿洗いを分担した人が、どのように料理を分け合うか。弁護士や税理士等が、何円の料金でサービスを提供するか。両者合計でメリットがあっても、片方がメリットをすべて受け取ってしまうと、交渉が成立しませんから、交渉に際しては、どちらにも利益になるように分配を考える必要があるわけです。

 

 

今回は、以上です。なお、本稿は厳密性よりもわかりやすさを優先していますので、細部が不正確な場合があります。事情ご賢察いただければ幸いです。

 

 

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