電通の新入社員の自殺が過労死認定された事件を契機として、違法残業に対する風当たりが強まっています。当該案件は、会社側に問題があった事が明らかですので、再発防止が強く求めます。加えて、亡くなられた電通新入社員の方の御冥福をお祈りいたします。

 

 

 

■日本の刑罰が軽いのは「社会的制裁を受けている」事が重要だから

筆者が学生だった時、殺人罪初犯の平均は懲役6年だと習いました。今は7年くらいとのことですが、逮捕されない可能性も考えると、期待値としては随分軽いと感じられます。被害者感情を考えると、到底納得出来ないでしょうし、犯罪抑止効果も疑わしいと感じられるほどです。

 

 

 

おそらく背景にあるのは、「すでに社会的制裁を受けている」という判断なのだと思われます。社会的地位の高い人が仕事を失った場合は勿論ですが、そうでなくとも一生殺人犯として社会から白い眼で見られます。本人だけではありません。家族も、場合によっては親戚までも、苛められ、結婚が難しくなり、辛い人生を送ることになりかねないわけです。

 

 

 

「殺人犯の子を苛めるのは悪いことだ」と言うのは簡単ですし、筆者も全くその通りだと思いますが、それはそれとして現実を見つめる必要があるのです。日本では、「恥の文化」が重要ですし、「共同体(村、学校、企業など)」に於ける人間関係が非常に重要ですから、法的制裁が緩くても、充分に加害者は罪を償わされている場合が多いのです。もちろん、加害者の中には対人関係を気にしない人もいるとは思いますが。

 

 

 

■社会的制裁が緩いのが、「会社のための犯罪」

日本人は、遵法意識が強くありません。法律よりも義理人情が大事だと思っている人は大勢います。その中には、「会社のためなら違法行為も許される」という意識が含まれます。

 

 

 

粉飾決算のニュースが流れると、「不正はイカン」と怒る人も多いでしょうが、「会社のために辛い決断をした経営者は英雄だ」と感じる人もいるでしょう。少なくとも本人は、そう思っているはずです。中には自分の保身のために粉飾決算を部下に命じる経営者もいるかも知れませんが、多くないと思われます。理由は、日本企業が集団指導体制だから、私利私欲に走れないのです。

 

 

 

仮に私利私欲から粉飾決算を命じた社長がいたとしても、社長が交代した瞬間に次期社長が旧悪をすべて暴くでしょう。そうしないと、後日になって粉飾決算がバレた時に共犯者にされてしまうからです。ということは、社長が交代しても粉飾決算がバレなかった会社は社長の私利私欲より会社の利益のために粉飾をしていた、という事になるはずです。

 

 

 

そうなると、粉飾決算をした社長は、罪も軽く、社会的制裁も受けない、ということになります。そもそも粉飾決算が組織ぐるみで行われれば、長期にわたって表面化しない可能性も大きいでしょう。これでは、粉飾決算を思い止まるインセンティブが弱いのは当然でしょうね。

 

 

 

■粉飾決算より遥かにハードルが低いのが違法残業

違法残業は、粉飾決算よりも、さらに思い止まるインセンティブが遥かに小さいのですから、これが蔓延するのは、ある意味当然と言えるでしょう(望ましいとは決して言っていません。単に違法残業が蔓延っている理由を分析しているだけですので、あしからず)。

 

 

 

ハードルが低いのは、「皆がやっている」という認識です。そもそも粉飾決算は経営者と経理部門だけの問題で、一般社員は自社が粉飾決算をしていたとしても、知らない場合が多いでしょう。しかし、違法残業は、どこの部署でも起こり得る問題なのです。そして、粉飾決算より遥かに多くの会社で実際に起きているでしょう。そこで、多くのサラリーマンが「程度の問題はあっても、わが社でも行われている」と認識しているので、他社の違法残業が表沙汰になった時に本気で怒る気にならないのです。

 

 

 

もしかすると、取り締まっている役所も批判しているマスコミも、社内(または役所内、以下同様)で違法残業が行なわれているかもしれません。少なくとも社内で粉飾決算が行なわれている可能性よりは、遥かに可能性が高いでしょう。

 

 

 

■軽い罰でも公表されれば「社会的制裁」を受けることに

しかし、違法残業を撲滅するのは、実はそれほど困難なことではありません。労働基準監督署の人員を増強して、多くの企業に検査に入れば良いのです。違法残業に対しては、罰を与え、その旨を公表するのです。

 

 

 

罰は、軽くて構いません。殺人でさえ7年程度の国ですから、違法労働ごときで厳罰に処するのはバランス感覚が無さすぎるでしょう。他社のサラリーマンやマスコミは、それほど批判しないかも知れません。「みんなやっている事」だからです。

 

 

 

しかし、それでも社会的制裁は確実に加わります。それは、学生の就職活動に於いてです。処罰された企業のリストが公表されれば、好き好んでそうした企業に就職する学生は少ないでしょうから、違法残業をさせていた企業は採用活動に支障を来すことになります。

 

 

 

必要なのは、「見せしめ作り」ではなく、本当に広く浅く調査することです。検査官が一人で企業を訪問し、出退勤記録を見て、問題があれば罰金500円を課せば良いのです。見せしめを作るだけでは、運不運が出てしまいます。そうなると、中程度に悪質な企業が罰を受けて学生の採用が困難になり、深刻な悪質企業に学生が流れてしまう可能性があるからです。

 

 

 

これからは、少子高齢化による労働力不足の時代です。バブル崩壊後の長期低迷期とは全く様相の異なる経済となり、優秀な社員の獲得が企業にとって極めて重要な、そして困難な事業となるわけです。そんな時に、ライバル企業との間で決定的な差を付けられてしまえば、長期的に企業の発展が大きく妨げられてしまいます。

 

 

 

つまり、重要なことは、企業が以下の認識を持つことです。「違法残業をすれば、必ず罰せられ、公表される。罰は軽いが、それにより学生の採用が困難化し、わが社の将来にとって大きなマイナスとなる」と。

                                                         

【参考記事】

■残業はみんなで減らせば怖くない、というメカニズムを考える(塚崎公義)

http://sharescafe.net/49772448-20161017.html

■労働力不足でインフレの時代が来る(塚崎公義)

http://sharescafe.net/49018387-20160708.html

■少子高齢化による労働力不足で日本経済は黄金時代へ(塚崎公義)

http://sharescafe.net/49220219-20160809.html

■アリとキリギリスで読み解く日本経済 (塚崎公義

http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12156174510.html

■「社畜」は辛いが、組織って素晴らしい(塚崎公義)

http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12176467105.html

 

 

 

 

 

 

 

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