若者の間では、「どうせ我々は年金を受け取る事が出来ないのだから、年金保険料は払わない」という人も多いと聞きます。しかし、専門家たちは「国民年金保険料は払った方が得だ」と言っています。

 

そこで今回は、国民年金保険料を納めるべき理由について考えてみましょう。前半は、初心者向けの解説です。一般の方は、後半だけお読みいただいても結構ですが、復習のために前半もお読みいただければ幸いです。

 

■日本の公的年金は2階建て・・・初心者向け解説

日本の年金制度は、公的年金と私的年金から成っています。公的年金は政府が強制的に国民を加入させているものです。私的年金は、各企業や各個人がそれぞれ行なっているものです。公的年金が2階建てになっていて、その上に私的年金があるので、日本の年金制度は3階建てだ、と言われているわけです。

 

1階部分は、日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する国民年金、2階部分はサラリーマン(公務員等を含みます。以下同様)が加入する厚生年金です。国民年金の加入者は、3つのグループに分けられます。第1号は、自営業者、学生など(第2号、第3号以外の全員)です。第2号はサラリーマン、第3号はサラリーマンの専業主婦です。

 

サラリーマンは、「払いたくない」と思っても、給料から年金保険料を天引きされます。サラリーマンの専業主婦は、夫が年金保険料を支払うと、自分も払ったものと見做してもらえるので、これも「嫌だから払わない」という選択肢はありません。離婚したり夫が失業、独立した時などは、身分が第3号から第1号に変わるので要注意ですが、そうでなければ何もする必要はありません。

 

1号は、自分で保険料を納めなくてはなりません。納めなくても罪には問われませんが、将来年金が受け取れなくなってしまいます。そこで、第1号は年金保険料を払った方が得か否か、ということが問題となるのです。

 

ちなみに、将来の年金受取額は、国民年金が各自月額6.5万円、厚生年金(2階部分)が標準的なサラリーマンで9万円程度と言われていますので、サラリーマンと専業主婦の2人合計で22万円程度、自営業者等の第1号は夫婦合計で13万円程度です。

 

■年金はインフレと長生きのリスクに対応する強い味方・・・初心者向け解説

年金は、生きている間は何歳になっても受け取れます。インフレになれば、原則としてその分だけ支給額が増えます。つまり、「長生きしている間にインフレが来て、蓄えが底を突いてしまう」という老後資金最大のリスクにしっかり対応してくれるのです。

 

問題は、現役世代が高齢者を支える制度であるため、少子高齢化が進んで現役と高齢者の人数比が変化すると、高齢者への年金支給額が減らされる可能性があることです。これをマクロ経済スライドと呼びます。これによって、若者は「自分が払った年金保険料よりも受け取る年金の方が少なくなってしまう」というリスクを負うことになるわけです。

 

■国民年金は、税金が半分なので、保険料は払った方が得

年金加入者の損得については、厚生労働省が試算を発表していて、国民年金については、若者についても、払った保険料よりも受け取れる年金の方が多い、という結果になっています。これは、年金の半分を税金から支払っているからです。

 

つまり、「自分が払い込んだ年金だけを考えると、高齢者の人数が多いので自分にとっては損だが、税金からも年金が支払われる部分を考えると、損にはならない」ということなのです。そして、自営業者などの第1号は、年金保険料を払わないと、年金が受け取れませんから、税金が投入されるはずの部分も逃してしまうことになるのです。

 

しかも、老後だけでなく、障害や死亡に際しても給付が用意されています。老後のためと考えると年金保険料を支払う意欲が湧かないかも知れませんが、障害保険等の役割も備えていると考えれば、払っておくインセンティブになるでしょう。

 

一方、厚生年金については、若者は損である(払う保険料の方が受け取る年金より少ない)という結果となっています。もっとも、これを知ったとしても、サラリーマンは年金保険料が給料から天引きされてしまうので、「払わない」という選択肢は無いわけですが。

 

年金は、銀行預金などと異なり、一度保険料を支払うと、一定年齢になるまで引き出せません。自営業者などは、浮き沈みがあり得るでしょうから、「あと100万円あれば倒産を免れたのに」という場合もあり得るでしょう。そう考えると、損得だけではなく、資金繰り上の安心感を考えて「年金保険料を払わずに貯金する」という選択肢もあり得るかも知れません。しかし、それでも筆者としては保険料は支払うことをお勧めします。

 

■意思の弱い人には特にオススメ

第一は、義務だから、ということです。罰則はなくても、やはり法律上の義務は果たしましょう。第二は、上記のように、損得を考えても払った方が得だからです。第三は、長生きとインフレに備える手段として公的年金は非常に心強い味方だからです。第四は、意思が弱い人の老後資金には「途中で引き出せない」ことがむしろ大きなメリットだからです。

 

夏休みの宿題を最終日に泣きながらやった覚えのある人、禁煙やダイエットを何度試みても成功しない人、そういう人は、意思が弱いので、老後のための貯蓄を引き出して贅沢をしてしまうリスクが大きい人です。それで老後の生活に支障を来しては大変です。一定年齢まで引き出せないのは、意思が弱い国民に対する政府の「親心」だと考えて、積極的に利用しましょう。

 

余談ですが、専門家たちが楽観的である理由の一つに、「団塊の世代が概ね他界する頃になると、高齢者と現役世代の人数比がむしろ改善し、年金財政の苦しさが緩和されるから」という事もあるようです。

 

■早死にすると払った年金保険料が無駄になるから払わない???

「火事にならなかったら払った保険料が損だから、火災保険に加入しない」という人は希でしょう。火事で自宅が焼けるという「非常に困った時」に助けになるのが保険だからです。年金も同じことです。「長生きしている間にインフレが来て老後のための蓄えが底を突く」という非常に困った時に助けになるのが公的年金だから、加入するのです。

 

「火事」を「長生きとインフレ」に置き換えて考えれば、「困った事が起きたときに大いに助かる」けれども「困った事が起きなかったら払った保険料を損する」という共通点が見えてくるはずです。

 

今ひとつ、国民年金は、老齢年金だけではなく、障害年金でもあり、死亡した時の遺族年金でもある、という事も重要です。若い人に対しては、遠い将来の老後のメリットを説くよりも、「明日にでも自分が重い障害を抱えることになったり、自分が他界して家族が路頭に迷う事になるリスクがある。国民年金は、それもカバーしてくれるのだ」と説いた方が、必要性を痛感してもらえるかも知れませんね。

 

■財政赤字が大きいのに、将来も政府の税金に頼れるのか?

日本政府の財政赤字が大きいこと、借金も巨額に上っていることから、政府がいつまでも税金で年金を支払うことは出来ないだろう、と考えている読者もいるでしょう。

 

筆者は、楽観的です。財政が苦しくても、政府は他の歳出に優先して年金を支払うはずだ、と考えているからです。理由は明快です。政府が年金の支払いを止めたら、生活保護の申請が激増し、かえって財政赤字が拡大してしまうからです。

 

それでは、政府が破産する可能性は無いのでしょうか?それについても筆者は心配していませんが、心配している人が多いことも知っています。もしも読者が日本政府の破産を心配しているのであれば、筆者からアドバイスさせていただきます。

 

「年金保険料は払わずに」とは私の口からは言えませんが、御自身で御判断下さい。その上で、将来のための資金は、少しずつ米ドルに換えて行きましょう。政府が破産する際には、誰もそんな国の通貨を持っていたくないので、円をドルに換える人々が銀行に殺到し、ドルが急騰するはずだからです。

 

今回は以上です。

 

P.S.

編集に際し、宣伝を追加しました(笑)。

本稿は、拙著『経済暴論』150ページの内容をご紹介したものです