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シン・ゴジラという映画が流行っているようですので、ゴジラに関する頭の体操をしてみましょう。もし、本当にゴジラが上陸したとして、都心部が壊滅的な打撃を受けたとしたら、日本経済はどうなるでしょうか。前提として、人々は避難していて無事だとし、ゴジラは激闘の末に退治されるとしましょう。

■短期的には経済が大混乱
都心のオフィスビルが壊滅的な打撃を受ければ、日本経済は大混乱に陥るでしょう。大企業の本社機能が集中しているビル群が倒壊すれば、各社の指揮命令系統が混乱したり重要な書類が消滅したり、大混乱に陥るはずです。

破壊されたビル等の再建が必要ですから、建設資材等は高騰するでしょう。大阪、名古屋などに仮の本社が設置され、多くの社員が移動することになりますし、住居を破壊された人々も新しい住まいを確保する必要が出てきますので、不動産の賃料は高騰するでしょう。

生産が滞り、輸出が減り、輸入が増えるでしょう。復興資材などの輸入も増えるでしょう。その結果、経常収支は赤字になるはずです。もっとも、日本は巨額の対外純資産を持っていますから、短期的な経常収支赤字に際して外貨不足に陥ることはないでしょう。

■円安、インフレは、ある程度で止まるはず
被害が都心だけであれば、製造業の生産は大きな打撃は受けないでしょうから、短期的な混乱が収まるとともに元通りの生産体制、流通体制となり、輸出も再開されるでしょう。

したがって、円安は無限には進行せず、(世界的な投機資金に翻弄された短期的なオーバーシュートはあり得ますが)、ある程度の水準で安定するでしょう。イメージとしては、1ドル150円から200円といった所でしょうか。

インフレも、不動産関連、建設資材関連が高騰するほか、ドル高円安による輸入品価格の上昇はありますが、生産や流通が速やかに復旧するのであれば、それほど深刻化はしないでしょう。イメージとしては、消費者物価は3割から5割上昇、といったところでしょうか。

株価については、「災害は買い」といった格言もあるようなので、予想は非常に困難ですが、一時的には売られる事があっても、日本経済が全体として壊滅的な被害を受けるわけではないので、遠からず戻るでしょう。

短期的には、国民生活が苦しくなることは避けられないでしょう。何と言っても、今までよりも少ない住宅やオフィスビルを今までと同じ人数で使うわけですから。しかし、以下で述べるように、それも遠からず元に戻るかも知れません。もちろん、人により受ける影響は大きく異なりますが、日本経済全体としては、それほど悪くない未来が待っているかも知れないのです。

■GDPは増加して経済は活性化
はじめに、国富統計ついて考えてみましょう。国富とは、日本にどれくらいの資産があるのか、という統計です。ストックの統計と呼ばれることもあります。家計で言えば「年末時点の預金残高」、企業で言えば「年度末時点のバランスシート」がストック統計に相当します。これは、間違いなく減ります。ゴジラに破壊されたビルが国富ではなくなるからです。

しかし一方、GDPは増加します。GDPはフローの統計です。家計でいえば給料等の収入、企業で言えば生産量や売上高がフロー統計に相当します。これは、復興需要によって増加します。また、ドル高円安により輸出が増えることも期待されます。

ちなみに、GDPは名目と実質があり、名目GDP増加率から物価上昇率を差し引いたものが実質GDPですが、インフレで名目GDPが増加することはもちろんとして、実質でも増加が見込まれるわけです。実質GDPが増加するということは、経済活動が活発化して景気が良くなる、という事です。

建設労働者や建設資材メーカーが決定的な労働力不足に陥りますから、雇用を増やすでしょう。輸出数量が増えるとすれば、輸出品メーカーも雇用を増やすかもしれません。現在すでに、少子高齢化により労働力が不足気味である時に、新たな労働力需要が発生すれば、賃金は上昇するでしょう。

消費者物価の上昇をカバーできるほど上昇するか否かは不明ですが、主な値上がりが家賃と輸入品に集中することを考えると、普通の自宅保有者にとってはインフレの影響はそれほどでも無いので、ある程度の賃金上昇があれば、生活レベルはそれほど低下せずに済みそうです。

そうなれば、消費も落ち込まずに済みます。景気は本格的に回復する可能性が高いと言えるでしょう。

このように、ゴジラによるビル等の破壊は、日本経済のストックは減らしますが、フローは増やすのです。「今までよりも少ないストックを今までと同じ人数で使う」と考えれば、日本人の生活水準は低下するようにも感じられますが、それにより経済活動が活発化し、人々が活き活きと働けるようになれば、むしろ人々の生活は以前より改善するかも知れないのです。経済って不思議ですね。

■悪いことの裏には良いこともあるはず
都心に多数の不動産を持っている企業は、巨額の損失を被るでしょう。しかし、都心以外に賃貸不動産を持っている企業は、賃料の高騰により大いに潤うことでしょう。

都心から地方に移り住む人は、住宅を借りる費用がかかります。しかし、それは空き家の所有者にとっては収入の増加につながります。日本全国に空き家が多数ありますし、マイナス金利下の相続税対策等で貸家建設が活発ですから、こうした人口移動は空き家問題に悩む人々にとっては、干天の慈雨となるかも知れません。皮肉なことに、「貸家への過剰投資」が結果として絶好の先行投資となると同時に、マクロ的にも家賃高騰を緩和する役割を果たしてくれるかも知れないわけです。

大きな目で日本の将来を考えるとき、人々が東京一極集中の危険性に気づき、日本経済が(政治や官僚機構等も含めて)地方に分散される契機となるかもしれません。これは、来るべき巨大地震への備えを考えると、非常に大きな意味を持つかもしれないわけです。

■巨大地震はゴジラの数百倍のインパクト
ゴジラは、おそらく来ないでしょうし、来ても上記のように日本経済へのダメージは限定的です。しかし、ゴジラより遥かに高い確率で襲ってくるであろう大地震(及び大津波)の影響は、ゴジラと比べ物にならないほど大きなものとなるでしょう。

大地震と大津波は予測が困難なので、命を落とさない事だけでも大変です。命が助かっても、政府の支援は期待出来ませんから、自力で生き延びるしかありません。生き延びたとしても、生活は悲惨でしょう。

被災しなかった人にとっても、事態は深刻なはずです。物価は数倍になり、ドルも数倍に値上がりし、大量の難民が日本中を彷徨い、物資は決定的に不足するでしょう。

せめてもの自衛手段として、非常用食料を備蓄する等々に加え、資産としてはドルを持っておくと良いでしょう。物価が高騰すると同時にドル高になりますから、手持ちのドルを売って生活物資を購入する事が可能だからです。

防災の日に、ゴジラに思いを馳せながら、リスク管理について考えてみました。今回は、以上です。

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