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統計は嘘をつきませんが、統計使いは時として統計を使って嘘をつきます。故意に嘘をついている場合と、統計使いが統計に騙されている場合がありますが(笑)。

■グラフは便利だが、重要なのはデータ
さて、上のグラフ、各社の売上高だとしましょう。一番成長しているのはA社なのですが、そう見えますか?A社は1から2に2倍になっています。B社は10から19に1.9倍です。C社は10から18に1.8倍になっています。C社は右目盛で、軸がゼロから始まっていないので、B社よりグラフの傾きが急になっているのですが、データ自体はB社の方が増加率が高いのです。

統計使いが上のようなグラフを使った場合、A社が一番成長していることに気付く事は、容易ではありません。グラフは便利ですが、何か変だと思ったら、元のデータに当たってみることも必要かもしれませんね。

反対に、日本経済の成長に最も貢献したのは、売上高を9伸ばしたB社なのですが、「各社の売上高の伸び率」というグラフを見せられると、A社が最も貢献したようにも思えてしまうので、それはそれで要注意です。

■以下のうちで、統計使いが読者を騙そうと思っている事例は?
厚生労働省が、最近逮捕された凶悪犯罪者について、犯行前1週間の食生活を調査しました。すると、なんと95%以上の凶悪犯罪者が共通して食べていた食材があったのです。ネットにその情報が伝わると、「そんな危険な食材は直ちに禁止しろ」という声が沸き上がったそうです。当然ですね。もちろん、読者も禁止に賛成ですよね?

話題を変えましょう。政府が消費税率の引上げを国会に提案したところ、野党議員から質問がありました。「我が党が行なったアンケート調査によると、消費税を上げたら消費を減らすという回答が7割もありました。7割もの人が消費を減らすとなると、大不況が予想されますが、それでも消費税を引き上げますか?」というものでした。大不況が来ると困るので、増税は延期すべきですよね。読者もそう思いますよね?

今ひとつ。米軍が、「米国軍人の死亡率は、ニューヨーク市民の平均より低いから、米軍キャンプはニューヨーク市より安全な所だ」と発表したとして、「それなら米軍に志願しよう」と思いますか?もちろん、読者が米国人の愛国者だったとして、ですが。

■サンプルの選び方には要注意
米軍の事例は、「米軍には定年があるので、高齢者がいない」という点がポイントです。ニューヨーク市民の中から若くて健康な人ばかりを集めてくれば、米国軍人の死亡率の方が高いのでしょうが、そもそも統計の取り方が異なっているので、直接比べてはいけないのです。

サンプルの選び方という意味では、選挙の際の支持政党調査アンケートなども、気になる所です。たとえば平日の昼間に自宅の固定電話にかければ、電話に出るのは主婦や高齢者など、生活者の視点にたった人が多いでしょう。「日本経済やビジネスを発展させよう」という政策を支持する人は、平日の日中は働きに出ていて自宅に来た電話アンケートには回答しないかも知れません。

反対に、インターネットでの世論調査は、コストは安いでしょうが、若者の意向を反映して、高齢者の意向が反映されないかも知れません。特に選挙の際の投票予想に用いるとすると、「投票に行かない若者も多い」ということも割り引いて結果を解釈する必要があるわけです。

■「消費増税で消費が7割減る」わけではない
消費税が増税になると、消費を減らす人が7割いる、というのは、当然のことです。むしろ、「消費税が上がっても、消費を減らさない人が3割もいる」という事の方が驚きです。重要なことは、「少しだけ消費を減らす人が7割いる」としても、「消費が7割減る」わけではないという事です。したがって、このアンケートからは、大不況が来ると結論付けることは出来ないのです。

さて、凶悪犯罪者の食材の件ですが、禁止に賛同しますか?「そもそも凶悪犯罪と食べ物の関係が曖昧で、因果関係が明確ではない」ということで賛同しかねる、という読者もいるでしょう。それは、全くその通りです。しかし、本件はもっと単純な話なのです。問題の食材はコメなのです。

問題は、「凶悪犯罪者は食べているが、一般人は食べていない食材」について論じるべきであるところ、一般人が食べているか否かを論じないで凶悪犯罪者が食べているか否かだけを論じているので、意味が無い調査になっているわけです。

以上、いくつかの例だけでも、統計の扱いは慎重にするべきだ、という事がおわかり頂けたと思います。数字を使わずに感覚だけで物を言う人も問題ですが、数字を並べ立てて自分の主張を通そうという人も、問題かも知れません。じっくり見定める習慣を付けたいものですね。

【参考記事】
統計の前年比は便利だが、落とし穴に注意 (塚崎公義)
http://sharescafe.net/49304032-20160814.html
■少子高齢化による労働力不足で日本経済は黄金時代へ (塚崎公義)
http://sharescafe.net/49220219-20160809.html
■不満な人ほど声を出すから、黙っている人にも要注目 (塚崎公義)
http://sharescafe.net/49058608-20160713.html
■なぜ、警察官が多い街ほど犯罪が多いのか? (塚崎公義)
http://sharescafe.net/49058445-20160718.html
■老後の生活には1億円必要だが、普通のサラリーマンは何とかなる (塚崎公義)
http://sharescafe.net/49185650-20160728.html

塚崎公義 久留米大学商学部教授






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