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老後の生活には1億円必要だ、と言われています。定年までに1億円貯めるのは到底無理だ、と不安に思う読者がいるかもしれませんが、普通のサラリーマン(公務員等を含みます。以下同様)は年金がもらえますし、退職金も出ますから、過度な懸念は不要です。今回は、老後資金について考えてみましょう。

■「老後の生活に1億円かかる」のは本当です
60歳で定年を迎えるとして、男性は平均余命が23年あります。妻が夫より2歳年下だとすると、妻の平均余命は30年あります。家計調査(注)によれば、無職世帯の平均支出額は60代前半が月額30.8万円、65歳以上が月額27.6万円となっていますので、妻が90歳になるまでの生活費は、ほぼ1億円かかることになります。この調査では、家計の人数が略2.5人なので、老夫婦の生活費よりは少し多くなっていますが、長生きやインフレのリスクなどを考えると、「1億円必要だ」と考えておいて間違いないでしょう。

読者の中で、定年時までに1億円貯める自信のある人は希でしょう。でも、安心してください。サラリーマンには年金、退職金、等々がありますから。実際、高齢社会白書(平成28年版)によると、経済的な暮らし向きについてのアンケートでは、心配ない、それほど心配ない、との回答が60歳以上で7割、80歳以上では8割にのぼっています。何とかなるのです。回答者のなかで、定年時に1億円持っていた人は希でしょうから、読者の多くも多分大丈夫なのです。

■70歳まで年金受給開始を待てれば、あとは年金で暮らせる計算
厚生労働省によると、夫が平均的収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)42.8 万円)で 40 年間就業し、妻がその期間すべて専業主婦であった世帯が年金を受け取り始める場合の給付水準は、221,504円となっています。年金の受け取り開始年齢を70歳まで待つと、この金額の42%増が受け取れますから、月額31.5万円になります。これなら、老後の生活は年金だけで何とかなりそうです。

将来の年金は大丈夫なのでしょうか。日本の年金制度は、現役世代が高齢者を支える仕組みになっているので、現役世代と高齢者の比率が現在の想定よりも急激に変化すると、年金支給額が減ることになっています。これを「マクロ経済スライド」と呼びます。厚生労働省は、様々なケースで試算をしていますが、最も悲観的なケースでも40年後に2割程度目減りする(年金のみで生活する場合の生活水準が2割程度低下する)ということなので、年金が全く受け取れなくなる、といった心配は無用なようです。

31.5万円から2割引くと、上記の高齢者の生活費である月額27.6万円には若干足りませんが、この金額は約2.5人の世帯人数に対応したものですから、老夫婦二人だけならば、何とか足りるでしょう。

■退職直後に2000万円あれば、何とかなる計算
60歳で退職し、退職金でローンをすべて返済し、手元に2000万円残るとしましょう。65歳までは何とか働いて生活費を稼ぎます。65歳から70歳までは、退職金を取り崩しながら食いつなぐとします。月額27.6万円だと1650万円ほどかかります。残った350万円は、万が一の時のために持っておきましょう。何事もなければ葬儀費用として相続しましょう。

こうして見ると、退職直後に2000万円あれば、何とかなる計算になっています。一生同じ職場に勤めたサラリーマンは、高卒事務系で2000万円弱の退職金が期待出来るようですから、多くのサラリーマンにとって、退職直前の金融資産が住宅ローンなどと均衡していれば、何とかなるということのようです。足りない場合でも、60歳以降の仕事量を増やして補えば、何とかなるでしょう。

不謹慎な話ではありますし、個人差も大きいですが、遺産も、少しは期待しても良いでしょう。高齢者の多くは多額の金融資産を持っています。金融資産は、二人以上の世帯の34%が2500万円以上持っています。80%以上が400万円以上持っています。日本の高齢者は、「100歳まで長生きした場合に備えて多額の金融資産を持っている」わけですが、実際には100歳になる前に多額の遺産を遺して他界する人も多いのです。高齢者の多くは自宅も持っていますので、都市部であれば、相続した親の家も換金して老後の生活の助けにすることが出来るでしょう。

■いたずらに不安に怯えず、自分の老後をイメージしてみましょう
世の中には、人を不安にする話が溢れています。特に日本人は、将来を悲観する話を好む傾向があるので、マスコミにも楽観的な話より悲観的な話が多く流れています。

しかし、上記を読み、冷静に自分の置かれた状況を分析すれば、多くの読者は「何とかなりそうだ」と感じると思います。特に、上記の試算には、「長生きしている間にインフレが来て、蓄えが底を突く」リスクが無い、という強みがあります。年金は原則として(マクロ経済スライド分を除けば)インフレ分だけ支給額が増えますし、どれだけ長生きしても払い続けられるからです。

退職時に2000万円の金融資産が無い、といった場合には、老後も働きましょう。専業主婦も働いて稼ぎましょう。生活も見直しましょう。そうした必要があるのか無いのか、見極めるだけでも、安心出来る読者は多いと思います。

■老後資金が何とかなりそうでも、老後は働きましょう
上記をお読みいただいても、見通しが楽観すぎると感じて安心出来ない読者も多いでしょう。予想は納得したが、悪い方のケースにも備えたい、という読者も多いでしょう。それなら、老後も働きましょう。老後資金の心配は無いが、豊かに暮らしたい、という場合も、老後に働きましょう。老後資金に興味がない読者も、老後は働きましょう。

働く事で、収入が得られて老後資金の安心が得られるのみならず、社会との繋がりが維持できることも大きなメリットでしょう。ボケの防止にもなるでしょう。

高度成長期には、15歳から55歳まで40年間働き、70歳台で他界した人が多かったので、人生の半分以上は働いていたわけです。それなら、人生90年時代、20歳から70歳まで働くのは当然でしょう。幸い、少子高齢化による労働力不足ですから、高齢者でも働き口は見つかるでしょう。

筆者も、体力と相談しながら、老後も働ける間は働くつもりです。


(注)家計調査年報家計収支編2015年版詳細結果表3—14参照

【参考記事】
■労働力不足でインフレの時代が来る(塚崎公義)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12177800201.html
■株価を上げた「黒田マジックの偽薬効果」が減衰 (塚崎公義)
http://sharescafe.net/48963054-20160701.html
■金融緩和で物価を上げるのは無理なのか? (塚崎公義)
http://sharescafe.net/48919755-20160624.html
■危機時に円が買われる真因は、過去の経常収支黒字 (塚崎公義)
http://sharescafe.net/48952109-20160629.html
■アベノミクス景気は謎だらけ(塚崎公義)
http://sharescafe.net/48918008-20160624.html

塚崎公義 久留米大学商学部教授

最後に宣伝です(笑)




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