統計を見ると、警察官が多い街ほど犯罪が多いのです。でも、「それなら警察官を減らして財政再建しよう」と言われても、同意できませんよね。どう反論したら良いのでしょうか?そもそも警察官が多い街ほど犯罪が多いのは、何故なのでしょうか?今回は、因果関係について考えてみましょう。

 

■小さな理由:犯罪が多い街ほど警察官を雇うから

「警察官が多いから犯罪が多い」のではなく、「犯罪が多いから警察官を雇う」のですね。犯罪が少ない街は、税金で公園を作りますが、犯罪の多い街は税金で警察官を雇う、というわけです。

 

統計を眺めると、犯罪者の数と警察官の数が似たような動きをしている事はわかりますが、どちらが原因でどちらが結果なのか、という因果関係は解りません。これは、人間が常識で判断してやるしかないのです。

 

普通は、先に起きた事が原因なので、犯罪数と警察官数の推移をみてやると、「犯罪数が増えてから警察官数が増えているのだから、犯罪数が原因だろう」と考えることが出来ます。親子が似ている場合、親が原因で子が結果に違いない、というわけです。しかし、これも絶対正しいわけではありません。

 

株価は景気の先行指標ですから、株価が景気より先に動くのですが、それは投資家たちが景気を予想して株式売買を行うからです。株価の方が先に動くのに、景気が親で株価が子なのですね。このあたりの因果関係になると、コンピューターには判別が難しく、人間が常識で判断するしかないでしょうね。

 

■大きな理由:街の人口が多ければ警察官も犯罪も多い

東京は、人口が多いので、犯罪数も警察官数も多いです。つまり、人口が多いことが原因で、犯罪数と警察官数が多いことが結果なのです。親は別にいて、兄弟だから似ている、というわけですね。

 

ちなみに、上記の株価と景気の関係についても、「日銀の金融引き締めが親で、株価が直ちに反応して、景気が遅れて反応したという兄弟の関係であった」という面もあるので、要注意です。

 

一見あまり関係が無さそうなことが、実は別の原因で繋がっているという事は、しばしば指摘されています。たとえば「アイスクリームが売れた日は海で溺れる人が多い、なぜならば、暑い日はアイスクリームを食べる人も海で泳ぐ人も多いからだ」というわけです。気温が親なのですね。

 

■円高の日は株安なのは何故?

円高の日は株安になりやすいですね。統計的に、明らかに強い関係があるのですが、なぜでしょうか。これは難問です。「株価が下がると円が買われる」と考える理由は特にないでしょう。

 

「円高だと株が売られる」というのはどうでしょうか。「円高だと日本企業の収益が悪化するので日本株が売られる」という事は考えられますが、輸出株のみならず、内需株(本来は輸入されるエネルギーなどが安くなって恩恵を受けるはず)なども軒並み売られる場合が多いようです。

 

実は、親が別のところにいて、円高と株安は兄弟だから似ているのではないでしょうか。そう考えると、「投資家たちがリスク・オン(リスクがあっても儲けを狙いたい心理)になると円安で株高、投資家たちがリスク・オフ(リスクがあるなら儲けは狙わない心理)になると円高で株安」という因果関係が思い浮かびます。つまり、投資家たちのリスクに対する姿勢が親で、円高と株安は子だというわけです。

 

■因果関係は難しい

二つのデータが、お互いに原因であり結果であるような場合もあります。好循環、悪循環を生じている場合は典型的です。たとえば物が売れないから作らない、すると会社が人を雇わないから失業した人が物を買わない、という場合、物の売れ行きと人々の所得は、お互いが原因であり、結果でもあるわけです。

 

ケース・バイ・ケースのこともあり得ます。ある国で、「授業料の高い大学を卒業した人ほど生涯所得が高い」としましょう。良い教育をするためにコストがかかるから授業料が高いという大学ならば、良い教育が高い生涯所得の原因になり得ます。一方で、いわゆる御嬢様学校は授業料が高いですが、教育内容の素晴らしさが生涯所得を高めているという要因以外に、親の資産を相続して二代目社長になる、等々の要因もあると思われます。

 

「当大学は授業料は高いですが、卒業生の多くは金持ちになっています」という宣伝も見ても、入学すべきか否かは、慎重に検討した方が良いでしょうね。

 

■財政赤字が減った国ほど景気が良いが・・・

世界各国のデータを見比べると、財政赤字が減った国ほど景気が良い、という関係があるようです。これをどう考えるべきでしょうか?景気が良いから税収が増えて財政赤字が減った、という因果関係は当然ありますが、実は、逆もあるのです。

 

財政赤字を減らしたので、長期債の需給関係が変化して長期金利が下がり、民間投資が喚起されて景気が回復した、という経路です。たしか、米国の財政赤字が解消した時に、クリントン米大統領(当時)が、自画自賛していたように記憶しています。

 

ということは、「日本でも財政赤字を縮小すれば景気が良くなるのだから、消費税を増税しよう」と言われかねません。その場合、どう考えれば良いのでしょうか?

 

これは、「否」です。日本の長期金利は充分低いので、財政再建をしても、これ以上は下がらない(むしろ下がるべきではない)からです。最後は引っ掛け問題で失礼しましたが、因果関係については慎重に判断すべきだ、という事を御伝えしたかったので、御理解いただければ幸いです。

 

 

【参考記事】

■株価を上げた「黒田マジックの偽薬効果」が減衰 (塚崎公義 大学教授)

http://sharescafe.net/48963054-20160701.html

■金融緩和で物価を上げるのは無理なのか? (塚崎公義 大学教授)

http://sharescafe.net/48919755-20160624.html

■危機時に円が買われる真因は、過去の経常収支黒字 (塚崎公義 大学教授)

http://sharescafe.net/48952109-20160629.html

■アベノミクス景気は謎だらけ(塚崎公義 大学教授)

http://sharescafe.net/48918008-20160624.html

■株価が下がるほど売り注文が増える恐怖 (塚崎公義 大学教授)

http://sharescafe.net/48993614-20160706.html