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マイナス金利が採用されてから、株価は低迷を続けています。実体経済への影響も、必ずしもプラスにはなっていないようです。日銀がマイナス金利を金融緩和の切り札だと考えていたとすれば、当てが外れたと言えそうです。今回は、マイナス金利の影響について考えてみましょう。

■偽薬効果だった株価上昇と景気回復
アベノミクスの目玉として、黒田日銀総裁が大胆な金融緩和を打ち出した時、株価は急騰しました。金融緩和で世の中に資金が出回れば、世の中の株券と資金の比率が変わり、株価が値上がりするはずだ、と考えた投資家(本稿では黒田信者と呼びます)が株を買ったからです。

筆者のように、資金は世の中に出回らないだろうと考えた人も、黒田信者が大量の株を買うのを見て、「自分も先回りして株を買って儲けよう」と考えたので、株価は更に上がりました。

実際には、世の中に資金が出回らなかったので、黒田信者は間違えていたわけですが、結果として株価もドルも値上がりし、景気が回復したのですから、金融緩和は成功だったと言えるでしょう。

小麦粉を薬だと言って患者に渡すと、病が治る場合があります。「病は気から」だから起きる現象なのでしょう。これを「偽薬効果」と呼びます。今回の金融緩和も、「世の中に資金を出回らせる」と日銀総裁が宣言したこと自体は誤りだったので、金融緩和は小麦粉だったのですが、それで景気が回復したのですから、「偽薬効果」だったと言えるでしょう。

■金融緩和の株価押し上げ効果は消えたのか?
黒田日銀総裁が就任してから暫くは、株価は順調に上昇していきました。投資家たちは「資金が世の中に出回っていない」ことに気付きましたが、「それでも他の投資家が黒田信者であるなら、株価は上がるだろう」と考えて株を買ったのでしょう。

しかし次第に、黒田信者たちにも、金融緩和が薬ではなく小麦粉であるということが知れるようになってきました。そして投資家たちは、「他の投資家も黒田信者ではなさそうだ」と考えるようになりました。そうなると、ゼロ金利下の追加緩和は意味をなさないようになってきます。

そこで打ち出されたのがマイナス金利でした。これは、銀行に対して「日銀に預けてマイナス金利をとられるくらいなら、貸し出しを増やしなさい」という日銀のメッセージだったわけです。これは、ゼロ金利下の量的緩和と異なり、理論的に銀行の貸出のインセンティブを高めるものとして(小麦粉ではなく、本当の薬として)、大いに注目されたのです。

■海の水を一口飲んだら減るか?
マイナス金利という言葉は、インパクトを持っています。マスコミ的には特集を組めば売れそうだ、ということで、「マイナス金利で何が起きるのか」といった特集が多数組まれました。

しかし、マイナス0.1%では何も起きないでしょう。銀行にとって、プラス0.1%がゼロになったインパクトと、ゼロがマイナス0.1%になったインパクトは、同じくらい小さいからです。実際、少なくとも今までのところ、目立った変化は起きていないようです。

銀行にとっては、預金を集めて日銀に預けるという行為は、従来から赤字でした。客に払う金利も日銀から受け取る金利も略ゼロだということは、預金部門のコスト分だけ赤字だったということなのです。その赤字幅が預金部門のコストプラス0.1%に拡大したからと言って、銀行行動が急に激変するとは考えにくいわけです。

「海の水を一口飲んだら海の水は減るか?」と聞かれて、減ると答えるのはバカバカしいですが、減らないと答えると「間違っている」と批判されます。そうした時には「誤差の範囲だから騒ぐような事ではない」と答えるのが正しいのでしょう。今次マイナス金利も、そのイメージでしょう。

余談ですが、筆者は某マスコミから「マイナス金利の影響についてのコメント」を求められたので、「海の水を一口飲んだようなものですから、騒ぐ必要はありません」と返答したところ、「それでは困ります」と言われてコメントが掲載してもらえなかったのでした。某社としては、「マイナス金利特集」を組んで大々的に売り出そうという事だったのですね(笑)。

■家庭用の金庫が売れた不思議
今回のマイナス金利は、銀行の日銀への預金に適用されるだけで、個人が銀行に預金するとマイナス金利が課されるわけではありません。したがって、預金者は従来どおり落ち着いて銀行に預金していれば良いのです。

なお、「預金はインフレに弱いから株や外貨などにも分散投資しましょう」という話は、ゼロ金利だろうとマイナス金利だろうと必要なわけですが、その話はまた別の機会に。

ゼロ金利時代とマイナス金利時代で、個人の資産運用に関しては変わるところはありません。「マイナス金利ですから投資をしましょう、家庭用金庫を買ってタンス預金をしましょう」といったセールストークには乗せられないように気をつけましょう。

しかし、マイナス金利以降、家庭用金庫が良く売れたようです。銀行に預けていると預金が減ってしまうので、引き出して自宅の金庫に現金を保管しようという人がいたのでしょう。「マイナス金利」という言葉が一人歩きして、正しくない認識を持った人々が「奇妙な」行動をとった、ということでしょう。

問題は、金庫を買った人にとどまらず、それ以外でも奇妙な行動をとった人がいる可能性です。高齢者の中には、「マイナス金利で自分の老後資金が減ってしまう。倹約しなければ」と考えて倹約に励んでいる人がいると聞きます。そうだとすれば、それは「マイナス金利によるマイナス心理」だと言えるでしょう。

【参考記事】
■金融緩和で物価を上げるのは無理なのか? (塚崎公義)
http://sharescafe.net/48919755-20160624.html
■危機時に円が買われる真因は、過去の経常収支黒字 (塚崎公義)
http://sharescafe.net/48952109-20160629.html
■アベノミクス景気は謎だらけ(塚崎公義)
http://sharescafe.net/48918008-20160624.html
■英国のEU離脱でも世界経済は大丈夫 (塚崎公義)
http://sharescafe.net/48894942-20160622.html
■英国のEU離脱に関して聞こえて来る話は、論者たちの本心よりも悲観的 (塚崎公義)
http://sharescafe.net/48951151-20160628.html



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