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英国がEU離脱を決めたことで、次々と追随する国が出て、EUが崩壊すると心配している人もいるようですが、筆者は安心しています。非ユーロ導入国はともかくとして、ユーロ導入国はユーロ圏を抜けないので、EUも抜けないと考えているからです。今回は、ユーロ導入国の事情について考えてみましょう。


■ユーロは経常収支赤字国が借金できる仕組み
経常収支が赤字の国は、赤字分だけ外国から借金をすることになります。毎年の赤字分が貯まっていくと、外国からの借金も巨額になっていきます。通常、貿易等は外貨で行なわれますから、ユーロに参加していない国は、外貨建ての借金をすることになります。

ところが、ユーロ採用国は、ユーロ建てで借金をするため、外貨建ての借金を抱える必要はありません。貸し手の立場からすると、借り手が外貨建ての借金を抱えているのと自国通貨建ての借金を抱えているのでは、不安の度合いが大きく異なります。

たとえば1997年にタイで通貨危機が起きました。この時は外国から借金返済要請が相次いだため、タイの借り手が自国通貨をドルに換えて借金を返済しようとしましたが、ドルの買い注文が殺到してドル高となり、借金返済が出来なくなった借り手が多かったのです。昨日まで何の問題も無かった借り手がドル高により破綻する、といった事が頻発したのです。

ユーロ建てで借金をしていれば、こうした不安はありませんから、比較的楽に外国から借金をすることが出来ます。これは、経常収支赤字国にとっては大変素晴らしいことです。ユーロ採用の大きなメリットと言えるでしょう。

しかし、考えようによっては、これは麻薬のようなものです。本来は経常収支赤字を減らす努力が必用なのに、借金が出来るために努力の必要が薄れるのです。これは大変心地よいものですが、問題は続けると依存症になることです。

■ユーロ圏を離脱するとインフレと失業が待っている
ユーロ圏を離脱した途端、その国は「巨額の外貨建て借金を背負った国」になるわけですから、海外からの借金返済要請が一気に押し寄せて、通貨危機時のタイのようになってしまうかも知れません。仮に既存の借金の返済は待ってもらえたとしても、新たな経常収支赤字分は自国通貨を外貨に換えて支払う必要が出てきますので、遠からず外貨高となり、輸入物価が高騰し、インフレになるでしょう。

インフレを抑えるためには、金融引き締めによって景気を悪化させ、輸入を減らして経常収支を改善する必要がありますが、そのためには失業の増加を覚悟する必要があります。既存の借金も減らしていくとなると、かなり厳しい引き締めにより輸入を急激に減らす必要がありますから、失業者も著増するでしょう。

ギリシャは、こうした事を理解したからこそ、ユーロからの離脱を思いとどまったのです。他の経常収支赤字国も、同様の選択をすると期待されるところです。

英国のEU離脱の国民投票を見ると、必ずしも経済的に正しい選択が行なわれるとは限りませんので、ユーロ圏から離脱する国が無いとは言えません。しかし、最初の離脱国が悲惨な目に遭うと、次の国からは離脱を思いとどまるでしょうから、経常収支赤字国の離脱は最大1か国だろう、と考えて良いでしょう。

■経常収支黒字国もユーロ圏に留まるインセンティブあり
経常収支黒字国がユーロを採用しないと、輸出企業が持ち帰った外貨を売るたびに外貨安自国通貨高になっていきます。これでは思い切って輸出を増やすことができません。

しかし、経常収支黒字国がユーロを採用すれば、自国通貨高にならずに済むのです。それは、ユーロ圏には経常収支黒字国と赤字国があり、ユーロ圏全体としての経常収支はそれほど大幅な黒字ではないからです。つまり、経常収支黒字国も、ユーロ圏に留まっているインセンティブがあるのです。

■ユーロは麻薬。解決策は政治統合だが・・・
上記のように、経常収支赤字国にとっても黒字国にとっても、ユーロは大変心地良いシステムですが、依存症になるため、抜けられなくなり、赤字国は借金が、黒字国は対外貸付が増えていくことになります。そうなると、ますます離脱の際の打撃が大きくなり、抜けられなくなって行きます。

こうした状態は、永遠に続けることは出来ませんが、「出口戦略」は非常に限られています。理想的には欧州の政治統合を目指すという事になっていますし、そうなればドイツのギリシャ等への貸出が国内問題となります。男性が女性から借金をしていたが、二人が結婚したので家庭内の問題となった、というようなものでしょう。

それをドイツ等が呑むか否か、難しい問題はありそうですが、遠い将来に考えれば良いことでしょうから、本稿では深入りしません。万が一、日本が「アジアでもユーロのような共通通貨を作ろう」と考えるようなことがあれば、改めて真剣に考えることにしましょう。

【参考記事】
■危機時に円が買われる真因は、過去の経常収支黒字 (塚崎公義)
http://sharescafe.net/48952109-20160629.html
■英国のEU離脱でも世界経済は大丈夫 (塚崎公義)
http://sharescafe.net/48894942-20160622.html
■英国のEU離脱に関して聞こえて来る話は、論者たちの本心よりも悲観的 (塚崎公義)
http://sharescafe.net/48951151-20160628.html
■金融緩和で物価を上げるのは無理なのか? (塚崎公義)
http://sharescafe.net/48919755-20160624.html
■アベノミクス景気は謎だらけ(塚崎公義)
http://sharescafe.net/48918008-20160624.html



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