レポート等の文章の書き方

学生に向けて、文章の書き方を指導しました。以下は、その概要です。

(読んでいただく)
 学生のレポートの目的は多数あります。「レポートを書くために調べたり考えたりして内容を練る」ことで課題に対する理解を深めることが最重要であることは間違いありません。しかし、せっかくレポートを出しても成績に結びつかなければ、意味がないとも言えるでしょう。そのためには、与えられた課題に沿ったレポートを書く(筆者の過去の経験では、意外なほど与えられた課題とズレたことを記しているレポートが多いです)、提出期限を守る、といったことが重要ですが、読みやすい文章を書く、読みやすい字で書く(特に指定が無いならば、手書きではなくパソコンのワード等を用いることは当然)ということも、同様に重要です。
 皆さんが社会人になってから書く文章(あるいは就職試験のときに書く文章)は、「読んでいただく」ものです。字がきたなかったり、文章が読みにくかったりすれば、顧客はパンフレットを読みませんし、上司は提案書を読まないでしょう。読んでもらわなければ、どれほど内容が素晴らしくても、その文書の価値はゼロです。したがって、私は皆さんに、学生のうちから「読んでいただける文章」を書く訓練をしてほしいと思います。
 皆さんは大学に授業料を払っていて、私は大学から給料をもらっているので、私には皆さんのレポートを読む義務があります。したがって、どれほど読みにくい文章であっても、どれほど読みにくい手書きの文字であっても、内容を理解しようと努めます。しかし、私はレポートの採点に際し、読みやすいレポートであるか否かに比較的大きな配点をするつもりです。そのつもりで、読みやすいレポートを書くことにも充分な注意を払っていただきたいと思います 。

(読み手の視点で読み直す)
文章の書き方のテクニックについては、起承転結をつけるとか5W1Hを意識して書くとか、さまざまなノウハウ本が出ていますので、そうしたものを一読すると参考になることが見つかるはずです。しかし、私がもっとも強調したいのは、「読み手の視点に立つ」ということです。
 「相手が読む気になるような内容で、相手が抵抗なく読める文体で、自分が伝えたいことが相手に伝わる文章になっているか否か」を知りたければ、自分が相手の立場に立って自分の文章を読んでみることです。レポートであれば、「自分が採点者だったら、このペーパーを読んだときに、書いた人をどう思うだろうか」という目で読み直して見ることです。レポートの目的は、「私はたくさん調べてたくさん考えて多くを理解しています」ということを採点者に伝える(あるいはそのような美しい誤解をしてもらう)ことです。あなたのレポートを採点者が読んで、そう思ってくれるでしょうか。
 レポートの場合は、読み手の方が自分よりもわかっているので、相手の理解度をおもんぱかる必要はありませんが、それでも自分の理解度を示すためには何を考えたかという道筋をしっかり示す必要があります。数学の問題に答だけ書いて式が書いていないようなレポートをしばしば見かけますが、正しい式を理解しているということを採点者にわからせないようなレポートは高い評価は得られません。
 少し脱線しますが、相手の理解度が自分よりも低いかもしれない場合には、さらに注意が必要です。人間は、よほど注意しないと、自分の知っていることは相手も知っていると勝手に考えて話しをする癖を持っているからです。たとえば自己紹介の時には、自分のことは自分が一番よくわかっていますから、相手は自分のことを何も知らないのだということを肝に銘じて、当然すぎることまで話すように心がけて丁度良いくらいだと思います。ちなみに私のゼミでは、「自分の好きな小説のあらすじを教えてください」と言って、皆さんの読んだ小説の紹介をしてもらうことがありますが、「自分は読んでいるけれども聞き手は読んでいない小説について、あらすじを説明する」というのは、慣れていない人には比較的難しい作業のようです。
 いま少し脱線を続けますと、相手の視点でモノを見るということは、心優しい人だけに求められることではありません。商売敵が何をされると最も困るかということを考える際にも、相手の視点に立つことが必要です。将棋の対局中、相手の視点で将棋盤を見れれば、何をすれば相手が困るのかがわかるのですが、それが出来るのは相当強い人です。私は下手な将棋指しなので、いつも「相手はこう指すだろう」という「勝手読み」をして失敗するのですが、これは相手の視点で盤を見ていないからです。対戦相手がトイレに行った隙に相手の席に座って見たことがありますが、今まで如何に相手の視点で盤が見えていなかったか、痛感させられたことを今でも明確に覚えています。
将棋であれば、一人将棋(二人分を自分だけで交互に指すこと)によって、相手の視点で盤を見る訓練が出来ます。レポートの場合は採点者の席に座るわけにはいきませんが、採点者になったつもりで自分のレポートを読んでみることは、誰にでもできるでしょう。

(要旨を先に書く)
 以下は、私が文章を書く際の手法です。御参考になれば幸いです。私は、まず要旨を書きます。自分の頭を整理するのが主目的ですが、要旨を書いてあると、文章が途中で振れないのです。「そうかもしれないし、そうでないかもしれないし、やはりそうであるとも考えられる」というように、書き手が動揺していれば、読み手はさらに動揺するでしょうから、この手の文章は厳に避けるべきです。
 学部のレポート程度の長さであれば、要旨は提出しない場合も多いでしょうが、それでも要旨を作ることは決して無駄ではないのです。要旨をつけてレポートを出す場合には、要旨で印象が大きく変わりますから、要旨部分は特に気合を入れて書きましょう。「まず要旨を書き、それを見ながら本文を書き、それを見ながら気合を入れて要旨を書き直し、それを何度も推敲する」というくらいで丁度よいでしょう。社会人の書く「読んでいただく」書類では、要旨の出来が悪いと本文に目を通してもらえない場合も多いということをお忘れなく。
 いま一つ私がこころがけていることは、「締切のずっと前に一度書いてみる」ということです。この段階では、真剣に書かなくても、楽な気持ちでとにかく要旨と本文を書いてみます。締切直前に体調を崩してレポートが提出できないという事態を避けるためのリスク管理という意味もありますが、他にも重要なメリットが多数あります。
 メリットの第一は、自分が何がわかっていて、何を追加で調べなければわからないかが明確になるということです。漠然と資料を読んでいるだけでは、締切直前になって文章を書いてみてから大事なことを調べ忘れていたことに気付く場合が少なくありません。「2ページのレポートを書くのに、20ページ分の資料を集めたが、肝心の点が抜けていた」というのでは、何のために努力をしたのか、泣きたくなってしまうでしょう。
 メリットの第二は、自分の書いた文章を、何日か置いてから読み直してみると、客観的な目、あるいは読み手の目で見れて、欠点がよく見えるということです。「夜中に書いたラブレターを翌朝読み直したら、到底投函する気になれなかった」という経験をお持ちの方もいると思いますが、時が経つということは、ワインが熟成するのに必要なだけではなく、文章が熟成されるにも必要なのかもしれません。
 なお、理想を言えば、「とりあえず書いてみた」原稿を手直しするのではなく、以前の原稿を参考にして一から書きなおすことをお勧めします。私をふくめて(おそらく皆さんも含めて)人間は怠慢な動物ですから、もとの文章を手直しするとなると、最低限の手直しですませようとし、結局ツギハギだらけの読みにくい文章になってしまいがちです。ちなみに私は、「とりあえず書いてみた」原稿は、刷り出しだけを残してワードのファイルは消去してしまうことにしています。そうしないと、どうしても怠慢な自分が手直しを始めてしまうような気がしているので。

以上です。




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