(平和な島)
あるところに羊の国がありました。島国だったので外敵もなく、皆で仲良くくらしていました。もともと働き者でしたし、武器を作る必要もなかったので、豊かに暮らしていました。羊たちは、助け合うことが大切だと考えていましたから、能力のない羊でも一生懸命働けば、それなりの生活はできました。一方で、一生懸命働かない羊や自分勝手な羊は仲間はずれにされましたから、サボる羊や自分勝手な羊はいませんでした。泥棒もいませんでしたから、おまわりさんもいませんでした。皆で協力して働いていましたから、できた物は皆で分け合っていました。したがって、大金持ちも貧乏もいませんでした。羊の長老はいつも思っていました。「なんてすばらしい国なんだ」。
隣の島はオオカミの国でした。オオカミたちは、常に戦い、負けた者はキバを抜かれて奴隷にされてしまいました。オオカミたちは、生き残るために必死にいくさの訓練をしましたから、全員がたいそう強かったのですが、その中でも勝った者だけが残るため、オオカミたちはますます強くなっていきました。オオカミたちは、多くの奴隷に多くの物を作らせて、豊かに暮らしていましたが、いつも敵や泥棒の心配をして不安におびえていましたし、武器を買ったり門番を雇ったりする出費も大変でした。
 少し前のことです。羊の国で大きなお祭りがありました。羊たちの国が世界で一番豊かになったことを祝うお祭りで、世界中の人々が「羊の国はすばらしい。皆も羊の真似をしよう」とたたえていました。羊たちは来る日も来る日も飲み食いに明け暮れていました。長老は、「何かおかしい」と思いましたが、若者たちは何も気にせずにはしゃいでいましたから、気づいた時にはすっかり太って動けなくなっていました。太りすぎが原因でいろいろな病気にかかる羊が増え、羊の国はすっかり元気がなくなってしまいました。長老はがっかりしましたが、思い直しました。「羊の国はよい国だ。若者たちが元気になれば、またすばらしい国になるだろう」。

 羊の国が元気がなくなったころ、今度はオオカミの国が大変元気になりました。そこで、オオカミたちは大きなお祭りをひらき、「オオカミの国がやっぱり世界で一番だ」といって毎日飲み食いに明け暮れていました。羊の長老は「何かおかしい」と思いましたが、若者たちは、「オオカミの国はすばらしい。我々もオオカミの真似をしよう」と言いはじめました。

(オオカミ崇拝)
 ある村長が、オオカミに教えを請いました。オオカミは言いました。「村長は羊たちにやさしくしすぎるからいけないのです。村の羊たちをよく見て、御荷物になっている羊たちを村から追い出しなさい」。村長がその通りにすると、村は強くなりました。長老は「困ったものだ」と思いましたが、若者たちは「やはりオオカミの真似をする必要がある」と考えました。若者たちは、「仲間にやさしくするのはやめよう。これからは強くなって戦いに勝たなくてはならない」と考えはじめました。

 弱い羊を追い出すことが悪いことだと思う若者が減ってきたので、弱い羊を追い出す村長が増えました。そのうちに、強い羊ばかりを集めた村が隣の村を占領するようになりました。長老は、いくさの役に立たないお荷物だということで、村から追い出されてしまいました。

 羊たちは、懸命にいくさの訓練をはじめましたが、急に強くなれるはずはありません。ある村が、オオカミに大金を払って戦いに来てもらうと、その村が急に強くなったので、他の村も真似をしました。オオカミたちは、強い羊を訓練し、弱い羊を追い払い、がんばって強い村をつくりましたし、自らもがんばって戦いました。こうして、生き残った村はどこも強くなりましたが、羊たちは幸せではありませんでした。長老は「だから言ったことではない」と思いましたが、若者たちは「とにかく戦わなければ村が滅びてしまう」と考えて、いくさに明け暮れていました。

 ある日、長老は夢を見ました。それは、おそろしい夢でした。いくさに勝った羊たちは、オオカミの子分になって、かろうじて生き延びていましたが、いくさに敗れた羊たちは、オオカミたちのご馳走になっていました。
長老は、嘆きました。「皆が仲良く暮らす国は、住みやすいけれども弱い国だ。皆が戦いながら暮らす国は、住みにくいけれども強い国だ。住みにくい国だけが残って住みやすい国が滅びてしまうなんて、なんて悲しいことなんだろう」。
 
 そのとき、命からがら逃げてきた若者が長老に聞きました。「長老、私たちは何を間違えたのでしょう?オオカミの真似をして強くなろうとしたことでしょうか?オオカミを島に連れてきたことでしょうか?あるいは、その昔に仲良くしすぎてキバをみがかなかったことでしょうか?」

 「羊は羊らしく暮らすのが一番だ」と答えたところで長老は目をさましました。

(そして羊は)
 すると、驚いたことに、オオカミたちがいなくなっていました。羊の国は、すっかり貧しくなっていましたし、病気や怪我で働けない羊もたくさんいましたが、羊たちは昔のように、助け合って暮らしていました。

 もっとも、羊は羊らしく暮らすという大原則を守りつつ、オオカミのよいところは採り入れようという試みもなされていました。たとえば「よく働いた羊は他の羊よりもエサがたくさん食べられる」といった仕組みは、オオカミたちの文化から羊が学んだものです。これにより、羊たちが真面目に働くようになりましたから、「これならば、昔の豊かさを取り戻すことも夢ではない」と長老は思いました。

 オオカミたちがいなくなったのは、オオカミの国に呼び戻されたからです。というのは、オオカミの国では、お祭りで飲み食いしすぎたオオカミたちが太ってしまい、戦えなくなったので、羊の国に出稼ぎに行っていたオオカミたちに助けを求めたというわけです。国にもどったオオカミたちは、いつまでもいつまでも戦いつづけましたとさ。

 長老は、オオカミたちをみてつぶやきました。「奢るオオカミは久しからずということだ」。それから、昔のことを思い出して、付け加えました。「奢る羊もだ」。

おしまい。

(おとうさん、おかあさんたちへ)
 今回は、子供たちに「偏らないものの見方」を教えたいと思って筆をとってみました。しかし、大人たちにとっても、偏らない見方をするのは簡単なことではありません。たとえば日本的経営に対する評価は、バブル期とバブル後不況期で両極端に振れました。最近ようやくバランスのとれたものとなりつつあるような気がしていますが、いかがでしょうか?





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