こんにちは

 

セカンドオピニオン税理士の

宮崎貴美子です。

 

 

今回は、国税で働いていたときに感じていた不平等や不公平感を思い出させる判例を見つけたので紹介します。

 

 

法律にも国税庁HPなどの「手続き」欄にも「確定申告書に明細(別表)を記載して添付する必要がある」と明記してある書類の添付がなかった法人の調査を実施した場合

 

調査担当者Aさんは、添付資料がついていないから認められないと判断し

調査担当者Bさんは、添付資料の不備があるから提出するようにと指導する

 

 

Aさんが担当した法人は追徴税額が発生し

Bさんが担当した法人は追徴税額の発生はない

 

 

添付せずに確定申告書を提出したという認識はあっても、担当者によって取扱いが違うと

Aさんが担当した法人は不平等や不公平感を感じるのは当然だと思います。

そして、裁判した結果、法律に書いてあるでしょ、法律の要件を満たしていないから認められません、

と言われても、納税の痛みや不平等や不公平感を払拭することはできません。

 

 

調査を担当したことがある者として、どんな調査をしたんだろう

代表者や税理士とどんなやり取りをしたのかが気になります。

更正処分に至るまでに何か対策ができたのではないかと思います。

 

 

では、確定申告書に法律要件である明細書の添付がなかったことで、法人税法第50条第1項に定める交換により取得した資産の圧縮額の損金算入の規定の適用は認められないとした事例を紹介します(一審の名古屋地裁判決平23.2.10(税務訴訟資料 第261号-21(順号11611)控訴審の名古屋高裁平23.7.20(税務訴訟資料 第261-126(順号11716))。

 

 

調査担当者は、調査時に確定申告書に法人税法第50条第3項に規定する「交換特例明細書」の添付がないことを伝え、法人税法50条1項に定める交換により取得した資産の圧縮額の損金算入の規定の適用されないと更正処分をしました。

 

 

法令解釈として、

法人税法第50条第1項によれば、交換特例による課税の繰延べを受けるか否かは、当該法人の選択に委ねられているから、課税庁において、当該法人の申告に係る所得金額や法人税額が適正であるか否かを判断するためには、当該法人が交換特例の適用による課税の繰延べを受けることを選択したか否か、また、その圧縮の計算が適正に行われており、圧縮額が法令の定める範囲内であるか否かを確定申告時に確知できることが必要であり、同条第3項が、交換特例は確定申告書に交換特例明細の記載がある場合に限り適用するものとした趣旨は、このような必要性に基づくものと解される。

 

 

したがって、被告保管の申告書等により、原告が処分行政庁に提出した本件確定申告書には交換特例明細書が添付されていなかったと認めるのが相当である。そうすると本件確定申告書には交換特例明細の記載がなかったことになるから、本件においては、交換特例の適用に必要な要件が満たされていないものというべきである。

 

 

つまり、明細書の添付を失念していたイコール法律の要件が満たされていないので認めらなかった。

その結果、課税庁の処分は適正であると判断されたのです。

 

 

そんなことで?と思われるかもしれませんが、法律に「明細の記載がある場合に限り、適用する」と明記してあるので、法律のとおりに是正されただけのことなんです。

 

 

また、同法第4項で、その記載がなかったことについて「やむを得ない事情があると認めるときは、それを認める」としていますが、今回の事例ではそれに該当するものはないとされました。

 

 

一般的に「やむを得ない事情」としては

・天災または火災その他人的災害で自己の責任によらないものに基因する災害が発生した場合

・災害に準ずるような状況または、その事業者の責めに帰することができない状態にある場合

・税務署長がやむを得ないと認めた場合

とされています。

 

 

震災、風水害、雪害、凍害、落雷、雪崩、がけ崩れ、地滑り、火山の噴火等の天災などの事情であれば、言わずもがなのことでしょうが、それに該当しない場合は、提出したくともこれをすることができなかったと認められる客観的な事情があるかを検討することになりますが、

 

 

この事例の場合、明細書を添付することを失念していたことは、人為的な誤りにすぎず、「やむを得ない事情」には当たらないと判断されています。

 

 

そして、原告は、調査担当者が交換特例明細書は後日補完すれば足りる旨の見解をうかがわせる行動をとっていたことが信義則違反だと主張し、さらに処分行政庁は、原告に対し、適正手続上、形式的な不備の補正を促す義務があると主張していますが、どちらの主張も退けています。

 

 

信義則違反があるかどうかを判断するには

租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて信義則の法理の適用の是非を考えるべきものであり

 

 

課税庁が納税者に対して信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したものであるかどうかの考慮は不可欠のものであるといわなければならない(最高裁昭和62年10月30日第三小法廷判決・裁判集 民事152号93頁参照)。としています。

 

 

この解釈をもとに、裁判所は

課税庁において、別表の添付もれ、記載もれという形式的不備について更正処分までしないという運用が一般的であったとは認められないし、交換特例明細書がない旨の指摘を行った後に実態調査が行われて数か月が経過したことが本件更正処分等の信義則違反に直ちにつながるとはいえない、と原告の主張を退けています。

 

 

つまり、納税者が救済されるべきである、という主張をしても、納税者側が「正義に反するといえるような特別の事情が存する場合」、「公的見解を表示した」を証明することは極めて難しく、「信義則違反」の主張は、色々な裁判でも争点に上がっていますが、原告の主張が認められることは少ないです。

 

 

その後、名古屋高裁で税理士に対するアンケートの結果を示し

・確定申告書提出時に別表の添付もれ、記載もれ等の不備があっても、後日、書類の再提出等により補完されたことがある

・税務署勤務経験のある税理士によると、別表13については、決算書において圧縮損として「損金経理」されていることの要件等を満たしていれば、実務上、当該別表を後日提出させることにより適用を認めていた

等の理由から、平等原則違反であると主張しましたが、

 

 

本件確定申告書では勘定科目(土地)の明細に本件取得資産の取得価額を0円とする記載があるのみで、交換特例の適用を前提として法令が要求する損金経理もされていないから、上記回答の事例とも異なり、平等原則違反があるとの控訴人の主張は採用できないと判断しています。

 

 

人為的なミスで、法律の要件を満たしていないことは明らかだと認めても、一方で認められたと聞くと公平感や不信感が生まれます。

 

 

法律は知っている人の味方です。

調査は法律要件に合致しているかだけではなく、証拠資料を通して、調査担当者にどう説明するかも税理士としては大切な仕事だと思います。

 

 

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