君津の山の中にあるその家に、初めて入らせてもらった日。
正直、勝手に想像していた。
もっと土っぽくて、もっと何もない場所だと思っていた。
でも、扉をくぐった瞬間、少し拍子抜けした。
調理家電がある。
缶詰もある。
思っていたよりずっと「普通の生活」の気配が残っていた。
ただ、その空間はやっぱりどこか独特だった。
机の上には細かい部品や工具が散らばり、
竹で組んだはしごが天井まで伸びている。
薪が積まれ、生活の中心にはストーブがあった。
「とにかく座ってください」
入ってすぐ、そう言って場所を作ってくれた。
物が多い中で、少しずつどかして、座れるスペースを確保してくれる。
その動きが妙に丁寧で、
この人の性格がそのまま出ている気がした。
ストーブの煙突は、冷蔵庫を解体して板金して作ったものらしい。
「一回、火事になったんですよ」
さらっと言う。
煙突を付ける前、火が回ってしまったらしい。
でも、その話し方はどこか他人事みたいだった。
火を起こすところも見せてもらった。
驚いた。
火の中に、素手のまま手を入れて薪を足していく。
まるで火を怖がっていない。
私は思わず一歩引いたけど、
本人は何でもない顔をしていた。
この人にとって火は、
危険なものじゃなくて、ただの道具なんだと思った。
竹のはしごを登ると、屋根裏に続いていた。
そこにはダンボールと、たくさんのペットボトル。
中身は全部、空だった。
「これ、色々使えるんですよ」
徒歩で一時間くらいかかる雑貨屋の前に、
「ご自由にお持ちください」と置いてあるものを
少しずつ運んでくるらしい。
水を入れる容器にしたり、
自分で漏斗を作ったり、
溶かして固めて、スコップの柄の補強に使ったりもするという。
捨てられるはずだった物が、
ここではちゃんと役目を持っていた。
部屋の中には文明と原始が混ざっていた。
電気もある。
家電もある。
缶詰もある。
でも、生活の中心は火と木と水だった。
想像していた「何もない暮らし」とは違った。
むしろ、
必要なものだけを選び取って残したような場所だった。