にゃーと1つ鳴いた猫。そのすぐ後ろに、今度はギブンが現れて、猫に向かって短刀を振りかざした。
振り下ろされた刃が猫に触れるか触れないかのところで止まる。
ギブンは両手を使って、刃を下ろそうとするも見えない何かに遮られ、刃を下ろせない。
「……いい加減、諦めろ。」
ギブンがつぶやくように言うと、そちらを振り返った猫は、鋭い目付きでギブンを見る。
「……あなたにもわかるでしょう?
私のこの憎しみと悲しみが……
だから、あなたは私を狩って望むものになりたい。」
「……そうだ。
だから、早くその命を渡せ……」
「……できない相談だわ……」
そういうと、猫はパッと消えた。
「……母さん……」
ジミンのタブレットは抑揚なくつぶやく。
「……ハア」
ギブンはその場に腰を下ろした。
「……あれが、ジミンの母猫?…………?
ルナ……?」
カナはぽつりと呟いた。
「カナ?
何か思い出したの?」
ミンジェが尋ねる。
「……あの猫の名前はルナ。キアラの母猫。
初めて会った時は……確か……瀕死状態だった……」
公園に住み着いていた野良猫。
ある年、ルナは5匹の子猫を産んだ。
けれど、心無い人間に虐待され5匹を失った。
ルナは絶望と共に、人間への憎しみを募らせた。
またある年、ルナはまた子供を授かった。
ルナは何としても、我が子を守る。
そう決めていた。
そんな時、出会ったのがカナだった。
怪我をしながら、公園の片隅にいたルナを見つけたカナ。
ルナと言う名前は、その日綺麗な満月だったことから、あとからカナがつけた名前。
「……あなた、飼い猫にならない?」
カナの申し出に、怪我を負いながらも毛を逆撫で身体をくねらせたルナ。
「わかったよ。
……人間が嫌いなんだね……
でも、明日も何か持ってくるから、ちゃんとここにいるんだよ?」
シャーと威嚇の音を出すルナ。
それでもカナはニコッと笑って、小ぶりのダンボールとそこに薄汚れた布切れを置いて、どこかへ行ってしまった。
その翌日も、その次の日も、カナはルナの様子を見に来ては、食べ物を置いていった。
ルナは何度カナから食べ物を受け取っても、威嚇の声と毛を逆撫でるのは辞めなかった。
無論、撫でさせるなんてことは1度もさせなかった。