「……っ!

ジミンっ!」


リビングに現れたミンジェとジミン。


「ただいま」

カナやユンギの心配を他所に、ジミンは笑って見せる。


「大丈夫?

何もされてない?怪我は?……痛いところはない?」

思いつく言葉を片っ端から並べるカナ。


「大丈夫だよ」

機械音がそう答えると、やっとカナは安心したように笑みを浮かべた。


「死神にさらわれるなんて、生きた心地がしなかった。」

カナはそう言う。


「……大丈夫か?」

今度はユンギがジミンに声をかける。


「……何もされてないよ。ほらっ」

ユンギにそう答えて、ジミンは両手を広げて見せた。


ギュルルル……


っと、ジミンの腹の虫が鳴った。


「食事を用意するから、少し待ってて?」

そう言って、カナとユンギは2人でキッチンにたった。


テーブルを囲む、ジミンとミンジェ。


「大丈夫なの?

……あいつとの取引のこと。……」

ミンジェは小声でジミンに尋ねる。


「もう決めたって言わなかった?

決心に迷いはないよ。」

タブレット画面を見せるジミン。音声は出さなかった。


「……母猫のことはどこまで聞いたの?」

「多分、全部。」

タブレットの音声を出さずに言葉を交わす二人。


その奇妙な光景にキッチンから眺めていたカナは不安を抱えていた。


自分のせいでジミンが危ないことをするのではないか。

そんなことばかりが頭を過る。


小鍋に水を張りながら、テーブルで会話する二人を眺めるカナ。

鍋から水があふれていることも忘れて、二人の口元に視線を向け続けた。


そっと、水栓を閉じたユンギ。


「…あ、ごめんなさい。」

カナはユンギに謝った。


「……心配?」

ユンギは鍋を火にかけるカナに尋ねた。


「……あのギブンっていう死神。

どうも、気味が悪くて……ジミンもあんなに怖がっていたのに……」 

ふつふつと煮立ち始めた鍋に切った材料を放り込む。


「……本人が大丈夫だって言っていたんだ。

きっと想像しているような、危ないことではないのかも。」

ユンギがそう答えると、カナは眉間に深いシワを寄せて見せた。


「……相手は死神ですよ?

死の神。

そんな相手が、優しいとかそんなはずないと思いますよ?取引だって、人の命が関わることを餌にジミンを引き入れた。」


「あぁ、……そうだな。」

カナの剣幕に、ユンギは後ずさる。


「そもそも、どうして私のことにジミンが取引しなくちゃいけないんですか???」

カナは苛立ちを隠せず、声に棘を帯び始めた。


「……いっその事」


「それはダメだっ!」「それはダメ!」

ユンギとミンジェはカナの言おうとしたことを遮るように声を上げた。


「でもっ!」

カナは2人の顔を交互に見ては、何かを懇願するような目をしてみせる。


「……カナさん。

大丈夫。

僕は僕のまま、どうもこうも変わりはしないから。

もちろん、危ないことも怖いこともしないよ。」

ジミンは優しく笑顔を見せながら、そうタブレットにペンを走らせ、言葉を発した。