救急車が搬送したのは、ユンギの元職場だった。

ERの面々もユンギとカナのことは知っていた。

そんな中に搬送されたカナ。


慌ただしくカナを取り囲む医師と看護師たち。

ユンギを知るひとりが、ユンギに向かって口を開く。


「2人で何してた?

何を食べた?

同じものを食べたのか?


お前はなんともないか?」


「俺はなんともない。

食べすぎたくらいに、お昼を食べたけど……


下腹部が痛いって。」


「虫垂炎かもな……」


検査やら何やら凄まじい勢いで、処置をされていくカナ。

かつて、自分もそこにいたのかもしれないと思うユンギだったが、どこか現実味のない風景に、次第にモニターを通して見ているような感覚に襲われる。


……気づくと、廊下の長椅子に腰掛けて、天井を眺めていた。


風が通る感覚に視線を向ける。


「カナは?」

そこには相変わらず、季節感のないコートに身を包んだミンジェがいた。


「もう大丈夫なのか?」


「言ったでしょ?……寝て起きれば元に戻るって……それより、カナは?」


「……死神も万能じゃないんだな?」


「……っ」

ボーッとしているユンギの頭を思いっきり叩くミンジェ。


「なっ!……何?!」


「何をボーッとしてるのさ!

カナは?!」


「……緊急手術。

虫垂炎だ。」


「……命に別状はないわけね。」


「……」


「何さ、……落ち込んでるわけ?

こんなところで、待つことしか出来ないから?

それとも?……あの子の死相の濃さに挫けそうだから?」


「どっちも。」


「…………1番、辛いのは?」


「彼女自身だろうな……」


「わかってるなら、落ち込むのは、今だけにして。

…………まだ、あの子に死なれちゃ困るのよ。」

ミンジェはユンギの隣に腰を下ろしながら、呟くように話した。


「……いつになったら終わる?

付きっきりでいる訳にも行かない。」


「……あんた達が見れない時は、私がなんとかするから。


……どこで終わるか、終わらないかもしれない……

どうなるかは、死神にも分からない。」


「……はあ」

ユンギは大きくため息をついて、また無機質な天井を眺めた。