カナは泣き続ける店長の手を取った。


「……ありがとうございます。

そんなに大切に思われていたなんて、

……思い出せないのが、悔しいくらい」


「……なぁ?あんた。」

男性はユンギに声をかけた。


「カナの記憶は戻らないのか?

こう、なにか、治療とか、……」


「……出来ることがあれば、

もうやっています。」

ユンギはそう答えた。


「………大丈夫ですよ。

きっと、いつか思い出す。

思い出さなきゃいけない理由が出来ました。


店長を泣かせたままになんて出来ません。」

そう言って、カナは笑って見せた。


「思い出したら、真っ先にまたここにごちそうになりに来ますから。」


「……次はちゃんと、払ってもらうよ?」

嗚咽を交えながらも、店長はそうカナに告げる。


「はい。」

カナはしっかりと頷いて答えた。


長井してしまったと、二人に別れを告げて、店を後にしようとした時だった。


「ん……」


「ん?」


「少し、食べ過ぎたのかもしれません……」

腹部に鈍い痛みが起こり、身体を竦めたカナ。

次第に気持ち悪さも襲ってくる。


「大丈夫?」

店長と男性が心配そうに近寄ってくると、カナはその場で吐き戻してしまった。

そして、冷や汗をにじませながら、お腹を抱えて苦しみ出す。


「カナ?!」

倒れこむカナの様子からただ事ではないと悟ったユンギは、他の2人に救急車を呼ぶように促した。


……こんな時にも、『死相』は容赦なく、カナに襲い掛かる。