「また、お前か……」
ミンジェがたどりついた場所は、どこかの建物の屋上。
ミンジェと同じように季節感のない黒いロングコート、黒いサングラス、タバコを咥えたガラの悪い男はつぶやく。
「……あの人間たちに執着しすぎじゃないか?」
「……」
視線がミンジェをとらえているのか、それすらもわからない。
ただ1点を見つめながら、ミンジェに問う。
「……とっとと、死なせて喰らいつけば、望みが叶うのと違うのか?」
「やることがあるの。
……あんたと違って。
だから、さっさとペナルティを課してくれない?」
「……フッ」
男はイヤな感じに口角をあげて見せた。
この男もミンジェと同じ死神の類だった。
「10の幼子の心臓、それから、目玉をもってこい。
それからいつものだ。
今回は、今までよりもきついぞ。耐えられるか?」
「……さあね。」
「まぁいい。
さっさと始めろ。」
そう言うと男は雲のように消えた。
ミンジェは、顔を歪めつつも、そこから下界を見渡した。
『10の幼子の心臓と目玉』を集めてこなくてはいけない。
死神のペナルティ。
それは苦痛を与えられること。
なんの予定もしない『死』を人間に与え、指定されたものを収集する。
意図せず奪われた命は、突然の出来事に呪怨を抱く……
ミンジェにとって、最愛の娘と同じころの幼子の『死』。
今までもペナルティが課せられる度、与えられるのは幼子の『死』の収集だった。
……自然と、ミンジェは悪魔になるしか無かった。
自らが転生するため、その為だけに。
その度に、自らの中にどす黒い悪魔の血が湧き上がるような、気持ち悪さを感じた。
もしも、転生できたとして、キアラのように転生前の記憶が残っていたとしたら……
娘や夫を探すには容易いだろう。
けれど、このペナルティの記憶すらも持っていくのかと思うと、娘にどんな顔を向けるのか……
優しい母でいたいと
明るい母でいたいと
そうは願うも……
だからこそのペナルティ。
「……全く、
よくできた仕組みだこと……」
いつも、心には葛藤が付きまとっていた。