「……家族と。」
ミンジェは話し出す。
季節に合わない黒いコート。色白い肌。
いかにも異世界の住人と言わんばかりのミンジェの風貌。
『おはよう』
『おやすみ』
『行ってらっしゃい』『行ってきます』
『ただいま』『おかえり』
『頂きます』『ご馳走様』
『ありがとう』『ごめんね』
人間にとって、ごく当たり前で普通に存在していたはずの日常。
その日常が、突然消えてしまう時もある。
災害だった。
大きな揺れと共に、その日常は崩れて行った。
幼かった娘。
その子を守らなくては、それしか考えていなかったミンジェ。
倒壊した家屋の中、聞こえて来る娘の鳴き声だけをひたすら探した。
手の届くところなのか、もっと違うところなのか、自分はどうなっていたのか、それすらも、痛みも忘れていた。
……その時、既にミンジェの魂と身体は離れていたから。
意志だけが、強く娘を救いたいと願った意志だけが彷徨っている形だった。
幼い娘は、力いっぱい泣いていた。
わが身に変えても、この子を救いたい。
そう思ったミンジェ。
その強い意志は、離れていた身体を動かし、幼い娘を庇う様に覆った。
娘が救助されたとき、覆いかぶさるようになっていたミンジェの身体。
それが伝ってきたであろう跡。
救助隊は奇跡を見たと感じていた。
娘を救ったミンジェは、死神となり、それから人間の魂を喰らい続けた。
助けた娘とまたもう一度一緒に暮らせる日を夢見て。
そして、あと一つ喰らえば転生できるところまできた。
それが、目の前にいる3人のうちの誰かの魂。
元猫は論外。人間の魂でなければ、人間には戻れない。
と、なるとユンギかカナの魂。
「ミンジェさん?」
「……何?」
「転生しても、記憶って残っているものなの?」
カナは尋ねた。
ここにいる3人と死神はお互いがどういう存在であるのかを知っている。
で、なければこんな質問は到底おかしな話に聞こえているだろう。
「それは、転生してみないとわからない。」
「僕は、記憶を持っていたよ。」
ジミンはいう。
「キアラだった自分の記憶があったから、カナさんを探し出せた。
ミンジェさんが死神だってことも知ってた。
先生が、カナさんのどういう存在かも知ってた。」
カナはまたミンジェに話しかける。
「……もしも、記憶を失っていたら、……どうなるの?
娘さんには会えないの?」
「……わからない。」
「……だったら、印を付けておこう?」
「印?」
「そう、もしも転生したミンジェさんが、私たちのことも、娘さんの事も忘れてしまっていた時のために、その人がミンジェさんだったことがわかるような印」
突拍子もない提案だとミンジェは思ったけれど、それでもそれを否定することはしなかった。
「どうやって?」
ユンギは問う。
「んーーーー」
カナは考えた。
考えたけれども、いい答えが浮かんで来ない。
「……ジミン。そのネックレス……それが何かわかるか?」
ユンギはジミンの首元を指差して尋ねた。
「これ?これは……?
なんだったっけな……?」
ジミンは首元のネックレスを触っては考えを巡らせたけれども、答えが出てこない。
「カナ?……それが何かわかる?」
ユンギは今度はカナに問う。