「お邪魔しまーす!」「……お邪魔します。」
嬉しそうに声を張り上げて訪れるジミン。
反対に少し遠慮しがちに訪れるカナ。
「おかえり」
ユンギはカナだけを見て、そう言った。
「……よろしくお願いします。」
カナはそんなユンギに身体を折って見せた。
「入って。
部屋に案内するよ。」
そう催促されて、2人は中に入った。
「うわー、ひろーい」
ジミンのタブレットが放つ、機械的な音。
「お、来た」
ミンジェは2人を見て言う。
まるで自分の家だと言わんばかりに。
「この部屋を使って。」
カナはあてがわれた部屋を確認する。
テーブルとベッドが置かれたシンプルな部屋だった。
「殺風景だろうから、好きなようにしてもらっていいよ。必要なものがあれば用意するし……」
ユンギはどこかぎこちなく、カナに伝える。
「……あの」
カナはユンギに向き直って声をかけた。
「記憶を取り戻せるような、何か私たちの思い出のような、そんな何かはありませんか?
写真でもなんでも……」
ユンギは答えに迷った。
形になるようなものは残していない。
「……ごめん。
何も無いんだ……」
「そう……ですか……」
「あ」
「……?」
「ちょっと待ってて。」
そういうと、ユンギはどこかへ行ってしまう。
後に着いてきていたジミンはタブレットにペンを走らせた。
「……大丈夫?」
「大丈夫」
そう言って笑うカナ。タブレットは続けた。
「先生とカナさんは、……その、人目に付かないようにしていたから……」
繕うように言葉を選ぶジミン。
「……知ってる。
わかっているから、大丈夫。でも、1つくらいはあるかなと思っただけ……」
過去のことを予め聞かされてはいたカナ。ユンギとのことも事故のことも。
そこへ、少し息を切らせたユンギが戻って来る。
手には、なにかのマスコットのようなものが握られていた。
「……これがあった」
「なにこれ?」
ジミンが尋ねた。
「魔除のお守り……
カナが……
作ってくれたやつ。」
「……」
それはお世辞にも可愛いとか、そう言った感じには見えない。子供が遊びで作ったような小さな人形だった。
「……これを、私が?」
「高熱で倒れて、寝込んでた時に……
作ってくれた。
悪いものが逃げて行くだろうからって。
不器用だから、上手く出来なかったって笑ってたけど。」
「……」
「早く記憶が戻るように。
君に返すよ。」
「……」
人形を受け取ったカナは、かつて自分が作ったというそれをまじまじと眺めた。
クスッと笑って、それからそれをテーブルの上に置いた。
「……それから。
こっちがジミンの部屋」
「おおー」
ジミンは自分にあてがわれた部屋を見て嬉しそうに笑った。中に入るなり、すぐさまベッドに横たわる。
「それから、ここがトイレ。
隣がバスルーム。」
一通り、ユンギの案内で部屋中を回ったカナとジミン。
リビングに集まると、ミンジェは楽しそうに3人にお茶を振舞った。
「……なんだか、楽しそうですね。」
ジミンがミンジェに言う。
「楽しいよ。
……なんか、こう……ワクワクする」
ミンジェはそう言って、お茶をすすり、出したお菓子を頬張った。