「帰る家がない?」
ジミンから、相談したいことがあると声をかけられたユンギ。
カナの病室の前、廊下の椅子に二人は腰かけて、話していた。
「カナさんのアパート、だいぶ前に老朽化が進んでいるとかで取り壊すことになって、
長期不在になってたカナさんの同意なしに、もう建物壊しちゃったんだよ。
幸い、必要そうなものは自分が受け取っていたからいいけど。
退院してもアパートはもうないし、僕の家はシェアハウスだから。
あんな男ばっかりなところに連れて帰るわけにも行かないし……」
ジミンに向けられたタブレット。音声と文字を見聞きしてユンギは考え込んでいた。
「……家に来ればいい」
ユンギはそうジミンに告げた。
するとあからさまにジミンは嫌な顔をして見せた。
「なんだよ?」
「……言って置くけど、あなたのことカナさん覚えてなくて、結構警戒してるんだよ?
最近はあんまりカナさんのところに顔も出してないでしょ?」
ジミンが言うように、ユンギばあの時もドアノブに手をかけたものの、開けることなく去って行った。
それからというもの、カナのところには退院日が決まったと知らせに着たきりだった。
「……なんで顔見せないの?」
「…………」
「もしかして……
覚えてないこと、気にしてるとか?
……罪悪感とか?」
「……どんな顔して会えばいいのか……分からないんだ。」
ユンギは素直に気持ちを打ち明けた。
そして、両手を強く握った。
その様子を見たジミンはタブレットにペンを走らせる。
「……変わらず、声を掛ければいいんじゃない?
着飾ろうとか、懺悔しようとか、そんなこと考えずにさ。
……今から始めればいいんじゃない?」
「……?」
「ほら!行くよ!
カナさんに家の事、相談しないと!
退院、明後日だよ!」
そう言うと、ジミンはユンギの背中を叩いて立ち上がらせると、病室に押し込むように入っていった。