ここにはないもの@いい夫婦の日 | スイーツな日々(ホアキン)

スイーツな日々(ホアキン)

大好きなスイーツと甘い考えに彩られた日々をつづっていきたいと思います。

今日はいい夫婦の日。

 

恒例の妄想です。

 

お時間があったらどうぞ。

 

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「明日香は確かに可愛い。

 

正直者で性格も素直だと思う。

 

でも、何というか、真面目過ぎて、面白味がないんだよ」

 

彼氏(そういう存在だと思っていた)の泰が屋上で

 

後輩に話しているのを、偶然、聴いてしまった。

 

さらに、私を突き落とす言葉を後輩の男性が口にした。

 

「だからって、充希に手を出すのは、男としてどうなんすか?」

 

「それを言われると面目ない。明日香にも言わなくちゃな」

 

珍しく、気付いたら、身体が先に動いていた。

 

「もう、聞いたから、言わなくても結構です」

 

「明日香・・・いや、その」

 

この職場にはいられない。

 

悔しいし、みじめすぎる。

 

でも、「真面目すぎる」私は、終業時間まで勤務し、

 

翌日から休んだ。

 

有休はたっぷりあるので、消化した後、退職すると

 

郵送で、上司と人事部に伝えた。

 

上司は何度も電話をかけてきて、翻意を促したが、理由は言わず、断った。

 

同期の女子が伝えてきたところによると、例の後輩男子が

 

べらべらと上司や人事に話したとか。

 

「泰に恨まれるだろうな」

 

後輩が?いいえ、当てつけに辞めた私が。

 

ま、いいわ。

 

結婚資金に貯めてあった貯金を使って、国内を旅行することにした。

 

母には理由もはっきりと告げた。

 

困惑してしいたが、結局「好きにしてみたら」と言ってくれた。

 

母から事情を聞いた父は、泰の家に押かけそうな勢いだったので

 

なだめるのが大変だった。

 

あちらこちら旅行した後、南九州に行った。

 

川面を見ながら

 

美空ひばりの「川の流れのように」を口ずさんでいると

 

「若いのに、ひばりさんとは珍しい」と50~60歳くらいの男性が声をかけてきた。

 

「若くても、いろいろあるんです」

 

「そうだよな~。僕もそうだった。♪細く長いこの道、の話を

 

飲みながらしてみない?」

 

お、この年で娘のような女性をナンパか~。

 

面白そう。

 

「真面目な」明日香は、ちょっと返上してみよう。

 

後を付いていくと、普通の住宅だった。

 

「あら、お父さん、お帰りなさい。こちらのお嬢さんは?」

 

奥さんらしい女性が笑顔で玄関先で迎えてくれた。

 

「ひばりさんの生まれ変わりさ」

 

「〇〇明日香と申します」

 

「お父さんに無理強いされたのね、まあ、あがってらっしゃい」

 

「慶一は?」

 

「もうすぐ、学校から帰ってくると思うわ」

 

「息子なんだよ。とにかく、くつろいでくれ」

 

「では遠慮なく失礼します」

 

奥さんが台所で料理の仕度をしている。

 

「何か、お手伝いすることありますか」

 

「あら、お客さんなのに、悪いわね。じゃ、この食器を運んで」

 

「はい」

 

それから、細々とした手伝いをした。

 

「ただいま~」

 

「明日香さん、ちょっと出迎えてあげてくれる?」

 

「はい・・・お帰りなさい」

 

「やあ、・・・って、あなたはどなたですか」

 

「旅の者です」

 

「は?また、親父の道楽だな。付き合わされてお気の毒ですね」

 

「いいえ、楽しんでいます」

 

実際、とても楽しい夕食だった。

 

旅行しても一向に融けない私の中の氷が、さらさらと水になっていくのが分かる。

 

自分の家族に対しても気遣ってしまうのに、その必要がないからだろうか。

 

そして、私は、問われもしないのに、屋上での出来事を話していた。

 

シーンとするかと思ったら、

 

息子さん、慶一さんが言った。

 

「明日香さんは真面目なんかじゃないでしょ」

 

「え?」

 

「だって、盗み聞きしたんでしょう?」

 

「そこですか!」

 

思わず、笑ってしまった。

 

包容力を感じる笑顔に私は惹かれていた。

 

先に休むというご両親が寝室に引き上げてから、

 

真夜中を過ぎても、2人で話した。

 

私に声をかけてきたお父さんは、

 

呼吸器系が弱く、都会では長く生きられないと信じ込んでいた女性、

 

つまり、今の奥さんの生きる気力を支えるため

 

地縁もない、この場所に越してきたのだという。

 

「だから、死にそうな感じの人がいるとほっとけなくなるんだ」

 

すっかり、くだけた口調になった慶一さんが解説してくれた。

 

「私、死ぬつもりは・・・」

 

「分っているよ。でも、生きる気力が、ちょっと萎えていただろう?」

 

「そうかもしれない」

 

「しばらく、このうちにいるといいよ」

 

「でも、そんなご迷惑をかけては申し訳ないです」

 

「気にしなくていいから。

 

そうだ、いいことを思いついた。

 

僕の勤める小学校でヘルプしてくれない?」

 

「教員免許は持ってます。英語だけど。」

 

「え?ほんと?英語でもOK!

ボランティアなら、校長も文句言わないだろう。

 

難しい児童がいるんだ。助かるよ」

 

翌日、私は、彼に連れられて学校の校長室に行った。

 

「保護者がヘルプに入ることもあるんですから、

 

いいですよね」

 

「う~ん、本当に無報酬でいいんですか」

 

「はい、お役に立てるなら」

 

実際に教室に行ってみると

 

難しい子、というのは、自分で怒りを制御できないようだった。

 

実は、私の弟もそうだった。

 

対処の仕方は心得ている。

 

授業中に大声を張り上げる子だったが

 

これまでにない受け止め方に、児童の話し方も変わってくる。

 

というより、その日の午後には、授業中、大声を出さなくなっていった。

 

「明日香先生、明日も来る?」

 

「いいわよ~。慶一先生の家に泊まっているから」

 

「え?カノジョなの?」

 

「あ、違う、違う」

 

「おーい、みんな、明日香先生は慶一先生のカノジョらしいぞ」

 

「違うってば」

 

どうしてだろう、心から否定できない。

 

慶一さんが近寄ってきた。

 

「先生も明日香先生にお願いしているんだけど、うん、って言ってくれないんだ」

 

「どうして、そんな意地悪を言うんですか」

 

「ひゃ~、アツイ」「ひゅ~、ひゅ~」

 

子どもたちにはやし立てられて悪い気はしなかった。

 

 

その家には、1カ月、お世話になった。

 

同じ町の別の中学校で突然、退職する英語教員が出たため、

 

私に、臨時職員の話が回ってきたのだ。

 

実家に連絡を取ったり、

 

教員免許状を送ってもらったり、

 

忙しかった。

 

母も、挨拶に来て

 

世話になった礼をしていった。

 

「こっちで暮らすのね」

 

寂しそうな母に、私は

 

「わがまま言ってごめんね」

 

「いいのよ。

 

お父さんは、嫁に出したと考えることにする、だって」

 

「うん」、泣きそうになる。

 

「明日香、あの慶一さんとは?」

 

母の期待感が表情に出る。

 

「何、考えてるの?

 

旅に出た理由も知ってるのよ。

 

私はそんな対象にはならないわ」

 

中学校での勤務に合わせて

 

私は慶一さんの家を出て、勤務先近くの部屋を借りることにした。

 

少ない荷物を慶一さんが車で運んでくれた。

 

「明日香さん、今度は、家の外で会えるね。

 

いや、会ってくれますか」

 

「もちろんよ、友達でしょ」

 

「じゃなくって、ちゃんと付き合いたいんだ」

 

「え?でも私・・・」

 

「屋上の話なら関係ないよ、盗み聞きは不問に付してあげる」

 

「もう・・嬉しいわ。でも、お父様やお母様が」

 

「気にする2人じゃないよ。大事なのは明日香さんの気持ちだ」

 

「それじゃあ、はい、よろしくお願いします」

 

 

 

 

「なるほど、そういう縁で。

 

だから、ママは、東京生まれなのに、ここで住んでいるのね」

 

「あのまま、実家にいても、悪くはなかったと思うわ。

 

それなりに幸せな暮らしが待っていたと思う。

 

でもね、離れて良かった。

 

あなたのように可愛い娘にも恵まれたし」

 

「ただいま~」

 

「ほら、都会の美女を射止めた先生のお帰りよ、ママ」

 

「慶一さん、お帰りなさい」

 

 

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明日香は、乃木坂46を卒業する齋藤飛鳥さん、慶一は、最新シングル「ここにはないもの」のMVの監督をした小林啓一さんから拝借しました。

あ、泰は、作詞家の秋元康さん、充希、は山下美月さんね。

 

「ここにはないもの」のMVはこちら ⇒