ジュリーを襲った黒いウワサの真相

 

 ファニーズはザ・タイガースと名をかえて42年1月、日劇ウエスタン・カーニバルでデビュー、2月『僕のマリー』を発売。

 その後のすさまじい人気は、既にファンが周知の通りだ。ことにジュリーの神秘的な瞳は女性ファンを恍惚とさせ、 " 君だけに " と黄金の指にハートを射とめられた女性は失神しかねないほどに興奮する。

 吉永小百合をはじめ、小川知子、和泉雅子、中村晃子、ジュディ・オング、伊東ゆかり、中尾ミエ、園まりなど、芸能スターのごひいきも数限りないが、ここは映画『世界は僕らを待っている』でジュリーの恋人になった久美かおりに体験談を聞いてみたい。

 「私も恋するなら、ジュリーみたいな男性としたいわ。ジュリーは暗い、影があって冷たいと思ってる人もいるれしいけどほんとは心のあたたかい、すごく優しい人。ふだんはクールなイメージだけど、仕事になると猛烈にエネルギッシュ。男性の象徴といってもいいわ。一緒に仕事した1ヵ月があんまり楽しかったから、最後のダビングがすんだときはとってもさびしかった・・・・。お仕事は別にして、いつまでも仲よくおつき合いしたいの」

 ジュリーと生活をともにする中井マネージャーは、その強烈な魅力をこう分析する。

「彼くらいユニークな雰囲気を持ったタレントは、かつて日本の芸能界になかったのではないか。女性が嫉妬をおぼえるほどの美しい眼、都会的な憂愁、うちに秘めたバイタリティ。甘いが植物的な清潔感があって、母性本能を刺激される女性も多い。これだけ陰影のある魅力を持つスターは、2度と現れないかも知れない」

 だが、そのジュリーをいま一番悩ませているのは、例のサイン拒否問題をめぐる噂だ。今年にはいってから、一部のジュリー・ファンのあいだに、こんなショックな声があがった。

「私のお友だちがジュリーにサインを頼んだら、よくもそんな顔でサインをもらえるもんだ、と屈辱されたというの。いくら人気がすごいからってアンマリだわ」(16歳、高校生)

 この投書を深夜放送のディスク・ジョッキーが、「まさかとは思うが・・・」とこことわりながらもしゃべったから大変。たちまち問い合わせと抗議が殺到して、放送局の電話はマヒ状態に陥った。

 もっと極端な " 告発 " もある。「喫茶店でジュリーにサインをお願いしようとしたら、家へ帰って鏡を見てモノをいえ、とせせら笑われました。今まで信じてきたジュリーを、いっそ殺してやりたいぐらいです ! 」

 むろん、ジュリーは真向から否定する。どんなに疲労していようと、プロである自分がいえる言葉ではない。それに現在のタイガースはジャズ喫茶やテレビ局、その他いかなる場所でもファンに直接サインするケースはあり得ない状態だ。すでにジュリーがファンから隔離されたアイドルであるのは悲しいが、それが現実なのだ。

「この中傷は、ジュリーのライバルスターのファンが仕組んだのではないか ? 」

「ジュリーに接近できなくなった腹いせで、憎さ百倍になったファンのデマにちがいない」

 というジュリー保護論も多いが、一方には反対論もある。

「ジュリーはもともと直情的な性格だから、疲労が激しいときは思わず怒鳴ってしまう。悪意じゃないにしても、ソバへ寄るな ! くらいのことはいう人ね」

 男らしく言いわけはしないが身におぼえがないデマをとばされるのは悲しい。とジュリーは顔を曇らせる。もし黒い噂が事実とすれば、ジュリーの自殺行為になりかねない。

 新宿のジャズ喫茶 " ACB "のママは、笑って否定する。「そんな噂をまき散らすのは、一部のファンの異常心理じゃないかしら ? ジュリーの人気は落ちるどころか天井知らずね。ウチではタイガースが出る前日だけ四谷警察に警備依頼書を出してるくらいよ。ジュリーだって、ひと頃より人間にまるみが出て来たし、楽屋でもいちばんみんなを笑わせてるわ」

 完全な人間はあり得ない。ときには欠点や失敗が、より人間的な魅力を感じさせることさえある。たとえジュリーが " 現代の英雄 " と呼ばれようとも、彼は多感な19歳の青春を生きているひとりの若者なのだ。