玄関を開けると、リビングの灯りだけが点いていた。
実弥はソファに座り、腕を組んでこちらを見ている。
その表情は、いつもの疲れた顔ではなかった。
鋭く、どこか探るような目。
「……ただいま」
あなたが声をかけても、返ってきたのは短い低い声だった。
「おかえり」
その一言で胸がざわつく。
実弥は立ち上がり、ゆっくり歩み寄ってくる。
「……お前、やっぱり富岡と……なんかあったのか」
いきなり核心を突くその声は、静かだが奥に燃えるものがある。
「またその話? そんなわけないでしょ!」
思わず強く返した。
めずらしく、自分でも驚くほどの声だった。
実弥の目がさらに細くなる。
「上司なんだから、一緒にいることが多いだけよ」
「……本当にそれだけか?」
彼はもう目を逸らさない。
その視線の奥に、寂しさと苛立ちが混じっている。
そして――ふと実弥の眉がわずかに揺れた。
あなたの頬に残るわずかな赤み、潤んだ目元、髪の香り。
見慣れたはずの妻なのに、知らない女の色気が立ちのぼっている。
実弥の喉が、ごくりと鳴る。
「……なんだよ、その顔」
低く掠れた声。
怒りのはずが、視線が熱を帯びる。
次の瞬間、彼の手が伸びて、あなたの手首をぐっとつかんでいた。
「なら、証明しろ……お前は俺の女だろ」
その声は低く、必死で、かすかに震えている。
引き寄せられた身体が、実弥の胸にぶつかる。
唇が触れる――奪うようで、でもすがるような熱い口づけ。
香りに、触感に、実弥はますます深く沈んでいく。
「……離さねぇ」
息の合間に零れる囁きは、もう怒りじゃなかった。
抱きしめられた腕は強く、頬や髪、首筋に指先が迷いなく触れる。
まるで「他の誰にも渡したくない」と刻み込むように。
荒い呼吸が部屋にこもり、あなたの身体の輪郭を確かめるように、
実弥の掌が滑っていく。
「……お前の心も身体も、全部俺だけのもんだ」
その声は低く掠れ、熱と必死さが混ざっている。
あなたは答えられず、ただ抱かれていた。
その胸の奥から、実弥の震える鼓動が痛いほど伝わってくる。