モロッコ滞在期間延長策 | 旅人日記

モロッコ滞在期間延長策

Rabat1 西アフリカ行きを決めたのはいいけれど、そうするとモロッコでの残りの滞在可能日数がやや足りないことに気がついた。
日本人はモロッコではビザなしで90日間滞在できるのだが、俺に残されているのはあと2週間足らず。
西アフリカ最初の国のモーリタニアに辿り着くまで、2週間で足りるかどうか、かなり微妙なところ。
急げばなんとかなりそうな気もするのだが、気持ちに余裕がなくなるのが嫌だったので、滞在期間延長のための対策を取ることにした。

普通、その国で認められた滞在期間やビザなどを延長するためには、出入国管理事務所や警察などで正式な手続きを経なければならないものなのだが、ビザが要らない国ではたいていの場合、一度国境を越えて再入国するだけで、また最初と同じ分の滞在を許可されることが多い。
モロッコでも首都のラバトで延長手続きを取ることができるのだが、調べてみると時間がやたらとかかるらしいので、今回は一度出国して再入国する形で済ますことにした。

幸いモロッコにはスペインが帝国主義時代に分捕ったまま返還していない港町が二つか存在している。
スペイン領のセウタとメリリャである。
現在地のマラケシュからはどちらも結構な距離があるのだが、比較的近くて行きやすそうなセウタを目指すことに。

マラケシュからまずは列車でラバトに移動。
モロッコの鉄道は快適な乗り心地の上に、時間も正確であることから、旅行者からの評判がすごくいい。
俺も機会があったら一度は乗ってみたかったのだ。

列車ではワルザザート→マラケシュのバスでも一緒だったコズエちゃんと、また共連れになる。
この季節にはやたらと多い学生旅行者ではあるが、すでに院生課程を修了しつつある彼女は普通の学生たちよりもずっとしっかりしている。
モロッコ滞在中に性質の悪いモロッコ人からさんざんな目に遭わされていたようだけど、それを笑い話にできるくらいの強さを持っている。
彼女からは、マラケシュでも、この列車でも、最近の日本の様子をいろいろと聞かせてもらうことができた。
なんだか久々に若い子とデートでもしているかのような気分になれて、おぢさんはとても嬉しかったぜよ。

翌日の飛行機でモロッコを発つ彼女はカサブランカの駅で下車。
列車はそこからさらに一時間、海岸伝いを走ってラバトの中央駅に到着。
旧市街まで歩いて、テキトーに見つけた安宿に投宿。

この日は旧市街をのんびり散歩しながら、新しい靴やズボンを探すことに。
両方とも見るも無残なほどにボロボロで、いいかげん買い換えるべきだと思っていたのだ。
靴の方はコロンビアで買った軍隊用のブーツで、かなり愛着があった品なのだが、もう修理のほどこしようもない程になっていたため、ここでお別れすることに。
ラバトは首都だけあって、さすがに物が豊富に揃っている。
新しいブーツもジーンズも、そこそこ好みのデザインの物を見つけることができた。

翌朝、市バスを使ってバスターミナルへ。
今度はいつも通りにバスを使ってティトゥアンまで移動することに。
ティトゥアンまで行ってしまえば、目的のセウタはもう日帰りで行き来できるほど目と鼻の先なのだ。

ターミナルに着くが、最初は入口がよくわからずに、裏口の方へまわってしまった。
かまわず入ろうとすると入場料を請求する係員が。
モロッコのバスターミナルで入場料を取る所は今までほとんどなかった。
大した額でもなかったので払ってもよかったのだが、どこか他に別の入口がないものかと、念のためぐるっと周ってみることにした。

すると、すでに乗客を乗せてターミナルを出発したばかりのバスが、さらに往来の乗客に呼びかけながら目の前に通りかかる。
「タンジェ、タンジェ、タンジェ!」
タンジェ行きかぁ・・・。
ちなみにセウタに行くにはティトゥアンからでもタンジェからでもそう変わらない距離。
どっちを拠点にしてもよかったのだが、タンジェの場合、バスターミナルから宿のある中心地までが遠いのだ。
ティトゥアンならターミナルから宿のある地区まで徒歩5分で行ける。
宿代はタンジェの方が安いので、タンジェでもよかったんだけれど、一応だめもとでティトゥアンに行きたい旨を伝えてみた。
すると、バスの関係者たちが、なぜか喧々諤々の議論を始めるじゃないか。
彼ら同士の会話は全部アラビア語なので俺にはよくわからないのだが、多くの人が俺をターミナルの方の別のバスに乗るように指差す中、一人のオヤジが頑なにこのバスに乗せるように訴えている。
車通りの多い車道での信号待ちの間の一分間、最終的にはオヤジの話にみな納得したらしく、結局俺は流されるままにこのバスに乗り込まされた。

ティトゥアンを経由してタンジェに行くのかな?
でもそれならあそこまでもめる必要もなかろうに。
ま、無事ティトゥアンに行けるならなんでもいいや。
次のバスを待つのも面倒だし、ターミナルの入場料を払わずに済むならいうことなしだ。

ところがしばらくして、やはり様子が少しおかしいことに気づき始めた。
バスは途中の町々に立ち寄りながら、乗客を入れ替えつつ進むのだが、どの町でも客引きのオヤジは「タンジェ!」としか呼び声をかけない。
ティトゥアンもそこそこ大きな町なので、経由するならティトゥアンの名前も一緒に叫んでいてよさそうなものだ。

ララシェという町に着いた時、ふと近くの席に座っていた乗客が教えてくれた。
「君はティトゥアンに行きたいんだろう?ここで乗り換えた方が早いかもしれないよ」
乗り換えだぁ?
何となく気づいてはいたけれど、やはりそういうことか。
ティトゥアン経由ではなく、タンジェに直行するバスで、そこからティトゥアン行きに乗り換えさせようっていう魂胆なんだな。
ま、それならそれでタンジェでもいいか。
タンジェなら美味いチキンを食わせる店を知っている。
久々にあの味を味わっていくのも悪くなかろう。

気持ちはすでに懐かしのチキンの味へと向かっており、俺自身は全然腹は立っていなかったのだけれど、こういう話を黙って見過ごすと外国人旅行者全体が舐められることにもなるからなぁ。
とりあえずここは形だけでも一言文句を言っておくべきだろう。

ララシェでの休憩中にバスの関係者たちを呼び集め、苦情を述べる。
「聞いたぞ、ティトゥアンには行かないそうじゃないか!ったくこれだからモロッコ人は信用できない!俺はタンジェには用はないんだ!ティトゥアンへ行け、ティトゥアンへー!うがー!」
一応オヤジどもはみなバツの悪そうな顔をしている。
俺は最後の「うがー!」さえ言い放てれば満足だったので、それで済ましてやることに。
「悪いな。タンジェからティトゥアン行きのバスは追加料金なしで乗れるからさ、それで勘弁してくれ」
ま、最初からそのつもりだったのだろう。それほど悪いヤツらではないのだ。
「んー、いや、もういいよ、タンジェならタンジェで。そこからの乗換えだと着くのが遅くなるだろう?」
「そうか、君がいいと言うならそれで問題ないが・・・」

と、そこへ別のバスが通りがかる。
「ティトゥアン、ティトゥアン、ティトゥアン!」
「・・・え?」
「おい、これに乗り換えられるように話をつけてやるよ!もちろん追加料金なし!さ、早く荷物を取り出して来い!」
「え、いや、あの・・・」
「ティトゥアンに行きたかったんだろ?これで何の問題もない。よかったじゃないか!」
「そ、それはそうなんだけど、タンジェのチキン・・・あぐ」

ついさっき「うがー!」と叫んでしまっていた手前、もはや引っ込みがつきにくい。
今さら「やっぱりタンジェがいいです」と言えるほど俺の神経は図太くないのだ。
小心者の俺はまたもや流されるままに乗り換えさせられる。
その後は何の問題もなく、当初の予定通りに、夕方頃に無事ティトゥアンの町に到着。
予定通りではあったけれども、そこはかとない敗北感に包まれる。
うーむ、最初から晩飯のメニューも計算に入れて行き先を決めておくべきだったなぁ・・・。