ティネリール | 旅人日記

ティネリール

Tinghir 砂漠からエルフードに戻った翌日には次の町へと移動。
おぉ、我ながらちゃんと旅を続けているではないか!
もう沈没パッカーなどと呼ばせないぞ、俺だってやる時はやるのだ。
と、過去に何度となく繰り返したたわごとを一人つぶやきながら、次の町であるティネリールに到着。

バスでティネリールの町に着くなり、5人の客引きが押し寄せてきた。
まず一人が「エル・フーダ」という宿の名刺を見せながら「俺のとこに来い」という。
まあ待て待てと、ひとまずかわそうと思ったら、反対側から回り込んだ男からも名刺を見せられる。
「あいつのところはダメだから俺のとこにしろ」
といいながら、突き出した名刺は同じく「エル・フーダ」

ほえ?

他のヤツラはどうかといえば、これまたそろいもそろって皆「エル・フーダ」の名刺やら宿の写真やらを手にしている。
どうやら5人全員が同じ宿の客引きらしい。
この中で客を捕まえたヤツだけが手数料をもらえるのか?
と思いきや、これが彼ら流のツカミであり、宿の従業員総出で出迎えにきているらしい。
ぶははっ、何て暇なヤツラだ。
こりゃ一本とられたぞと、その中のマネージャー格らしいユネスという男に話をつけ、35ディルハムを30まで値切って泊まることに決定。

ユネスはモロッコ人にしてはかなり流暢な日本語を話す。
それも、決して変な言葉を使うわけではなく、極めて礼儀正しい言葉遣い。
他の連中もカタコトながら日本語の混ざった英語を使う。
全員ベルベル人で、会話の端々で、ベルベル語ではこういうんだと教えてくれたりする。
皆、日本人が大好きのようだ。
宿では茶を振舞われ、日本語で書かれた情報ノートを見せてくれた。
お、情報ノートがある宿なんて久々だぞ。
はてさてどんなことが書かれているのかなと、ざっと目を通してみたのだけれど・・・

・・・全ページとも直筆じゃない。
別のノートに書かれたものを一度コピーして、それを張り付けて作られている。
こいつは眉に唾つけて読むべきだなと思いきや、案の定、内容はどれもこの宿に都合のよいことばかり書かれている。
それも、この宿が主催する砂漠ツアーについてのものがほとんどだ。
「最高でした。メルズーガに個人で直接行くよりはずっと安く行けたと思います」といった類のものばかり。
んで実際に書かれている値段を見ると、それって安いのか?と首をかしげたくなるような金額が示されている。

俺みたいにカスバ街道を南下してくるんじゃなく、マラケシュからワルザザート経由で北上してきた場合、リッサニやエルフードの現地情報はわからないからなぁ。
そういう人たちはこれを読んで、安易に決めてしまうのかもしれないけど・・・ま、俺はすでに見終わっているし関係ないか。
宿の連中は親切で気のいいヤツラだし、ここは一つ大目に見てあげることにしよう。

この後、しばらくこのティネリールという町で過ごすことになるのだが、これがまた非常に居心地のよい町であった。
物価はいままでの町で最安。
町の人たちもとても友好的で極めて親切。
モロッコで沈没するべき場所を訊ねられたらまずまっさきに挙げたくなるくらいだ。
メクネスなんかでちんたらせずに、こっちでのんびりするべきだったか・・・。
ま、それはともかく、明日は晴れたらトドラ峡谷に出向いてみるとするかな。