砂漠への道1 | 旅人日記

砂漠への道1

Arfoud2 エルフード2日目、砂漠へ向けての本格準備開始!
とはいうものの、別段大掛かりに隊商を組んで砂漠を横切ったりするわけではないのだ。
ラクダやラクダ使いを雇い入れたり、水や食料を買い込む必要はない。
エルフードから50キロほど南に進んだ砂漠の中にメルズーガという小さな村があり、そのメルズーガ村やそこへ行くまでの街道沿いに砂漠へ向かう旅行者向けの宿が点々としているらしく、要はどの宿を目指すかを決めて、あとそこへ辿り着くまでの交通手段を確保すればいいのだ。
その手の宿に着きさえすれば、あとは宿の方で自動的にラクダもラクダ使いも手配してくれるとのこと。
ま、要するにツアーなのである。

俺がメクネスでチンタラしている間に、旅仲間のタカハシさんの方はすでにこの砂漠の旅を2週間ほど前に終えていた。
彼はエルフードではなくリッサニの方から行ったらしいのだが、彼の話では直接砂漠の中の宿に行くとラクダツアーはかなり割高になるとのこと。
事前にエルフードかリッサニで宿の客引きと交渉して、宿泊料とツアー料金をあらかじめ交渉しておいた方が安くなりやすいらしいのだ。
ふむふむ。そんなら俺も同じやり方で行ってみるとしようか。

ところがエルフードの町中を釣り人気分でぷらぷらと歩いていても、客引きどもの食いつきが想像以上に悪い。
ようやく一匹釣れたと思ったら、これがまたクソ生意気な面構えのチンピラ少年で、値段が折り合わないとわかると悪態をついてくる始末。
リッサニの方はエルフードよりも旅行者が少ないからか、相当な客引き攻勢があるらしいのだが、うーん一体どうしたものやら。
やはり一度リッサニに移った方がいいのだろうか。

ま、そう焦ることもあるまい。
体調回復もかねてこの町でぷらぷらしていれば、その内もっと寄って来るかもしれないし、そうでなければこちらから適当な宿を目指して直接行ってみるのも悪くはなかろう。
多少は高くついたとしても、何もないこの町で無意味に過ごすよりはマシというものだ。

のんびりと土産物屋を物色しながらターバンを購入。
真っ青に染め上げられたターバンで、両端だけが黒くなっている。
これがこの地の遊牧民たちが愛用する定番の柄らしい。

そのターバンを購入した店の連中と、ちょっと仲良くなる。
3人の少年たちが経営する店で、最初は英語交じりの仏語で値段交渉していたのだが、俺がスペイン語で「うーむ、ちと高いな・・・」とつぶやいたのがきっかけで、後はひたすらスペイン語のみでの会話。
彼らは3人とも以前マドリッドに商売で行っていたことがあるらしく、とてもきれいなスペイン語を話す。
スペイン語を話す日本人が珍しいらしく、心底嬉しそうに話まくり、3人揃って売り物の楽器を使ってちょっとした演奏などもしてくれた。
俺自身も、フェズやメクネスでほとんど通じなかったスペイン語が、アトラスの南でもこれほど使えるものかとちょっとびっくりしながらも、とても楽しく歓談。

その内に、俺がメルズーガの砂漠を見に行く話になった。
年長のイスマイルが、これまた嬉しそうに提案。
「俺の友達の家に行こう!ラクダにも乗れるよ!俺らが一緒ならぼったくられたりする心配はない。車もある。明日の朝に出発しよう!」
ちょちょちょ、ちょっと待て。いきなりそこまで話を進めるでない。
「普通に行ってみろよ、ベルベル人のヤツらぼりまくりだぞ」
ん?ベルベル人のヤツらって・・・君らもベルベル人じゃないのか?
「違うよ。俺らはトゥアレグ人さ!」と誇らしげにのたまう。
ふーむ、手持ちのガイドブックには「ベルベル」というのアラブ人が入り込む前の先住民族の総称で、その中にトゥアレグがいたり、ノマドがいたりするようなことが書いてあったりしたけれど、どうも事情が違うようだ。
自らをトゥアレグだという彼ら、確かに他の人たちよりも黒人系の血が濃そうな顔立ち。
俺はベルベルだという連中にも何人か会ったが、そっちの方は顔立ちはアラブ系とそう変わりはないけれど、肌の色が浅黒い人が多い。
かといって人種として明確に分かれているわけでもなさそうだ。
彼らの中には「父親はベルベルだけど、母親はトゥアレグさ」というヤツもいた。
「言葉は全く違うのかい?」と聞くと「いや、結構似てるよ」とのこと。
「ふむふむ。そういえばさ、さっき俺のことをジャッキーチェン!とかいってたろ?ジャッキーチェンは中国人なんだ。んで俺は日本人。日本人も中国人も韓国人も君らから見たら同じに見えるかもしれないけれど、俺らの場合は言葉も全く違うんだ。会話も全然通じないんだよ。知ってた?」と聞くと、
「へえー!ホントに?!全く通じないの??」と心底驚いている様子。
ま、俺らが彼らのことをよく知らないのと同様に、彼らの知識もそんなもんなんだろうな。

「んで、旦那、どうする?明日一緒に砂漠に行くかい?」
うーん、最近は現地民の連中との付き合いが少ないなーと感じていたこともあって、話に乗ってみるのも一興かと思わないこともないのだが・・・。
でもどちらかというと、大砂漠の中に一人静かに身をおいて、できれば誰にも邪魔されることなく物思いに耽ったりしたいところなんだよねぇ。
ちなみに彼らの歳を尋ねると、年長のイスマイルが19歳であとの二人は17歳。
一緒に行って遊ぶのは悪くないかもしれないけれど、こう見えても俺は30過ぎのいいオヤジなのだ。
精神年齢は似たようなものかもしれないが、下手すると単にガキどものお守りになりかねない話なんだよなぁ。
「・・・とりあえず一晩考えてみるよ。一緒に行く気になったら明日またこの店に来るから。誘ってくれてありがとうな!」
日本流ではあるが、婉曲な断り文句を残し店を後にする。彼らに上手く通じていたかどうか。
帰りはイスマイルがバイクの後ろに乗せてくれて宿まで送ってくれた。

ターバン以外に収穫のない一日ではあったが、今日はこの店の連中のおかげでなかなか楽しく過ごせたなぁ。
さてと、明日はどうしたものか。
もう面倒だから、直接砂漠の宿に乗り込んでしまうとするか。