フェズ6 - 手ごわすぎるぜアラビア語 | 旅人日記

フェズ6 - 手ごわすぎるぜアラビア語

Fez6-1 「マブルーク・アリク・ラァン・ジャディッドゥ!」

「明けましておめでとう!」はアラビア語ではこういうらしい。
ここから先の訪問国はしばらくはアラビア語圏が多いので、今年はとりあえずこのアラビア語習得を抱負にしてみるとしようかな。
てなわけで、今日は新年早々朝から茶店の一角に陣取ってアラビア語の会話集や簡単な文法書とにらめっこしながら過ごしておりました。

んでこのアラビア語なんだけれど、いざ学習を始めてみたらこれがまた想像以上に手ごわい代物だっちゅうことがわかってきた。
なにしろスペイン語では主語の人称によって5つに変化した動詞が、アラビア語では男女の違いも加わるために倍の8つに変化していやがるのだ。

わかりやすく例を挙げると、例えば「食べる」という動詞がある。
英語ならイートが一人称単数の場合にのみイーツになる程度でほとんど変化しないので楽なのであるが、欧州系の他の言語ではこれが一人称単数・二人称単数・三人称単数・一人称複数・二人称複数・三人称複数とそれぞれ別の形に変化するものが多いのだ。
例えばスペイン語で食べるを意味するコメールという動詞は主語によってコモ・コメス・コメ・コメモス・コメンと5つに変化していき(スペインでは6つあるが、中南米では基本的にこの5つしか使わない)、それが過去形になったりして時制がかわればそれぞれにまた違う変化をする。
そういう言語を学ぶ際の初歩の段階では動詞の活用変化の習得にかなりの時間を費やさなければならないものなのだ。

同じようにアラビア語でも、「食べる」という意味の動詞のクルが主語によって変化していくのだが、スペイン語では区別のなかった二人称単数男性と二人称単数女性、三人称単数男性と三人称単数女性、二人称複数と三人称複数もそれぞれ明確に区別しなければならない。
つまりクルという一つの動詞がナクル・タクル・タクリ・ヤクル・タクル・ナクルー・タクルー・ヤクルーの8つにも変化した上に当然それぞれ時制によっても変わってくるというわけだ。
それほどまでにきちんと区別して使い分けているのはある意味凄い連中だなぁと感心していたら、よく見るとこのクルの変化でもそうだが「あなた(男性単数)が食べる」と「彼女が食べる」の時は共にタクルという同じ形の表現をしていて、スペイン語同様に主語はほとんど省略されるというのにこの場合はいったいどうやって区別しているのやら、ますますもってわけがわからない。

発音そのものもかなり難しい。
過去に数種類の言語を学んだ経験から、日本語にない音を出すのは結構得意な方で、ここでも現地人から「発音上手いなー」と褒められることもちょくちょくあるのだけれど、それでも何度発音してもらっても真似することの難しい音がいくつかある。
特に喉の奥の方で発音する「ハ」行の音が2種類あって、その微妙な違いがなかなか使い分けられない。

さらに文字通りに読めない単語ばかりで、単語を覚える時には綴りと同時に発音も覚えなくてはならない。
その点、ほぼ字面通りに発音できるスペイン語や、ある程度の規則さえ把握すれば初めて目にする単語でも読むことができるポルトガル語はまだ楽な方であったといえる。
発音も一緒に覚えなければならないという点では英語もそうなので、その感覚でいけるのかと思えば、そう単純な話でもなさそうなのだ。
例えば「メクネス」という地名はアラビア文字では「ﺲﺎﻨﻜﻣ」で、それをそのままローマ字に直すと「Mknas」となる。
んじゃ「メクネス」ではなく「ムクナス」に近い発音なのかというと、そうではなくてちゃんと「メクネス」と発音されている。
英語なら文字通りの発音にはならなくても、母音そのものが省略されることはほとんどないので、慣れれば初見の単語でもその形を見ればなんとなくどう発音するかが想像できたりするものだが、こうきっぱりと省略されていると想像もつかないことが多い。
要するに単語ごとにきちんと覚えなくてはならなさそうな感じなのである。

文字は当然アラビア文字で、右から左に流れるように書かれている。
このアラビア文字については、実は以前ペルシャ語やウルドゥー語を少しかじった時に学んでいるので、文字そのものの読み書きはできるのだ。
だから全く知らない状態から学ぶよりはまだ入りやすいのかもしれない。

一番辛いのは、フスハと呼ばれる標準アラビア語というものがあって、これはアラビア語圏の小学生以上なら誰でも理解するいわゆる国際共通語なのだが、実際に各国で話し言葉として使われているのはアンミーヤと呼ばれる各地の「方言」だという点だ。
モロッコではダリージャと呼ばれるこの方言、標準アラビア語とは文法的にもかなりの差異があるようで、俺が見た感じではスペイン語とイタリア語の違いぐらいの差がありそうなのだ。
当然各国の方言もそれぞれ違うわけだから、モロッコのダリージャを覚えたところで、それはエジプトに行った時にはあまり役に立たないということになる。
実際、アルジェリアに仕事で行ったことのあるモロッコ人に聞いてみたら、お隣のアルジェリアでさえモロッコのアラビア語は通じないため標準アラビア語で会話しなければならなかったそうだ。
つまりどういうことかというと、とりあえず標準アラビア語を学んだ上で、実際には各地でそれぞれの方言も合わせて使えるようにしていかないとならないというわけなのだ。
それってめちゃくちゃ面倒な話なんでないかい・・・?
広大な大陸の中で、地方によって言い回しや発音に若干の違いはあるものの、ほとんど全く同じスペイン語で通すことのできた中南米とはえらい違いである。

うーむ、なんだか難しいことだらけで初っ端から挫折しそうな感じがしてきた・・・。
わずかな救いとしては、時制の変化が少ないのと(現在形と現在進行形の区別がないらしい)外国人が覚えようとするのが嬉しいらしくて現地人が発音なんかを一生懸命教えてくれるってことかな。
日本人にとってなにかととっつきにくい言語ではあるけれど、ようやく文法の基本的構造がおぼろげながらにわかりかけてきたところ。もう少しだけ頑張ってみようかな・・・。

む、気がついたら新年早々に読者の人たちにはどうでもいい話を長々と書き連ねてしまった。
こんな言語オタク的な話はともかくとして、とりあえずは今年もいい一年になりますように!

えーっと今年は平成18年になるのかな? 
元旦、フェズより。