ユダヤ人による陰謀論の本城本丸といえば「シオン賢者の議定書」(以下プロトコル)と呼ばれる文書であろう。

この文書の存在が今日のユダヤ人世界支配陰謀論の骨格をなしている。

ユダヤ人による世界支配の陰謀論はフランス革命からロシア革命の間に世界に広がっていった。その普及に最も貢献し、社会に最も深刻な影響を与えたのがこの「プロトコル」だ。この文書はユダヤ人陰謀論の典型例であり、後代のあらゆるユダヤ陰謀論は「プロトコル」のバリエーションにすぎない、と言ってよいだろう。

「プロトコル」はユダヤ地下政府の会議で語られた世界支配計画が流出したもの、とされる。そこに描かれたユダヤの計画とは以下のようなものだ。

 

・国家の秩序と安寧は、身分制と教会の権威によって保たれている。われわれはそれを破壊するため、諸国家の内側に潜み、各種の秘密結社を手先に使って自由主義・社会主義・共産主義・国際主義を蔓延させた。大衆に偽りの自由と権利を与え、支配者と敵対させ、国家を崩壊させた。フリーメイソンを使ってフランス革命を起こしたのもわれわれである。

 

・身分制と教会の権威にもとづいた秩序ある当地の代わりに、すべてが金で動く世の中に変えなければならない。大衆には高度な政治や宗教には関心を持たせず、金と快楽のみに目を向けさせようとした。われわれは意図的に経済不安や失業者の群れを生み出すこともできる。われわれは絶大な経済力によって、国家や大衆を自由に操れるのだ。

 

・われわれはメディアの情報を完全に支配している。ある事柄に対する賛成意見も、反対意見も、中立意見も、すべてわれわれから発している。そうすることで、われわれにとって真に都合の悪い物事には気づかせず、人々を思うままに操ることができる。

 

・「新しい」学問や知識は、非ユダヤ人の青少年を誘惑し堕落させるために、我々が作り上げた。ダーウィン、マルクス、ニーチェはわれわれの手先である。またわれわれは、賭博や遊興場、スポーツといった娯楽を大衆に与え堕落させ、愚民と化せしめる。

 

・われわれは二千年に渡って、非ユダヤ諸国に不和や猜疑の種をまいてきた。それらの国々の国家的、民族的、宗教的な敵対関係はわれわれが育て上げたものである。反抗する国家があれば、それらの対立を煽り、戦争を起こさせる。

 

・国家、民族、宗教、それらの秩序ある枠組みをわれわれは破壊する。国際主義はそのための道具である。そのうえで、髪の選民たるわれわれが支配する世界政府が打ち立てられる。

 

・すべての秩序が破壊され準備が整ったところで、ユダヤ人の王が登場する。われわれは絶対的な専制でもってすべての秩序を取り戻し、大衆は無批判に服従することになるだろう。

 

なお、「プロトコル」が述べているような娯楽による愚民化政策は、セックス・スポーツ・スクリーンの頭文字をとって「3S政策」とよく称されるがユダヤ人の陰謀以外にもよく使用される定番ものなので覚えておくとよいだろう。

「3S政策」を謳っているものがあれば大体怪しいものと思ってその情報の出自を確認することが必須だ。

例えばトルーマンの日本人愚民化政策だ。

 

話がそれてしまったが、「プロトコル」は1903年ロシアの8~9月にロシアの新聞「軍旗」に掲載されたものが初出で、その後シベリア出兵に参加した国々を中心に世界中に広まることとなる。

 

「プロトコル」が偽書であることは明らかになっている。ノーマン・コーンの研究によれば、その成立時期と場所はドレフュス事件の真っただ中の19世紀末のパリ、製作者はロシア警察である。その目的は帝政ロシアの存在を脅かす自由主義的・近代主義的潮流の責をユダヤ人に帰し、ユダヤ人迫害を煽り、既存秩序の正当化と延命を図ることだったと思われる。

「プロトコル」の内容の半分近くは、フランスの弁護士モーリス・ジョリ著「マキャヴェリとモンテスキューの地獄での対話」から盗用されている。この著作は、モンテスキューとマキャヴェリというという政治思想における著名人の対話という形式で、ナポレオン三世のフランス第二帝政を批判するために書かれたものである。モンテスキューが自由主義を擁護し、マキャヴェリがナポレオン三世側に立つ。後者が語るのは、政治はモラルとは無縁だ。愚かな大衆には見せかけの民主制を与えて目を眩ませていればよい、といった主張である。「プロトコル」はこの自由主義擁護の書から、悪しき現状を代表するマキャヴェリの言葉を盗用した。そして、それを自由主義の「正体」の説明に歪め、全く逆の意図を持った文書をねつ造したのである。

 

 

続く・・・

 

 

 


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