今、巷には陰謀論があふれているように感じる。

 

一昔前はそれらの陰謀論はエンターテインメントの一種であり本気で信じるような人たちは

少なかったし、また本気で信じるような人たちは嘲笑の対象になっていたように思う。

 

しかし、今の日本において陰謀論を唱える怪しいYoutuberに賞賛のコメントを書き込む輩の

なんと多いことか。

日本人の知性と教養はここまで落ちたかと嘆いてみても始まらない。

彼らが根拠のない陰謀論を唱えるならそれは事実ではないことをこちらも強弁していくしか

ないのだ。

 

私がこれほどまでに陰謀論に危機感を感じるのは過去にその陰謀論が遠因で虐殺や

戦争まで起きているからである。

そして、わが日本も陰謀論の犠牲になった歴史がある。

 

私が過去に日本がどうして太平洋戦争をせざるを得ない状況まで追い込まれたか過去に

調べたことがあるとブログ記事に書いた記憶があるがその要因の一つに「田中上奏文」(Tanaka Memorial)という文書の存在がある。

1927年に田中義一首相が昭和天皇に上奏した侵略計画とされ、その存在は1929年中国の

「時事日報」で初めて紹介された。そこには「支那を征服せんと欲せば、先づ満蒙を征せざるべからず。世界を征服戦とすれば、必ず先ず支那を征服せざるべからず」と記されており、日本による世界征服の計画書とみなされた。文書では第一期台湾、第二期朝鮮半島、第三期中国征服と計画の段階が示されている。

 

当時の日本政府は偽書だと主張したが、1931年に満州事変が勃発するとこの文書は真実味を帯び、対日プロパガンダにおおいに利用されることとなった。ハリウッドの監督フランク・キャプラによるプロパガンダ映画「The Battle of Chaina」や「Know Your Enemy:Japan」では

「田中上奏文」を日本の「我が闘争」と評している。最終的には採用されなかったが。東京裁判でも連合国側は日本による世界征服の共同謀議の証拠として「田中上奏文」を用意していた。

 

現在では「田中上奏文」は偽書であるというのが一般的な見解である。九か国条約締結前に亡くなった山形有朋が条約の内容について大正天皇と密儀を交わしているなど、明らかな事実との相違も散見される。にも拘わらずこの文章は、中国やロシアを中心に世界征服の計画書としていまだに広く信じられている。

 

19世紀末には、黄色人種による世界侵略の脅威を唱える黄禍論が白人社会を」席巻していた。イギリスの作家サックス・ローマーによって生み出された世界征服を企む悪の東洋人フー・マンチュー博士はポピュラーなキャラクターとして人気を博し、アメリカの作家、ホーマー・リーは1909年の「The Valor of Ignorance」で日本について「やがて地球の未開発の富の大部分を支配し、アジア的な好戦性および産業主義が世界の主権を握り、ミカドが王たちに君臨するミカドになるであろう」と述べている。

「田中上奏文」にかぎらず、大日本帝国の世界征服は現実味を帯びたテーマだった。

私たちもかつては「陰謀」を疑われる側、世界征服を狙う人種と思われていたのだ。

 

私はもし、「田中上奏文」なるものが無かったとしたらルーズベルトの対日観は対日参戦を

決意させるほど悪くはならなかったのかもしれないと考えている。

 

だから私は安易に陰謀論を吹聴する方々に言いたい。

陰謀論を信じたり楽しんだりするツケはいつ自分たちに回ってくるかもしれないということを

肝に銘じておくべきだと。

 

 

 

 

 

 


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