私には幼なじみがいる。



聞かれた問題にはほぼ何でも答えられるくせに、学校での成績はビリ。 



周囲からはキチガイだの馬鹿だのとにかく距離を置かれていた。 



「アーちゃんは文字が書けるのかい?……スゴいね。」



これは岡本君が小学生の時、私にかけた言葉。



岡本君は先生に呼ばれて真っ黒に塗り潰されたノートについて聞かれていた。



「どうしてこんな事になってるんだ?」



「黒板の白い奴を写せと言われたので。」



岡本君は方眼ノートを一マスずつ丁寧に塗りつぶしていた。 



「文字ってのは難しいです。粒を並べる事でそれが“あ”だとか“う”だとか……僕には違いが分からないです。」



岡本君は変わっている。



その後先生に平仮名を書いてみろと言われ、見本の文字を見ながら岡本君は鉛筆の芯を磨り潰して手とノートを黒光りさせながら、平仮名を描いた。 



とても書いたとは言えない、あまりに不恰好な文字達。



その日から岡本君は先生に無視され始めた。 



「アーちゃん、僕、おかしいかな?」



私は“別に、いいんじゃない?”と答えて、岡本君といつものように過ごしていった。



岡本君の名前はヨウスケと言うらしいが、どうやって書くのかは分からない。



本人が字が書けないから。





地元の中学に上がった私達がぶち当たった壁はいじめだった。 



岡本君はキチガイ。



私は保護者。 



文字が書けない岡本君は思春期の頭の悪い同級生達の恰好の餌食になった。



しかし同級生がいじめる事ができるのは文字の事だけで、思いの外頭のいい岡本君と口論になると完膚無きと言うほどまでにズタボロにされていた。 



そうなると次は『保護者』である私の番だ。



とにかく、言い負かされた同級生達は私に矛先を変え、からかった。 






そんなある日、事件は起きた。 



岡本君がからかうのが一番酷かった同級生の頭を掴み、地面に叩きつけたのだ。



冷徹に、無慈悲に、淡々と。 



岡本君曰く「ただ抑えつけただけだよ、あんまり暴れるから地面から剥がれてばっかりだったし、大変だったよ。」だそうだ。



この物言いに私は少し、恐怖を覚えた。 



岡本君は変わっている。



地面に叩きつけられた同級生は、頬骨が陥没し、全治三ヶ月だった。 



その時二週間の謹慎を受けた岡本君はこう言った。



「アーちゃんを馬鹿にするから許せなくて、謝らせようとしたけど、地面につかなかった。ごめんね、僕が馬鹿なばっかりにアーちゃんを巻き込んじゃって。」



岡本君は、無垢な顔で申し訳無さそうに私に笑い掛けた。 







「アーちゃん、何で重なってるのに触った感覚がないんだと思う?」 



私は初めてこの言葉をかけられた時、岡本君は景色に触れていると勘違いしている事に気が付くことができなかった。 



「神経って奴は、随分と怠けてるね。」



その時やっと気付けたのだが……岡本君の感じている、視ている世界は平面だった。



常に岡本君は立体を平面に、平面を線に、線を点に見ていたのだ。



もしかしたら時間すら、立体に見ていたのかもしれない。 



岡本君は変わっている。



岡本君は字が書けない。



岡本君の少年期の話はこれでお終い。 



岡本君の行動を文字で表そうとするのは私には難しい。 



だって岡本君は私と見ている次元が違うから。 



蟻に人間の思考が理解できないのと同じで……。








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昨日書いた文章が消えたorz 



初めから書きなおしたが、あまりの文才の無さに泣けてくるね。 



次元を一段下の次元で把握している男の子『岡本ヨウスケ』君。 



時間と暇がもっとあれば、もう一度この題材でしっかりとしたモノを書きたいもんだね。 



即興で分かりにくいと思うが皆さんすまない。 



コーロー、こんな感じの世界でなんとなく理解できただろうか。